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ひな
5月、娘が生まれた
生まれてくるまでの十月十日
私にはとても長い道のりだった
自分という人間をこの世でいちばん信用していない
故に、この私が、無責任に新しい命を宿したこと
心底罪深く感じた
妊娠中、たまらなく不安で
ごめんね と嗚咽しながら、お腹を撫でた
そんな日が何度あったか分からない
自分の不安と比例して日に日に大きくなるお腹
不安の塊のように思えた日もあった
靴下なんて自分で履けない
歩くのも息苦しい
寝苦しくて寝返りばかり、深く眠れない
ネガティブすぎる
あまりにも希望がない
予定日
いつも通り検診へ行く
胎動が鈍い
心拍が弱い
「緊急帝王切開であと30分で取り出します」
なにがなんだかわからない
わからないまま仕事中の夫に電話をして
わからないまま手術台にのぼる
麻酔を打たれて数秒
身体の感覚がない
こわい
こわい
こわい
でも不思議と
お腹に宿した命を絶対に守るという心意気だけはあった
心がとっ散らかっている
そうして娘はあれよあれよという間に
この世に誕生した
術後意識が戻って目を開けたら夫がいた
ありがとう と言われた
半べそをかきながら、私の手を握って
病室ではじめて娘を抱いたとき
涙がぼろぼろ溢れた
不安じゃなく、それは希望の涙だった
とても会いたかった
会いたくてたまらなかった
夫によく似た とてもかわいい女の子だった
そうして私はいつのまにか母になった
案ずるより産むが易し
本当にその通りである
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陽菜
そう名付けた
春に生まれたかわいいこ
あたたかく まあるいひかり
万物を照らす やわらかい春の陽射し
そんな豊かで思慮深い、やさしいひとになってほしい