【ショート・ショート】好きだからお別れ
お題
「カッコいい女性の別れ話」
本文
「俺は別れたくないよ」
彼の目線は手元に落ちており、それはもう独り言のようにも聞こえた。
「うん」
彼女の瞳は彼から離れない。
「嫌いになったわけじゃないんでしょ?」
「うん」
「秘密にしてればいいと思うけど」
「嘘は、つきたくないから」
「勝手に決めちゃったの?」
「ううん。そのために今、お話してるの」
「でも結論は決まってるんでしょ?」
「私の気持ちは変わらないと思う」
「そんなの相談じゃないと思うんだけど」
「そうかも知れない。でもね、私は誰よりもあなたに一番嘘を付きたくないって思ったの」
「そんなの、、、ずるいよ」
「ごめんなさい。でも憧れてしまったから。おかしな世界だけど、そんな世界を夢見てしまったから。胸を張ってまっすぐ歩きたいから。だからお別れさせてください」
これがアイドルを目指しはじめた彼女が、最初に踏み出した一歩だった。