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SFショートショート朗読動画『マリアの涙』

以前UPしました、ショートショート作品を朗読し、三人の声で放送劇風にしています。
一人称を動画を作りやすくするために、三人称にしています。
ぜひ、ご視聴ください。

それはそれとして、最近書いている私のショーショート。星新一先生の晩年の作品もそうですが、オチやどんでん返しがないなと思いますが、今、自分が好きな作風だから、仕方ないかなと思います。

SFショートショート『マリアの涙』


志波は、とある市の福祉課で仕事をしている。
AIの従業員たちの管理が主な仕事だった。
未だに市民のなかには、AIに対して違和感を抱くものがあり、そうした人との対応もしているのだ。

AIを搭載しているアンドロイドたちが、市役所に常勤して何年たっただろう。
AIが事務職をはじめ、さまざまな業種に進出して、活躍していた。

市役所で働くAIにはマリアと呼ばれている者がいた。
顔立ちが慈悲深く、聖画で描かれているマリアさまに似ていたからだ。

マリアは以前、都内のキリスト教会で、シスターをしていたそうだが、教会に来る人達から批判が多くでて、市役所での勤務につくことになったのだそうだ。教会での仕事ということで、ほかのAIアンドロイドにくらべて、より人間性が感じられる仕様になっているそうだが、しば自身、人間にしか思えないと思うことがよくあった。

そんなある日のこと、就業時間が終わり、マリアから相談を受けたのだ。
少し、うつむいているマリアに、志波が声をかけると、

マリアは少しまばたきをして、ゆっくりと唇を動かした。

なんて皮肉なことだろう。
今のAIアンドロイドの表情は、現代の人間よりも表情が豊かだ。
志波が、マリアの美しい顔にみとれていると、

「志波さん。私、悩んでいるのです」

と、マリアが言った。

「なにがどうした?」。

志波があわてて訊くと、マリアは悲しげな表情を浮かべ。

「私、涙がでないのです。市民のみなさまから、どんなに辛い身の上を聞いても、悲しくなるのに、涙がでてこないのです。私、、、涙を流したい」。

と、悲しげに話した。

しばは腕組みをして、AIも人間に近づいてきていることに、少し怖さも感じた。

「いやいやマリア、私たちでも、相手の感情に流されることなく、つねに冷静かつ客観的に対応しているのだよ。涙もみせることもしていないよ」

マリアは、それでも納得することができないでいるようだった。しばは、よくわからない不安を感じていた。

そんなある日、福祉課の個々に相談を受けている、小部屋から、女性の叫び声が聞こえてきた。志波はあわてながらも、走りより、小部屋のドアを開けると、マリアが床に倒れていた。よくみると、マリアの頭の部分から黒い煙がでていて、目のあたりには火花が散っていた。

「いったいどうしたのですか?」

相談に来所していた市民の女性に聞くと、女性が悩みや、身の上話をしていたら、マリアがなんども目になにかを入れ始めたのだと言う。マリアの近くには、目薬が、落ちていた。
志波の不安が的中してしまった。マリアは、目薬をさして、涙を流そうとしたようだ。

そして、目薬のなかの水分と、薬品の成分が、マリアの目から入り、内部の機器を損傷させてしまったのだろう。

マリアは震えながら、白く美しい腕をあげて、手のひらで自分の目をぬぐうそぶりをした。
そして、マリアは言った。

「私……、人間として生まれたかった……」

赤く焦げたマリアの目からは、幾筋もの液体が流れてきた。
それが、オイルのようなものなのかはわからない。
志波は思わずマリアを抱き起こし、

「マリア、君は人間よりも人間らしいよ」

と、震える声でつぶやいた。

志波はマリアを強く抱きしめた。もう砂漠のようにかわいていたはずの涙が、止めどなく志波の頬をつたっていた。

マリアの目をみつめる志波に、マリアはありがとうとつぶやくと、微笑み、志波の頭を撫で、そして動作を止めた。

               (fin)


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星谷光洋
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