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SFショートショート『共有世界』                 

  

目を覚ますと、そこは光輝く自分の部屋だった。時計をみると深夜の二時だった。自分自身の体も発光している。最初は夢でもみているかと思ったが、どうやら現実らしい。突然の異変にもかかわらず心は穏やかだ。

そして奇妙なことに、隣で目を覚ましたひとつ年上の妻の心が伝わってきた。おたがいに四十代。連れ添ってから二十年近いから言葉なしでもわかりあえるというわけではない。いや、それだけではなく、二階にいる娘の心まで、いや、隣近所の、いやいや世界じゅうの人々の思っていることが伝わってくるのだ。

「マサト、どうしちゃったんだろうね?」 

妻のマリの心の声で話しかけてきた。

「そうだな。いつぞやのテレビ番組で、地球そのものが進化して、同時に人類も半物質のような存在になるといっていたが、それなのかもしれないな」

部屋も家全体も半透明で、家の壁からまわりのようすがよくわかる。東京の状態がどうなっているのかと思ってみたら、東京都心の風景がみえてきた。これといった混乱がないようだった。光の存在にならなかった光を放たない人々もわずかにみえる。それらの人々が騒ぎを起こそうとしているが、光の存在になった人たちには近づけないようだ。また、建物も破壊できないでいるようだ。私は北海道に住む友人のことを思った。高校時代からの友達だった。

「やあ、マサト。なんだかおもしろいことが起きてるな」

友達のアキラがその思いに答えて、心に話しかけてきた。

「アキラ。久しぶり。携帯もネットもテレビもなくてもいろいろなことがわかる。なんだか便利なような気がするな。それに、昨日までの苛々や不安感みたいなものが消え去って、とっても心地いいんだ」

私は会話をやめて、妻のマリの手をとり、外にでてみた。深夜なのに、空が真っ青で、雲がさまざまな色に変化していった。オーロラが壮麗なカーテンを震わせて、目が離せない演出をしていた。

時は流れ、いままでみたことのないような美しい朝日。世界じゅうが光輝くオレンジ色に包まれていった。それでもお腹がすくことも喉が渇くということもなかった。ほんとうにテレビ番組で語り合っていたように、私たちの多くが半物質的な存在になったというのだろうか。それゆえに、食事をせずとも生きていける存在になったのだろうか。ただいえることは、まさに世界が共有されているのだ。心のなかに秘密を抱くこともできない。家も半透明だ。すべてがあからさまになっているのだ。なにが原因なのかは知らないが、そしてこれからの世界がどうなっていくのかはわからない。これが古来からの聖人たちが予言していた天国のような世界なのだろうか。  

妻のマリが、隣の家のご主人と抱き合っている。これもひとつの共有なのだ。嫉妬する気持ちも起きてこない。おたがいに個々の存在でありながら、すべてはひとつに集約される世界。隠すこともなく、すべてをわかちあう世界なのだ。

今日は満月。なんとなく私は月のことを思ってみた。すると、異星人たちが、月の基地で、地球のようすを伺っているようすがみえてきた。人とさほどかわらない風貌だが、体に密着した服を着ていた。

「どうやら第四実験は成功しつつあります」 

「そのようだ。一時的に、地球そのものの次元を強制的にあげてみた。進化の過程として興味深い結果だ。明日には人々の記憶を消し、元に戻しておかなくてはいけないな。過去の実験のさい、一部の人間が、消去したはずの記憶と能力を取り戻して、聖者とあがめられてしまうミスをくりかえしてはならない」

                    (fin)      

星谷光洋MUSIC Ω『メインテーマ』ラブソング弾き語り

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星谷光洋
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