記憶の欠片の物語7
※書き下ろし
チリンチリンてベルの音がする
眠りの沼から引きずり出された。
結構深く寝たらしい。たった30分くらいだけど
あいつ帰ったのか?シーンとしてる
辺り見回すと床に座り込んで本棚の本よんでた。
トマスがやってきた。床に座り込んで本を読んでる彼を見て小さく首をふった。彼的に行儀が悪いらしい
熱い渋めの紅茶を淹れてくれた。「おまえお茶いらない?」
本から顔もあげずに熱中してる何の本読んでるんだろう?声をかけるけど無視された
「おいっ!」と声をかけたらびっくりした感じで振り向かれた。
「あ…ごめん。つい熱中して。植物学の本だよ」
「お茶」
「あ、もらう。」
こいつも俺と同じで夢中になると人の声がシャットアウトされるらしい。
トマスはやれやれ。といった感じでお茶を注いだ。「お客様、どうぞ」
ありがとうございます。っていってその場で飲み干した。トマスはぎょっとしてる。
「あの、トマスさん。昨日はありがとうございました」トマスは何のことかわからない様子だ。
「昨日ベッドルームに運び入れてケガの手当てをした件だよ。あと食事とかいろいろ」
「ああ!具合が良くなって安心いたしました。
お気遣いありがとうございます」
「もっと早くお礼をいわなくてはいけなかったのですがバタバタしてしまって今になってしまってすいません。いろいろ良くしてくださってありがとうございます。」
トマスがフフっと笑ってる
「すべてこちらのフレデリックさまのご指示ですよ。
お礼をいうならフレデリックさまに」
「あ、そうか。ありがとう。そういえばお礼をいってなかったの今思い出したよ。」
「そういやそうだったな」
食事の支度が整いましたのでダイニングにお越しください。
夕食は客人ということもありフルコースだった。
彼は目をキョロキョロさせている。
好きに食べたらいいさ、ここにはふたりしかいないし。
マナーもまあ、そこまで悪くはなかった。所々??てところはあったけれどとても美味しそうに食べていた。見ているこちらが痛快なくらいよく食べてた。
「これはうまい!」とか「ああ!素晴らしい」とか
いちいち感動していて見てて面白い
(こんな食事のしかたしてるやつはじめてみたし)
礼儀を知らないのは環境がそうだっただけで根本的な間違いではない。ただ「知らない」「そういう事がはじめて」というだけで。「知る」と変わるだろうし。
仕草の端々、口調のひとつひとつ、そういう事が
今後を切り開く鍵になる。
そういや喜怒哀楽もまるごと顔にでるんだよな。
それも新鮮といえば新鮮。
こっちは表情に出すなと訓練されてきたし。
顔に出ると足元みられる。だから表情に出すなと厳しく仕込まれたから。
食事のあとリビングに戻ってお互い好きな椅子に適当に座ってそれぞれ勝手にしていた。
なあ、馬鹿にされたくないっていってたな。
「悔しい」「けどどうしたらいいかわからない」ともいってたよな。
うん、言ったね。
変えたいか?
まあ、そりゃねえ。
「悔しい」は恨みに変わって自分を腐らせていくかそれを羽ばたく燃料に変えるかはおまえ次第なんだけどさ。おまえどっちがいい?
そりゃ「燃料」だろ
そうか。わかった。
なんだいそりゃ。
いや、ちょっとね。
話かわるけどさあ、本棚の本少し借りたりとかできる?
かまわないよ
ありがとう。本は高価だからなかなか買えなくてさ。
そこにあるやつもう全部読んで覚えてるから
持って帰っていいけど。返せよ。
こういう会話はじめてかもしれない。
「友達」ってこういう感じなのかな。