![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/163709645/rectangle_large_type_2_c33984e722726bf7537d1b4b9405c795.png?width=1200)
ショート残酷ホラー『口がきけない』
その日、男の身の上に天中殺と五黄殺。厄年と世紀末が同時にやってきた。
一ヵ月ぶりに床屋にはいった男は、店内にたちこめる酒の臭いに鼻をおさえた。
(やばいな、この店は……)
なじみの理容店が急に休みになったため、はじめての店にはいったのが運のツキ。
「いら~しゃぁ~まへ~」
妙にまのびした、不気味な五十代くらいの女の声に、すぐにまわれ右をして帰ろうとした男だが、女から背後から抱きつかれ、そのままいやいやながら椅子にすわった。
男は優柔不断で気も弱い。勧誘されると断れない性格だ。
「ずいませんね~、昨日ぉ、ちょっと飲みすぎたものでぇ~ね」
女はどんなセットにするかも尋ねずに、勝手に男の髪をカットしはじめた。鋭いハサミはチクチクと男の肌までも切る。そのたびに「ヒィ-」という奇声を発する男を気にすることもなく、やがて虎刈りをして満足気な女。
「ずびばせんね~」と言われるたびに、
「いえいえ大丈夫です」を連発する男。
女が今度は顔を剃ろうとすると男はさすがに不安になった。
「あの-、すみませんが、顔は剃らなくてけっこうですから……」
「あはぁ~、あんたもあたしのことを馬鹿にしてんだぁ~、あたしの亭主みたいにさぁ~」
泣きだしそうな女に、男は押し黙った。
「バシュッ」カミソリが男の頬を切る。
「だ、大丈夫……です」
「シュッパ!」今度は男の眉毛を切り落とす。
「だ、だ、大丈夫ですか~?」
「ザクッ!」
今度は男の耳たぶを切り落とす。
「助けて~!」
みるまに男の顔は血だらけだ。
そのとき、女は自分の足にじゃれつく猫に目をとられた。
「スッ!」
「あれぇ、お客さん。急に静かになったねぇ」
女が振り向くと、男の首から大量の血が噴水のようにわき出していた。
(了)
星谷光洋MUSIC Ω『祭』
トップ画像のクリエイターさんは『ポピット』さんです。
ありがとうございます。😀
いいなと思ったら応援しよう!
![星谷光洋](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/172211560/profile_5f930b4cd59aa0b103b784403ae2b570.jpg?width=600&crop=1:1,smart)