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SFショートショート版『天然記念人』

真夜中に、目がさめるほどの音と、雷でも落ちたかと思うくらいのまぶしい光に包まれた。またそのまま気絶して、気がつくとどこかの草原のうえに寝そべっていた。俺だけでなく、老若男女数十人も草原にいた。日本人だけでなく、世界じゅうの民族もいるようだった。西洋風の顔立ちの人たち。アラブの民族衣装を着ている人たちもいた。

「ここはどこなんでしょうね?」

俺よりもひとまわり年上くらい、そう、三十歳くらいの男性が声をかけてきた。気がついたら突然見知らぬところにいたのだ。彼も不安げにまわりをあちこち見渡していた。

「俺も、気がついたらここにいたんですよ。とにかく、歩いてどんなところなのか調べてみますか」

俺は男と歩いて、ここがどこなのかみきわめてみることにした。まず、大地のようすがおかしいと思った。見た目は芝生のようだが、きれいにそろえられていて、ゴルフ場の芝生よりも整然としすぎているように思った。以前、ゴルフ場の球拾いのバイトをしていたことがあって、ゴルフ場の芝生をなんどもみてきたが、ここほど整備されたところではなかった。草花が計画的に植えられているように、画一的な印象をうけた。

「どうも、人工的に造られた草原みたいですね。ちょっと穴を掘ってみますか」

俺がそういうと、男はますます落ち着きがなくなった。俺はかまわず手で穴を掘ってみた。どこにでもある土と砂のようだが、土の臭いがしなかった。一メートルほど掘りすすめると、なにやらつるつるしたものがあった。みると、白いプラスチックのようなものだ。掘ることをやめて、男と十五分ほど歩いたあたりでなにかに目にみえないものにぶつかった。手で叩くと、ガラスのような感触だった。平行に歩きながらさわり続けてみると、円形になにが俺たちを取り囲んでいるようだ。

「ここはどこなんだー!誰か、助けてくれ!」 

ついに男が取り乱しはじめてしまった。しかし、その声に答えるかのように、うえのほうから、人工的な声が聞こえてきた。耳というよりも、心のなかにその声が入ってきたという感じだった。

「みなさん、私たちはあなた方の心に話しかけています。私たちは銀河系のアルファという惑星の者です。今日から三日後に彗星が地球に衝突することがわかりましたので、昨夜、ランダムに選んだ人たちを保護し、私たちの船に乗せ、地球の世界によく似た人工のこの施設に避難させたのです。半径一キロほどの施設ですが、どうぞ、地球とおなじように生活されてください。食べ物は、小さな小屋に行けば、ほぼ地球での食生活をしていただけると思います」

「ああ、なんてこった。そうだ、妻と子を探さなくては!」

男はあわてて元いた場所に走っていった。 
俺は独身で親や兄弟もいない。親と兄は、旅行中、車の交通事故で亡くなっているのだ。俺だけが奇跡的に助かったのだ。

うえを見上げると、青い空と白い雲。これも作り物らしい。雲が形を変えることなく流れてゆくだけだ。俺がぼんやりと空をみていると、突然、体が浮遊し、人々が蟻くらいにみえるほどまで高いところまで昇ってきた。やはり、空はスクリーンだった。スクリーンの扉があき、俺はなかへと入っていった。そのなかには、西洋人らしい七十歳くらいにみえる老婦がいた。老婦がなにやら話しかけてきたが、どうやらドイツ語らしい。残念ながら英語すらあやしい俺の語学力だ。ドイツ語はまるで未知の世界なのだ。

会話はできない。テレビも本もない。なにもすることがないから、異星人が提供してくれた地球風の食べ物を口にし、ベッドのうえで寝ていた。そんな日々を一週間ほども続けただろうか、またしても、俺の心に異星人の声が聞こえてきた。

「しばらく観察させてもらったが、なぜ女性と交わり、子づくりをしないのかね?」
「俺たちは朱鷺みたいなものか?」と、心のなかで毒づくと、

「私たちは、人類滅亡を阻止するために、地球のさまざまなところからあなたたちを連れてきたのだ。そして、子を産み、子孫を増やしてもらいたい。ゆくゆくは移住できる惑星で生活してもらうつもりでもいる」

「あのな、異星人さんたちよ。助けてくれたのには感謝してるよ。地球人だって、人の好き嫌い、相性というものがあるんだぜ。ましてや老婦と交わっても子供はできないだろうぜ)と、心のなかで話した。

「ほう、そんなものですか。数十年間、あなた方を観察してきました。日本の朱鷺を保護し、年の離れたオスとメスを二匹だけ狭い檻に入れて、子孫づくりを求めていたようですが。きっと朱鷺にも相性とやらがあったのでしょうね」

俺はなにもいえなかった。しかし、ふつふつと考えたくないことが頭をよぎり、イライラしてきた。

「ここもあんた方、異星人たちにみられているということだよな。プライバシーのない、動物園みたいなところなのかよ?」

「そのとおりです。日本でいえば、天然記念物、いや、天然記念人に指定され、保護されて、私たちの惑星の家族たちに公開されています」

部屋の老婦も、その声を聞いていたのだろう。顔に両手をあてて、泣き出してしまった。
人類の尊厳を無視されていると憤慨するとともに、俺たち以外の動物たちを見せ物にしてきたのも事実だ。

「今から飼育係、失礼。お世話する者を送りますから、希望があればお伝えください」

             (fin)

星谷光洋MUSIC Ωより

トップ画像のクリエイターさんは、「そらみみ」さんです。
ありがとうございます。😀


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星谷光洋
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