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ショートショート『女神との契約』
それはぼくが中学校に入学した頃だった。ぼくはひとより傷つきやすいのか、ちょっとしたことでドキドキしてしまっていつも失敗ばかりしてしまう。そんな眠れない夜に、ベッドのうえで、小学校のときにどこかで読んだ神様の話を思いだして、神様、ぼくがもっと強くなりますようにと祈っていたら、突然美しい女神がぼくの前に現れたんだ。前髪は長く、目鼻立ちの整った美しい女神だった。
「君なの、私を呼んだのは?」
ぼくはビックリしてしまって声もでなかった。だって、まさか本当に神様があらわれるなんて思っていなかったんだから。きっと夢をみているんだと思った。
「今日の今の時間は、聖なる月の時間なのよ。たぶん、偶然君が祈った時間とピッタリだったのね。さあ、なんの願いなの?」
ぼくは、口を大きくあけていたんだろう。
「どうしたの? ポカーンと口をあけちゃって」
そう言って、女神はぼくの頭をやさしくなでてくれたんだ。そうしたら急におちついてきた。
「ぼくの……願いは、落ちこみやすい性格を変えたいということなんだ」
「そうなの、それなら君の辛さを少しづつ感じるようにしましょう。けれどもただではなくて、ローンなのよ」
と、変な話をしてきたんだ。ぼくはどうせ夢なんだからと、なにも考えることもなく、わかったよとオーケーした。
ぼくはそれからひどく辛いできごとに出会っても、心の痛みが少しづつ感じられるようになっていた。それから三年がたって、ぼくが高校の入学式の日の夜、女神がぼくの前に再びあらわれたんだ。
「君はさ、夢だけは大きいから見込みがあると思っていたのに、ほんとうにあてがはずれたわ。あなたが契約したローンには、リソクというものがあるのよ」
「リソクってなに?」
「君がお母さんのお手伝いをしたときにもらえるおこずかいみたいなものかな。君が幸福な生活を送ることが、リソクを私にわたすことなのよ」
「そう、人の喜びが女神様のおこずかいなの? あなたはいったいなんの神様なの?」
「秘密よ。話すと人間って無条件に望みをかなえようとするんだから。とにかく、リソクを私にわたさないと、まえの性格にもどしたうえ、もっと大変なことになるわよ」
そう言われたぼくは、あと一年待ってもらうことにした。そしてぼくが一瞬目をとじた瞬間に女神は姿を消していた。ぼくはその日以来、勉強やスポーツをがんばって友達も多くつくったんだ。そして、学校でも成績がよくなってきた。ぼくなりに納得できる生活。これならいつ女神があらわれても安心だ。
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恋してる同級生の女の子だけは思うようにはならないけれど。そんなある日、ゲームをしていたときに女神はぼくの前に現れて、
「お久しぶりね。ローンは終わったわ。リソクも十分いただいたわ。ところで、今度は幸福の貯金をしてみない?」
女神はまたもや変な話をもちかけてくる。 ぼくは前から女神の髪の毛が気になっていた。前髪がふさふさしていて、うしろがまったくみえない。なんとなく背中をみせまいとしているようだ。だから、ふと前髪をつかんでうしろをみようと思いつき、力まかせに女神の前髪をつかんだんだ。
「痛いわ、あまり強くつかまないで。だから人間って嫌いよ。君、最初から私の正体がわかっていたのね。もういい、あなたの夢をかなえてあげるからその手をはなして!」
ぼくは格言の詞を思い出した。『幸運の女神には後ろ髪がない。だから前髪をすばやくつかみなさい』なるほどね。
(fin)
星谷光洋MUSIC Ωより『JUNKのオリジナルソング』
開運ちゃんねるより
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