ショートショート『人類裁判』再掲載
人類時間での2031年。神界において人類が裁かれていた。
裁判長は神さまで、検察官は天使。弁護士は神々で、証人は魔物や獣、植物などの精霊たちだった。
人類からは政治家や企業家、芸能人や一般市民などから十数人の霊たちが代表として被告席についていた。人々の霊たちは怯えた表情でかしこまっていた。
「私も忙しいのです。宇宙で多くの裁判がひかえていますから、本日は略式で、地球を危機に陥れた人類の罪を問うことにします」
神さまがゆったりと告げた。
天使は人類をにらみながら、
「人類の罪は明らかです。環境破壊や神の名を騙り、人を惑わす宗教組織。テロや紛争による絶え間なき虐殺や、人心の荒廃による数しれぬ犯罪や風俗の乱れと、数えればきりがないほどです。天界の法律に照らしあわせて、人類滅亡が相応な刑だと思われます」
「魔王サタンよ。おまえは証人としてなにか意見がありますか?」
「そうですね。神さまは人に自由意志をおあたえになりました。世界の混乱の責任は神さま、そして天使にもあると思われます、なんちゃって」
魔王は退屈そうに言った。
「法廷侮辱罪にしますよ」
神さまが魔王に冷たい視線をおくり、魔王はおとげたように肩をすくめた。
「裁判長、ほかの証人にも意見を述べさせます」
天使はそう言うと精霊と獣たちを手招いた。
「地球は人間だけのものではありません。森林は伐採されつづけ、仲間は家畜にされて、むやみやたらに食べられてきました。牛たちは骨粉にもなり、その骨粉を食べさせられてもいるのです」
「おれたちは、海や山でおとなしく生きていたのに、海は汚染され、山は削られ続けています。人間どもがやってきて住む場所を奪われたのです。そして、動物園で監禁されています」
精霊と獣たちは口々に人類を糾弾した。
被告席の人間の政治家は、手をあげて意見を述べたいと立ち上がった。神さまは請願を許した。
「我々人類は、知恵と才能をふりしぼり、さまざまな問題に対処してきたつもりです。今の社会は私たちの汗と涙の結晶なのです。たしかに、ときには道をはずれた行為も多々あったでしょうが、清廉なるものたちも数多くいるのです。人類滅亡を宣告されるほどの罪は犯してはおりません」
「何様だと思っているんだ! 極悪非道の人類どもめ、なにひとつ反省していないのか!」
傍聴席からヤジが飛んできた。精霊や天使、異星人たちであった。
神さまは天使になにごとかの指示をだした。
天井のあたりに、立体的な映像が映しだされた。
残虐な犯罪の数々のなか、親殺し、子殺しのようすが最初に映し出されていた。その後は燃え盛る火炎のなか、戦地で乱射され血を流す兵士や人民たち。貧しくて餓死していく人々や自殺していくものたち。原子爆弾の投下、そしてきのこ雲、焼け焦げた、それはまるで炭が燃え尽きてしまったような人間や都市。それでも戦争を続け、一億総玉砕を叫ぶ日本の軍部たち。今も世界各地で続けられている紛争と戦争。さすがに人類代表の霊たちは目をそむけた。
「これ以上、時間をかけても無駄ですね。それでは人類に判決をいい渡します」
神さまがあきれ顔でいった。
そのとき、傍聴席から釈尊が立ち上がった。釈尊は意見陳述の許しを乞い、そして許された。
「罰せられるべきは人類だけでなく、すべての命がともに償うべきです」
「なぜですか?」
ヤジが飛びかうなか、神さまが釈尊に問うた。
「人類を創造された方を親とするならば、子の罪は親がともに責任を負うものです。いえ、本来、罪などいかなる存在にもありません。命は宇宙の法則のままに存在し、堕落と新生、滅却と創造をくりかえすものなのです。すべては空なのです」
傍聴席は一瞬、静寂に包まれた。
神さまは真剣な表情になり、
「しばらく時間をいただいて、創造主とほかの神々に意見を聞いてまいります」
閉廷後、闇のどんよりと暗き音がざわざわと揺れるように感じられた。
心が空と地底に分けられていくような感覚の時間が過ぎたあと、神さまが裁判所に戻ってきた。
神さまは悲壮とも思えるような真剣な表情をされていた。
「改めて判決を申し渡します。創造主と神々とも相談した結果、人類の罪をともに背負い、私をふくめて神々と天使、悪魔、そして人類は共同責任として、その存在を無に帰することと致します。ただし、罪なき異星人たちと精霊、獣や虫たち、植物たちは平和な世界に移動とします。以上、判決とする!」
神さまの、雷が鳴り響くような声での判決を聞いた魔王や悪魔たち、天使までもが人類の無実を声高々に主張しはじめた。
(fin)
エッセイ 私が期待するリーダーとは
名選手、必ずしも名監督にならずという言葉があるように、平の時代がどんなに優秀でも、リーダーには向いていない人はいるはずです。仕事にも相性や向き不向きがあろうと思います。
人はもともと不完全な生き物です。完璧な人などいないと思います。
接する人によって、評価が千差万別になるように、相性や好みで、人の見方、評価が異なります。
そのうえで、リーダーたるもの、部下の不始末は最終的にはリーダーの責任として受け入れて、潔く辞する。あとは後進にゆだねる。そうしたことができるリーダーを心から望みます。
(了)
星谷光洋MUSIC Ω『筋書きなんかじゃない‼』