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ショートショート『普通人』

(雑記)

あいかわらずに、毎月のようにUPされる日本大厄災動画。お金と時間がある方は、遠くへ移住もできるかもしれませんが、移住したとしても違うことで苦労する可能性が大きいでしょう。
私はネガティブ情報は無視して、そのときがきたら取り乱しつつ受けとめる。それでいいと思っています。

ひとりの人間として、未来のある小さなお子さま、愛するペットたち、愛する人たちへの愛情と思いやりが少しでもあれば、ああした大厄災の動画、情報は垂れ流せないと思います。ああいう動画が描いている未来を引き寄せてしまうからです。どんなメリットがあって、たくさんの破滅予言の動画がUPされているのでしょうか。少なくとも、私たちのためのものではないと思います。

ショートショート『普通人』

人の心を読める能力なんて欲しくはなかった。幼い頃は誰もが心を読みあえるものだと思っていたが、よく母親の思いをいいあてていて、気持ち悪い子ねとよくいわれたものだ。

あれから二十数年、自分の能力のことは秘密にしているのが得策だと十分にわかってる。今まで生きてきてわかったことは、普通人と変人といわれる人も中身はさほど変わらないということだった。

ただ、変人は自分の気持ちに正直なだけで、普通人たちは自分というものを押し隠しているだけなのだ。それでも、変な能力があるよりもまだましというものだ。 

人の心がわかるということはとても辛いことだ。今の人たちが言葉をつかわずに思うことがなんでも筒抜けなら、きっと争いが絶えない世界になっていることだろう。

そんなある日、おない年くらいの容姿の整った美人と出会った。リフォームの営業で各家をまわっていたときに知り合い、さっそく声をかけて、スナックに誘い、酔ったいきおいでそのままホテルで沸騰した時を過ごした。 

「君のようにきれいな人が、彼氏がいないなんて不思議だな」

「私、男性のあらゆるものを吸い取ってしまうらしいの」

思わず腰が引けたが冗談にちがいない。

「あら、あなた、今、冗談だと思ったわね」 

彼女が笑みをうかべると、頬に笑くぼができてとても愛らしい。いやいや、今は彼女の色香に惑わされているときではない。

「なぜ、わかった?」

もしや、ぼくのように人の心が読めるのか?
「いいえ、だからいったでしょう。男性のなにからなにまで吸い取ってしまうと。そう、金運や幸運までとにかくなんでもよ」

「とすると、ぼくの能力を吸い取ってしまったと」

「そう、おかげで人の心を読めるようになったわ。なかなか楽しいものね」

そういえば、さきほどから彼女の心がまったく読めなくなっている。しかし、そういっていられるのも今のうちだ。世の中にはさまざまな人がいる。心を読んで、嘔吐したくなるほどの思いを抱いているものがどれほどいるか、彼女はまだなにもわかっていないのだ。

だが、彼女は普通人ではない。なにしろ、あらゆるものを吸い取ってしまうという彼女だ。困ったことがあっても、男性から情熱までも吸い取って生き抜いていくだろう。そうさ、なにもぼくが悪いわけじゃない。これで人の心が読めて不愉快な気分になることもない。ぼくもようやく普通人になれたのだ。これほどうれしいことはない。

「でもね、悪運や悪縁、あらゆるトラブルまで吸い取ってしまうのよね。だから、幸運と悪運がつりあって、結局、相殺されてしまうのよね。ときには変な性癖や趣味嗜好まで吸い取っちゃうから、もう大変!」

またしても心を読まれてる。いかん、深入りするまえに退却しないと。

「ねえ、ちょっと待って。話はまだ終わっていないのよ。今夜あたり吐き出さなきゃいけない時期なの」

「なんだよ、吐き出す時期って?」

「吸ってきたものがたまってくると、ときどき吸い取ったものをすべて誰かに吐き出したくなってくるの」

彼女はそういうなり、突然ぼくの口に唇をあわせ、そのたまったなにかを吹き出してきた。その瞬間、めまいがし、体中が痙攣した。賞与と減棒、臨時休暇と休日出勤、宝くじが大当たりしたあとに、家が火事になったような気分が交錯し、なにやら気が遠くなってくる。彼女の小馬鹿にしている思いまでが伝わってきた。ああ、普通人の生活よ、さようなら。

(fin)

星谷光洋MUSIC Ω『演歌・とおせんぼ』父のためにつくった歌です。


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星谷光洋
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