見出し画像

SF?ショートショート『サル』

通勤途中のさい、近道になる西公園のなかを通っていた。その日も公園の動物がいる、檻のそばをとおりすぎようとした。

「なんだ、こいつは? たしか、昨日までは孔雀が数羽いたはずだが」

こんな世の中だ。変わったものがどこにいてもおかしくない。檻にはかたかなで、『サル』と表記した板がとりつけられていた。檻もトゲトゲのある有刺鉄線になっている。しかし、檻にはどうみてもサルにはみえない、私とおなじ三十代くらいの男性がいた。

ほかの人たちも何人かとおるのだが、この男をみてもみな驚くようすもない。ひょっとして、私だけにみえているのか? それともなにかのテレビ番組でも収録しているのだろうか?

「おい! そこでなにをしているんだ」

私は思わず声をかけてみた。サルは歯をむきだし、うなり声をあげて、私を威嚇した。 すると檻の奥から、グレー色の作業服を着た初老の男がでてきて、

「サルをいじめないでくださいね。エサもきめられたものをあげていますから、なにもあげないでくださいよ」

「あなた、飼育係ですか? みてみなさいよ。これがサルにみえますか?」

「なにを言っているんですか、サルにまちがいありませんよ」

私が寝ぼけているんだろうか? いやそんなはずはない。すっかり目は覚めている。とにかく、私は通勤途中であり時間もないのでその場を立ち去った。

それから毎朝、その檻をとおりすぎるたびにやつに声をかけていた。しかし、うなるだけで近寄ってくることもない。

そんなある日、やつが身動きせずに変な倒れ方をしていた。声をかけても身動きひとつしない。私はとっさに、檻をよじ登りサルを揺り動かした。

「大丈夫か? しっかりしろ! 今、携帯で救急車を呼んでやるからな」

そのとき、まぶしい光が私を包んだ。ようやく目が慣れて周囲をみわたすと、金属質な壁面がみえた。そして、やつが立ちあがり、拍手をしているではないか。

「これで六百三十二区が合格になりました」「おまえ、やっぱり話せるんじゃないか」

裸だったやつは、いつのまにか体にはりつくような銀色の服装をしていた。

「なんのために?」

「私たちは世界各国をまわり、各地区からひとりを選び、病で倒れた者を救おうとするかのテストをしているのです。世界各地で人工惑星に移住させてもよい人類をみつけるためにです。近未来にポールシフト、地磁気の極ジャンプによる大災害で地球のほとんどは壊滅状態になります。選ばれた者たちがこの地球からサルことができるのです。邪な者であればいずれまたおなじ過ちを犯してしまいます。そのためには救われるに価する生物か否かを確かめる必要があるのです」

「おまえは……」

「私は日本人です。彼ら、宇宙ボランティアの仲間になりました。彼らを宇宙人、未来人、多元宇宙から来た者など、どう思われてもけっこうです。この船内をみれば、私の話を信用してくださるはずですが」

壁は金属的だが、さわってみるととても柔軟だ。SF映画でみたような機器もみえる。窓の外からは地球らしきものがみえた。

「どうやら本当らしいが、そんな秘密を私に教えてもいいのかい?」

「もちろんです。選ばれた者は、私たちと同行する義務と権利があたえられるのです。拒否されるさいは、記憶を削除しますから大丈夫です。さて、今度はあなたがサルになるのです。彼らの世界では、試験官のことをサルというのですよ。もちろん、選ばれた人にしかあなたをみることはできませんから、裸でもはずかしくないでしょう」

              (fin)

トップ画像のクリエイターさんは『闇夜のカラス』さんです。
ありがとうございます。😀

星谷光洋MUSIC Ω『冬のひまわり』ラブソング


いいなと思ったら応援しよう!

星谷光洋
気にとめていただいてありがとうございます。 今後ともいろいろとご支援をお願いします。よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!