![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/153484700/rectangle_large_type_2_8d9d9f704a833074b9ec83b1b147daf3.jpeg?width=1200)
SFショートショート朗読動画『マリアの涙』
以前UPしました、ショートショート作品を朗読し、三人の声で放送劇風にしています。
一人称を動画を作りやすくするために、三人称にしています。
ぜひ、ご視聴ください。
それはそれとして、最近書いている私のショーショート。星新一先生の晩年の作品もそうですが、オチやどんでん返しがないなと思いますが、今、自分が好きな作風だから、仕方ないかなと思います。
SFショートショート『マリアの涙』
志波は、とある市の福祉課で仕事をしている。
AIの従業員たちの管理が主な仕事だった。
未だに市民のなかには、AIに対して違和感を抱くものがあり、そうした人との対応もしているのだ。
AIを搭載しているアンドロイドたちが、市役所に常勤して何年たっただろう。
AIが事務職をはじめ、さまざまな業種に進出して、活躍していた。
市役所で働くAIにはマリアと呼ばれている者がいた。
顔立ちが慈悲深く、聖画で描かれているマリアさまに似ていたからだ。
マリアは以前、都内のキリスト教会で、シスターをしていたそうだが、教会に来る人達から批判が多くでて、市役所での勤務につくことになったのだそうだ。教会での仕事ということで、ほかのAIアンドロイドにくらべて、より人間性が感じられる仕様になっているそうだが、しば自身、人間にしか思えないと思うことがよくあった。
そんなある日のこと、就業時間が終わり、マリアから相談を受けたのだ。
少し、うつむいているマリアに、志波が声をかけると、
マリアは少しまばたきをして、ゆっくりと唇を動かした。
なんて皮肉なことだろう。
今のAIアンドロイドの表情は、現代の人間よりも表情が豊かだ。
志波が、マリアの美しい顔にみとれていると、
「志波さん。私、悩んでいるのです」
と、マリアが言った。
「なにがどうした?」。
志波があわてて訊くと、マリアは悲しげな表情を浮かべ。
「私、涙がでないのです。市民のみなさまから、どんなに辛い身の上を聞いても、悲しくなるのに、涙がでてこないのです。私、、、涙を流したい」。
と、悲しげに話した。
しばは腕組みをして、AIも人間に近づいてきていることに、少し怖さも感じた。
「いやいやマリア、私たちでも、相手の感情に流されることなく、つねに冷静かつ客観的に対応しているのだよ。涙もみせることもしていないよ」
マリアは、それでも納得することができないでいるようだった。しばは、よくわからない不安を感じていた。
そんなある日、福祉課の個々に相談を受けている、小部屋から、女性の叫び声が聞こえてきた。志波はあわてながらも、走りより、小部屋のドアを開けると、マリアが床に倒れていた。よくみると、マリアの頭の部分から黒い煙がでていて、目のあたりには火花が散っていた。
「いったいどうしたのですか?」
相談に来所していた市民の女性に聞くと、女性が悩みや、身の上話をしていたら、マリアがなんども目になにかを入れ始めたのだと言う。マリアの近くには、目薬が、落ちていた。
志波の不安が的中してしまった。マリアは、目薬をさして、涙を流そうとしたようだ。
そして、目薬のなかの水分と、薬品の成分が、マリアの目から入り、内部の機器を損傷させてしまったのだろう。
マリアは震えながら、白く美しい腕をあげて、手のひらで自分の目をぬぐうそぶりをした。
そして、マリアは言った。
「私……、人間として生まれたかった……」
赤く焦げたマリアの目からは、幾筋もの液体が流れてきた。
それが、オイルのようなものなのかはわからない。
志波は思わずマリアを抱き起こし、
「マリア、君は人間よりも人間らしいよ」
と、震える声でつぶやいた。
志波はマリアを強く抱きしめた。もう砂漠のようにかわいていたはずの涙が、止めどなく志波の頬をつたっていた。
マリアの目をみつめる志波に、マリアはありがとうとつぶやくと、微笑み、志波の頭を撫で、そして動作を止めた。
(fin)
いいなと思ったら応援しよう!
![星谷光洋](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/172211560/profile_5f930b4cd59aa0b103b784403ae2b570.jpg?width=600&crop=1:1,smart)