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ショートショート『感情ナビゲーション』

「成功したいのなら、私の発明した″感情ナビゲ-ション″をためしてみてはどうだ」

発明家の林田は自信満々の顔つきで、まだ二十代で林田の助手をしている岡安にそうきりだした。

林田の説明している機器は、UFOみたいな形をしている。なんら装飾がなされていないシンプルなものだ。

「君も潜在意識の働きくらいは知っているだろう? 強く思っていたことが現実化するという話はよく聞く話だ。書店にいくと潜在意識をコントロールして成功しようという本も多数ある。しかし、なかなか簡単なことではない。つい、マイナス思考になってしまうのが人間というものだ。だから、意識を固定してしまう機器を発明したというわけだ」

「なるほど、自分の意識がプラス思考のままでいられる機器というわけですね。しかし、モルモットになるのはごめんですよ」 

岡安はあまり乗り気ではないようだ。林田の発明の実験台にされて、昔ひどい目にあったことがあったからだ。不眠症だった岡安に、眠れるようになるという機器をためさせ、一ヵ月間眠ってしまったり、三ヵ月、まったく眠れなくなったりさせられたからだ。眠り続けた時は、点滴を打って生かされていた。

「岡安君。もう私自身でためしてみたよ。私はすぐに気が沈んでしまう性格だったが、今は自信と気力に満ちている。大丈夫、″すべての心配がなくなるよ″」

「そんなに言うんなら、ちょっとためしてみますよ。で、どうすればいいんですか?」

「ああ、ただ、この機器に手をかるくふれるだけでいい。その名もマインド・ナビゲーションだ」 

岡安は、機器にふれた手のひらにビリリッと感電しているような感覚を感じ、眠気を誘われるような感覚をしばし味わった。 

それからしばらくして、岡安は手のひらを機器から離した。

「おめでとう、君の願いはかならずや叶うだろう。この機器は潜在意識への働きかけの力を増幅させることができるのだ。もう君は失恋しようが、親が亡くなろうがなんら悲しむことがなくなる。君の意識はただ、願いを成就させるためだけに働くことになるんだよ」

「せ、先生、それでは人間ではありませんよ」

「いや、それでいいんだ。超プラス思考バンザイだ。不幸なんておととい来やがれ、マイナス思考なんてなんの得にもなりゃしない。さあ、岡安君。もうしばらくすると、どんなことがあっても動じないようになるよ」 

最初は林田がついにキレたのかといぶかっていた岡安だったが、そのうち、岡安の心境にも変化がおき、これでいいのだという気分になってきた。この機器を営業して、がんがん契約をとりまくろうという意欲がふつふつとわきだしてきたのだ。

「それではさっそく営業にいってきます。プラス思考バンザイ!」

               *

数日後、岡安の六十代の母親が持病の心臓病が悪化して亡くなった。
布団に寝かされた母の死に顔をみていても、岡安は、悲しい気持ちがこみあげて来ず、林田の顔が浮かぶのだが、怒り、憎しみの気持ちがわいてこなかった。それでも涙はあふれかえり、泣き笑い、怒りつつも笑うだけだった。

             (fin)

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星谷光洋
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