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裏ひよこ日記。それから一年半後


深夜2時。寝るはずだったけど目が冴えて眠れない。明日は仕事で早く起きないといけないのに全然寝れる気がしない。はー、どうしよ。

…どうしたの?

明日早いのに寝れない…
僕もまだ眠れないから少し話をしようか

向きを変えてこの間出かけた先のジェラートはストロベリーが美味しかったとか、パスタは何ミリが一番お気に入りかとかそんなような話をしていると気が紛れてウトウトしてくる。小さな淡いベッドランプの灯りにぼんやりとアルベルトの表情が見てとれる

こういうのに毎晩付き合わされるアルベルトもめんどくさいかもしれないが、いまはしかたない。わたしは今妊婦さんなのだから。


全く兆候に気が付かなかった。最近やたら眠たいし、なんか胃が重たいし食べすぎたかなー?ぐらいにしか思わなかった。仕事が立て込んでいて新しいプロジェクトの立ち上げとか後輩の育成指導とかなんかいろいろたくさんすることがあってだからつかれてストレス溜まってるのかな?とか位にしか思わなかった。そしたらコレである。

ある年の初夏の日曜日の昼下がり。
休日返上でずうっと仕事していた。当然2人はわたしが深夜残業連発連チャンなため相当なおかんむりであったがしったこっちゃない。翌週に控えた研修資料作成に追われているし、新人ちゃんに仕事を教えないといけないし、もともと持ってる自分の仕事もあるしなんだかんだと言い訳しまくり深夜休日問わず仕事しまくっていた。
やっとできた久々の休日のため、部屋を片付け、自分の洗濯物を洗濯機に突っこみ、掃除機をかけ棚を拭いたり整理整頓してさあ、お昼はピザのデリバリー!て時になんか味がおかしくない?…タバスコかけすぎた?と思い、レモネードがめちゃくちゃ美味しくて、2人にこのピザ味がなんかビミョーなんだけど?て言ったら
フレッドが???て顔してアルベルトがひよこちゃん、体調どうなの?て聞かれてあーダイジョブダイジョブ!!と椅子から立ち上がると電気が消えた。…というか立ち眩みを起こしてその場に崩れ落ちた…らしい。らしいは覚えてないからそうらしい

気がついたら病院のベッドに寝ていて過労で貧血でも起こしたのかな?とかぼけーっと考えていたら4ヶ月です。とか言われて血の気が引いた。

…はい?何かの間違いじゃないの?誤診じゃね?とか思ったが事実そうらしく
頭がはっきりしないまま超音波検査などされ、
エコー写真に写る小さな物体を見て固まった。

アルベルトは気が動転したらしく軽く目眩とパニックを起こし看護師さんに連れて行かれた。

フレッドはポーカーフェイスでこういう場面でなるとことさら全く感情を顔に出さない(という訓練を幼少の頃から叩きこまれている)のでほんとうはめちゃくちゃ複雑な気持ちだったんじゃないのかと思うのだけれど、わたしの超音波写真を取り上げてまじまじとみて
やばい。もうかわいい。既にかわいい。何が必要なんだ?どんなことしたらいいんだ?パリはこの子にとって過ごしやすい場所なのか?田舎に引っ越ししたほうがいいのか?と意味がわからないくらい先の話をまくしたてはじめた。

だんだんと正気にかえるわたしが仕事どうしたらいいのよ…と頭を巡らせていると
大丈夫だ全部上手くいく。全部わかっていた。問題ない。という事をいった。

…問題ないわけねーだろーっ!!
がわたしの本心だった。

そりゃ、もちろん嬉しい出来事だ。
だけど複雑だ。今じゃなくてもいいじゃない?
始まったばっかりのプロジェクト、新人の育成、研修の講師、2人の事。自分の事
たくさんたくさん考えないといけないことがあって単純に喜ぶという事ができなかった。
もちろん表面上は笑顔を絶やさないように心がけた。

アルベルトがしばらくして病室に戻ってきた。
ハラハラと涙を零してありがとうありがとうと
ぎゅうっと手を握ってきた。
痛いくらい気持ちがわかるから
余計素直に単純に喜べない自分が苦しい。

しれーっとした表情のフレッド。
目が合う。

めちゃめちゃ居た堪れない。
早くひとりにしてほしかった。

アルベルト、看護師から今後の話があるからナース・ステーションに来いってよ。とフレッドが言い、行くぞと2人は病室から出ていった。

どうしよどうしよ、とりあえず頭で考えるより紙に書き出したほうがいいかもしれない。
それからミラ専務に話しないと。
やりかけのちゅーぎんの査定があった!
あれ早くやらなくちゃ。…えっとそれで…

…ためいきしかでない。

どうしたらいいの…なんかもう泣きそうだった
てか泣ける。まじでどうしたらいいんだろう


音も立てずにフレッドがそこにいた。

…おい

ギョッとした。

泣くな。わかるけど。

しばらくアルベルトは事務手続きとかで戻ってこない。

あのな

はい

落ち着け。大丈夫だから。

でも  

言わなくていい。わかっていたことだ。

おまえの子どもならオレの子どもと同じだ。
そうだマギーとトマスに連絡しないと。


こっちもあっちもこのコの部屋を作らないとな。必要なものを揃えて。それから…仕事。
こればっかりは今までみたいな仕事のしかたはさせられない。仕事の仕方を見直すいいチャンスだ。

あの

なに?

ごめんなさい

ポロポロと涙が出てきた。

あやまることなんてなにもないしされてない。

あたまをポンポンとしてくれた。いままで一番特上の優しいふんわりした笑顔をみせた

何があっても変わらないし離れないし、俺を見くびるな。

うん


それより

うん

何だこの数値はっ!!食生活もなんもかんも見直せってクレアからバチバチに突っ込まれたぞ!!

血液検査の紙をひらひらさせていつものフレッドに戻った

ひ?

これからは好き嫌いは認めないからなっ!!












まあ、あれからめちゃくちゃ安定のフレッドママに体調管理ちゃんとしろ!





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