ショートショート『違和感』
※ トップ画像は「take」さんの作品です。ありがとうございます。
※物語に入る前に、亡くなられた元総理の国葬や功罪のことが話題になっています。
大事な人を亡くし、とても悲しく寂しく辛い思いをしたことのある人なら、遺族、親しかった人たちを思い、せめて喪が明けるまではそっとしておこうと思うものではないでしょうか。
親、身内、愛おしい猫を見送ってきた私として、1週間もしないうちに亡くなった人をおとしめ、揶揄するような言葉がとても哀しいです。
ひとりの人間としてとても強い違和感を感じます。
☆ショートショート『違和感』☆
私が生まれた頃は、生きていてとくに違和感などなかった。周囲の者たちとそれなりに仲良くやっていたように思う。しかし、いつからだろう、この世界に違和感を感じはじめてきたのは。
確かに環境はあまりよくなかった。真っ暗な世界。湿気と妙に生臭い臭いがたちこめ、やたらと揺れ動く大地。そのうえ、毎日のように刺激の強い雨が降り続き、体が溶かされていくような苦悩も味わった。
さまざまな苦しみに耐え、生きのびてきたある日、私自身が変化しつつあることに気づいたのだ。私だけではない。私の周囲の者たちもまるで別の生き物になっていた。黒ずんだ姿になり、形もデコボコとしたものとなった。
私たちの生命力は強く、どんな苦難も乗り越えて繁殖していた。私たちはほかのやつらにすれば悪者らしい。やつらの白い援軍がおおぜいやってきて攻撃をしかけてくるが、たいていはこちら側の勝利になる。
そんなある日。薄暗い世界にまぶしい光がさしてきた。そして空から大きく鋭利な物体が降りてきた。
「やめてくれ! 助けてくれ!」
私たちの懇願も無視され、私を含めた仲間たちがその物体にすくい取られてしまった。私と仲間たちの住む土地をざっくりと切り裂き、見知らぬ世界へと連れ去った。
真っ赤なものが噴き出していた。私たちは自由に動けるわけではない。その鋭利な物体がつぎつぎに私たちを切り裂いてゆくのだ。そして私の意識も薄れていった。
「腫瘍の切除はなんとかうまくいったようだな」
おぼろげな意識のなか、そんな声が聞こえてきた。
(了)