2020/07 触れた作品の記録

日記にて触れた作品群のまとめを若干手直しして残しておく。
77円セールで購入した芳文社コミックの感想が多め。まだまだ読んでいないものがあるので読んでいきたいところ。

『どうして私が美術科に!?』全3巻

TLのきらら読者から圧倒的に支持されていると感じる作品だったが、事実読んでみると確かに抜群に面白い。電車内で読んでいて普通に涙を流しそうになってしまったし、読みきらなかったので早足で帰って読破した。4コマのテンポ感をしっかりと掴んだコメディ要素と、美術というテーマに説得力を生み出すディテールの細かさ。そしてその上で各登場人物の抱く、仄暗さを内包した感情は迫真の描かれ方をしており、それによって生み出される人間ドラマの面白さが際立っている。確かにどれをとってもハイレベルかつ、そして一般的にイメージされるきらら4コマの魅力というものをガッチリ掴んだ王道の路線でもあると感じる。
読者間ではもっと長期連載のポテンシャルがあるだろう、ということで無念の3巻完結であったようだ。確かにそういう部分を意識しつつ読むと終盤で畳みに来たのかなという感覚はあり、作品の終わりそれ自体はとてもきれいな着地であったのだが、しかしもっともっとこの世界に浸っていたい気持ちも確かにあった。
そうした事情はともかくとしても極めて完成度の高い作品であった。どこが魅力かと言うとやはり人物描写で、各々違う思想や価値観を持つであろう人々が、しかし奇妙に寄り添っていけるその様に温かみを感じる。表面上は当然"キャラクター"である属性とでも言うべき強い個性を持った彼女たちだが、しかし物語が進むにつれて各々が抱える悩みや葛藤、嫉妬といったものが真に迫る筆致で描かれ、そこにはたまらなく"人間"を感じてしまう。そうした二面性を感じさせつつも、同時に人物としてはちぐはぐにはならないような人物造形のバランスが卓越していた。
勘違いからスタートして、いつしか放課後に「美術X室」に集まるようになったいわば落ちこぼれの集まりである彼女たちだが、いつしかその集まりが他でもない"居場所"となっていくのもとても良い。様々な事情や想いを抱える彼女たちにそっと寄り添い、それを肯定してくれていくような優しい作風に涙を流した。

『スローループ』1巻

これもまた面白い。「釣り」を題材にしつつ、同時に片親を亡くし再婚にて家族となった二人の少女と、彼女たちを取り巻く周囲の人々の交流。これも感情の描写が非常に良くて、どこか距離を感じてしまう人々の心の揺れといったものが繊細な筆致で描かれてゆく。
こうしたドラマに「釣り」が絡んで来るのも良く、これは癒しの空間としての"自然"でもあり、そして人々の寄り添う場としての"食事"にも繋がってくる。1巻しか割引対象ではなかったのだが、続刊も気になるところだ。

『はんどすたんど!』1巻

これは非常にコメディ色が強い。4コマのテンポ感を完全にギャグに生かしたスタイルは極めて切れ味が鋭く、前2作とはまた違った方向でかなり面白い。
特にななみの扱い方が良くて、彼女が活発に(活発すぎるほど)動くのに表情がほとんど一定ということが、天丼的なドライブ感と同時に絵面のシュールさを生み出していて、作品のコメディカラーをを際立たせているように思う。
他の人物たちのなんだかわかってしまうような地に足のついたダメさもコミカルで楽しく、魅力的。こちらも割引の続きを購入しておこうと思う。

『旅する海とアトリエ』1巻

ロードムービー的に美術薀蓄と共に旅をするのがシンプルに楽しく、その上で各人物の細やかな内面描写によって「偶然旅の途中で知り合った人々」が寄り添い情を育んでいくさまがなんとも暖かい。旅は道連れ世は情け、という諺が思わず思い浮かぶ。
絵も綺麗で可愛らしく、異国情景豊かな雰囲気も良い。人物も皆愛着が湧いたがだが、とにかく危うさすら感じる内へと向かう思想がありつつも、あくまであっけらかんと明るく、周囲の太陽になることができる主人公の七瀬海の造形はとても魅力的だ。彼女のそんな部分にイタリアで出会った内気なマリアが気がつくシーンが印象的。素敵な作品だった。

『星屑テレパス』1巻

TLでめちゃくちゃ褒められていたので今日発売のものを電子で購入。「おでこを合わせて相手の内面を知る」というシチュエーションにある種の背徳感というか、触れてはいけない部分に触れてしまっているみたいなものを感じてドキドキする。
そうした言わば耽美で百合チックな部分も強いのだが、夢を追いかける少女たちのヒューマンドラマとしても同時に強い。
やはり夢想じみた主人公組の対抗馬として登場する雷門瞬という人物が非常に良くて、閉じた3人グループの世界に現実を突きつけるとともに、最終的には技術的な部分などで非常に頼れる仲間にもなる……という新たな世界を切り開く1巻でのキーパーソン。グループに瞬のこの"違う視点"を介在させたことでグッと世界観が広がり、更にリアリティの質感みたいなものが増したように思える。そして同時にそれは主人公である小ノ星海果の世界が広がった表現でもあるという……。
また更にこの世界の広がりとのギャップによって海果とユウの"二人の世界"が際立つ構成! 主人公である海果を中心にした世界が、広く大きくなってさまと狭く深化していくさま、この両輪で物語が進んでいくバランス感覚がたまらない。
言うまでもなく絵も華やかでとてもかわいいし、これは確かに「強い」マンガだな……という感じ。

『カルト』(映画)

実際まあまあ素直に怖くてま~~~ホラーやっぱ苦手なんだな~~~~と思わせるぐらいには怖かった(視聴断念レベルでないので実際怖くない方なのだと思う)のだが、同時に面白かった。霊能者 ネオ(仮名)の痛快な活躍は確かに面白かったが、とはいえ荒唐無稽なお話に終始しているかというとそうではない。作中ロジックではある程度の筋立てがきっちりなされているし、複数回あるリアリティラインの破壊も含めたどんでん返しが純粋に視聴体験として面白い。
上記の構成においてうまく使われているのが"カメラ"という要素であり、この本編はほとんどドキュメンタリー風を装った映像で(こういうドキュメンタリー風フィクションのことを指すモキュメンタリーという言葉を今日始めて知った照)それ故に常に視聴者の意識にカメラがある。そしてこのカメラによる「映像の枠」みたいなものが劇中にて破壊されてゆくのだ。
劇中映像としての一人称視点の映像だったり、あるいは撮影している"てい"の映像が次のシーンで引いて、"画面外"にいたそれを見ている人間や撮っている人間が登場する。この時鑑賞者の我々にとっては世界が拡張されたかのような不思議な錯覚を覚えるのだが、この入れ子構造によって拡張されていく演出が、そのまま作品内のお話のスケールアップとシンクロしているのが面白い。あくまで一人称ホラー映像としての恐怖ムービーは、カメラの外の人間を巻き込みながらいつしか"現実"を巻き込む一大スペクタクルに変貌していたわけだ。
最初に否定しつつも当然荒唐無稽な部分も大きい(妙な霊能力者が妙なことをしていたらそれは面白いし、ガラの悪いホストみたいな人間がハチャメチャに異能を持っていたら面白い)のだが、力と技、双方の妙によって極めてエキサイティングな視聴体験が得られた。心底面白い映画だったと思う。

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