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2023/07/17 君たちはどう生きるか・アニメ

君たちはどう生きるか

見てきた! うぉ~なるほどなという感じ。いろんな反響が聞こえて来ていたけれど、自分としてはシンプルに良かったなと思った。

戦時中に病院の火事(空襲に寄るものか?)で母を失い、都会から田舎へと疎開してきた少年・眞人。気丈に振る舞いつつも母の死を引きずっている彼は、次第に青鷺が語りかけてくるなどの不思議な体験をする。このあたりの描写は彼の見る幻なのか現実なのかよくわからず、なるほどこれは眞人の内的世界と現実とが重なり合っているのね、なんて感じで見ていた。ところが、継母の夏子を探して謎の塔に入ったあたりからは確実に舞台は幻想世界になっていく。
こうして、作品は現実世界から幻想世界へと次第に移り変わっていくのだが、本作に登場する様々な物事には、この現実と幻想がぴったりと薄皮を隔てて寄り添っているように、二面性を感じさせることが多かった。ちなみにこれは嘘であり真であるという、アニメーション的なあり方とも重なるように思う。キービジュアルにもなった嘘しか言わない青鷺というのも、嘘と真が重なり合っている存在である。

主人公である眞人に、表面上の振る舞いと内面に乖離があるのは先に触れた通りだ。母の死の悲しみを隠し持つ以外にも、大人しげな彼が同級生との喧嘩の後に悪意を持って自分の頭を傷つけた、というのもその一つだろう。他にも優しい父は戦争の利益で工場を回している人だし(母を殺した火を間接的にもたらしている)、優しく美しい継母の夏子も幻想世界で出会った時に眞人を憎んでいるかのような発言をしている。これらはどちらが真実というわけでもなく、複雑に絡まりあった人の両面という感じだろう。
また幻想世界では、世話役の老人や死んだ母が若い姿になって出てきたり、また先の青鷺が巨大な鼻を携えた人の姿になったりする。つまり、現実と幻想の2つにおいても、老/若、死/生のように、同じ存在の2つの状態がひっくり返ったりしている。

終盤、この映画には幻想世界を司る老人が登場する。幻想世界の神的存在はアニメ映画における監督、すなわち宮崎駿氏を思わせる役どころだと思うが、一方で少年・眞人もまた宮崎駿氏めいている(彼の実家は航空機部品製造会社で、太平洋戦争も経験しているという)これもまた、宮崎監督の二面性と捉えることができるだろう。
そう考えると、この二人の問答というのは、宮崎監督の自問自答のようなものではないか。積み木を積み上げ死にゆく世界を見つめる老人と、これからの人生を歩もうとする少年。この2つが宮崎駿氏であるとするならば、たとえ結果がどうであろうと、自分はこう生きたのだという表現のようにも思える。私は多くを拾えたわけでもないが、宮崎作品のセルフ・オマージュめいたものが本作には散りばめられている。
「君たちはどう生きるか」にも何かしらの別の面があるだろう、とこの言葉をも裏返して見るならば「私はこう生きた」となるのではなかろうか。
それにしても、同じく神隠し作品であるところの「千と千尋」あたりに比べると、正直言って「君生き」の幻想空間にはあれほど心惹かれる感はなくて、少しばかり”ありきたりさ”を感じてしまったのだけれど、でもその感じがこの映画においては正解なのではないか、とも思う。最後に眞人が現実へと持って帰った石をつまらないもの的なニュアンスで語っている(うろ覚え)のも、本作のあり方を示すものではないだろうか。

ところで、本作において極めて頻繁に登場するモチーフが鳥である。これは眞人を何度も脅かす恐ろしげな存在でもあるのだが、この映画は戦時中という舞台で、更に航空機部品製造会社が絡んでくるわけだから、どうしても空を飛ぶ鳥に戦争の空を駆ける戦闘機を重ねてしまう。先程人の二面性だとか、宮崎監督の自問自答なんて話をしたわけだが、この鳥のモチーフから私はどうしてもミリタリ趣味と思想的に反戦という、相反する内面を抱えた宮崎監督のバックボーンを感じてしまった。戦争産業で潤う父のことを眞人は明らかに良く思っていないのだが(父の工場というのは、作中で一度も描かれたことがない)しかし戦闘機のキャノピーが並べられている光景を見て「美しいですね」とぽろりと口にしたことに、なんだかとても真実味があるように思ってしまうのである(そこまでの流れからすると違和感があるぐらいのセリフだが、こう言わせている)
個人的にも、オタクをやっていて、メカ/ミリタリ的趣味に結構理解があるのだが、一方で思想的には反戦方向が強めではないかと思っている。だからなんだかこう、ここに関しては妙に突き刺さってしまったところもある……。

最終的に、眞人やインコの軍人は現実へと戻り、全て”現実的な姿”に戻っている。戦闘機の落とす攘夷弾がインコのフンになって、全員フンまみれで笑うなんて、なんとも平和的ではないか、と思う。
自分はろくでもないオタクだから、あまり「アニメを辞めて、現実に帰ろう」なんてメッセージはあまり好きではないのだけれど、本作の現実への回帰にはもっとナチュラルなものを感じるようにも思っている。それはこの映画で繰り返し、捕食や生殖といった、生と死を繰り返す生物のあり方が描かれてきたからかもしれない。積み石のように積み上げたアニメもいつしか崩れてしまうかもしれないけれど、それもまた大きな自然の営みの一部かも、なんて思わせられるというか。ある意味では、宮崎駿82歳の境地だからこその、緩やかさなのかもしれない。
まあそもそも、眞人は本「僕たちはどう生きるか」を読んで涙を流したように、幻想と現実は互いに影響し、重なりあっているわけだ。だからああいい映画だったなぁと映画館を後にして、現実の空を見上げた時に、どうしたって話してみたさが浮かんでしまうわけだ。いろんな人が映画を見てたわけだけど、インコ兵士がただのセキセイインコになる様子を見てさ、じゃあ「君たちはどう生きるか」ってね。

ところで、ちょっと調べたらこんな記事が出てきたし、やっぱり『風立ちぬ』は見なくちゃなぁ……。

アニメ

ワンルーム勇者3、正宗くん3、シンデュアリティ1、もののがたり15。

ワンルーム勇者、面白いな……僧侶のキャラ付けが良かった。憎めないが、抜け目ない。思ったよりきっちり勇者設定に真剣で、物語が終わった後もなんだかんだで人生は続いてしまう、ということをきっちりやっている印象がある。好感触。

シンデュアリティ、録画で。なかなかいいんじゃないですか? ロボもいいけど萌えが結構あるのが嬉しいね。エリーたも一本で行く。

もののがたり、前半百人一首サークルから後半の落差がすごい! ちゃんと前半のワイワイが後半とのギャップになってるだけじゃなくて、百人一首サークルの掘り下げと、牡丹にとって失い難い平和なんだな……ということが伝わってきて良い。兵馬さんも超カッコいい。やったれ。

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