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ショートショート『赤い糸』
※ ショートショート、小説だからこそ表現できる物語を書いてみました。映像や漫画にしてはオチにならない物語です。
ショートショート『赤い糸』
運命的にめぐりあう男女に、その赤い糸がつながっているというメルヘンチックな伝説がある。
いつの頃からだろうか、俺には人の指にからみつく赤い糸がみえるようになっていた。 しかし、俺の指にはその赤い糸はみえない。そりゃぁそうだという思いが俺にはあった。
俺には変わった癖があって、異性として意識されることなどなかったからだ。
赤い糸がみえはじめた最初のうちはおもしろかった。街を歩いていると赤い糸が風にそよいでとても美しいながめだったし、街の中で喧嘩しているカップルの指のあたりでは、その糸がつながったり、離れたりしてけっこうスリリングなシ-ンがみられるのだ。
テレビではワイドショ-での芸能ニュ-スもおもしろい。糸もつながっていないのに結婚したり、つながったまま離婚する芸能人もいてとても不可解だった。政治家になるとほとんどが、赤い糸ならぬ黒い糸が男女問わずに結ばれているのがみえた。
赤い糸はひとつだけではない。いくつもの糸があり、太さと色合いが違うようだ。赤い糸は消えたり出現したりもする。
縁結びの神社の効果が知りたくて参拝にいったときのこと。赤い糸がみえなかった参拝者の指に、祈願をしたあとうっすらと赤い糸が出現しつつあるのがみえた。
ときには数年前に、同期入社をした友人の恋愛相談にのることもある。俺が有名人の結婚をなんども当てるので、恋愛が成就するか否かをズバリ当てるという噂がいつのまにやら広まっていたのだ。
「事務所にいる早希とつきあいたいと思っているんだ」
俺は友人の指にからまる指をたぐりよせ、その糸をたどっていく。そして事務所にその糸が続いていなければ見込みなしだ。友人の場合はきっちりと早希の指についていた。
しかし、糸があまりに細い。早希の太く赤い糸はべつの誰かとつながっているらしい。その太い糸がときおり脈打つのは、すでに交際している男がいる証なのだ。
「残念ながら、早希にはすでに相思相愛でつきあっている男がいるな」
「やっぱり、早希に彼氏がいるという噂は本当なんだ」
友人は少しばかり沈んだ顔をする。
俺は友人の太く赤い糸をたどる。するとちょうど目の前に糸がつながっている当の女性が現れた。
「あの娘だよ。おまえの本命は」
俺は友人に、こっそりと耳打ちをした。
「本当かよ、だけどけっこうイケてるな」
その後、友人は彼女と楽しい日々を過ごしている。
そんなある日、俺の指にも赤い糸が現れた。深紅で艶々しい糸が俺の指にしっかりと結ばれている。最初は恋の予感にとまどい、不安のままに赤い糸を無視していたのだが、勇気をだし、赤い糸をたぐりよせて相手をみてみようと思った。
いつもよりも身なりをととのえ、髪もビシッときめて街へとくりだした。でかけたのはお昼すぎだったから、かれこれ二時間くらい歩いている。喉がかわいたので喫茶店にでも入ろうかと店を捜しているときだった。指がなにかにククッと引かれるような感じがしたのだ。そうして前方をみると、俺好みの人が、向こうの方から歩いてくる。
そしてその人の指をみると、「あった!」
確かにその男性の指と俺の指には、赤い糸がきっちりと結ばれている。
俺の胸は高鳴り汗までふいてきた。名も知らぬおない年くらいの男性が、俺に熱い視線を向けているからだ。
「あのう、突然ですが、お茶でも一緒に飲みませんか?」
男性が俺に声をかけてきた。
「喜んで。俺は葉子です。男みたいな身なりで、男言葉をつかうちょっと変わった女の子だけど、よろしく!」
(fin)
星谷光洋MUSIC Ω『永遠に君と出逢いたい』
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