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vs,SJK:To ハッピーエンド?

 毎度おなじみのマドナ雑談──クルロリが旅立ってから数週間後の一幕ひとまくだ。
 珍しく今日はラムスも同席。
「結局、何も変わらないのよね。地球へ潜伏している〈ベガ〉との戦闘も継続してるし」
 アイスミルクティーを一口飲んで、ジュンが呟く。
「……だね。ボクの異能力が無くなったワケでもないし」
 ボクは〝レバニラアナゴバーガー〟を頬張りつつ、平静に応対した。
「組織化していない分、遭遇率自体は低下したようですけれど……結局は〝受動的防衛〟から〝能動的防衛〟へと推移しただけですわね。以前はマドカ様個人を狙って襲撃してきましたけれど、現在は〈ベガ〉各自が個人的暗躍をしている状況ですから」
 メロンソーダの氷をストローでつつきながら、ラムスが概要を纏める。
「だから、私達の方から探し出す羽目になる……か。新聞やワイドショーにネット──世間に流布るふする怪情報を足掛かりにしてね」
「いっそビジネスにする? アメリカじゃ、実際に〝ゴーストバスターズ〟とかいるじゃん」
「ちょっと! お金を取る気なの?」
「小遣い稼ぎ程度だよぅ」
「却下!」
「だって、このままじゃ不本意な過酷ボランティアじゃんか。労働基準法に違反するよ」
「……マドカ様から、そんな用語が出るとは思ってもいませんでしたわ」
 仕切越しの隣卓で、他校のJK達がキャイキャイとアゲていた。曇りガラスで遮られて見えないけど、話題はネット動画らしい。
「ねぇねぇ、この動画マジヤバなんだけど」
「ああ、それ〈SJK〉ってヤツだよ」
「え? コイツ、こうなん?」
「いや、違くて──」「違うわッ!」
「「?」」
 条件反射で仕切り越しにツッコんだ。
 そそくさと工作兵よろしく隠れるボクとジュン。
 他校JKは不可思議にキョロキョロ──で、話題再開。
「最近『UMA特集』とかで、よく出てるんよね」
「マジ? アタシ知らなかった」
 どうやらボクの動画がアップされていたらしい。
 こうした〈ベガ〉戦を続けていれば、必然的にボクの存在も捕らえられる。新ネタのオカルトゴシップとして。
 くして〈ベガ〉vs〈SJK〉は、実在不明の眉唾娯楽まゆつばごらくとして日々取り上げられていた。
 不本意な有名税だけど、仕方ないといえば仕方ない。
「たぶんフェイクだけどね。こんなロボットいるわけないじゃん」
「セーラー服だもんね。どっかのヲタが趣味丸だしで作ったネタって感じ?」
流行バズらそうとしてんじゃないの? 昔の〈口裂け女〉や〈人面犬〉みたいに」
「アハハ♪ 新しい都市伝説ってヤツ?」
「ジワるからいいけどね。話のネタにはなるし」
「ね」
 ボクは無言でガタンと席を立った。
「……張り倒してきていい?」
「待った!」
 喰い気味に制止するジュン。
 消化不良な憤慨を押し殺して、再び着席。
 彼女からのたしなめじゃなかったら、目の前まで行って〈全身鋼質化〉を見せつけてやるところだったよ。
「それにしても、随分とおおやけに知れ渡ったわよね……あなた──じゃなくって〈SJK〉の存在。もちろん、正体が〝あなた・・・〟だとバレたわけではないけれど」
「絶対に煌女きらじょ生徒で、ネタ売ったヤツがいるよ。ポケマ稼ぎに」
「確かに〈SJK〉というネーミングは、あそこでしか名乗っていませんでしたからね」
 ラムスが他人ひとごとながらに同感。
 ややあってジュンは、憂鬱ゆううつ眼差まなざしを落としつつ懸念けねんらした。
「これからも〈ベガ〉と遭遇する可能性は高いんでしょうね……そして、戦闘も」
「新しい友達が増える確率って考えりゃいいじゃん」
「増えてないじゃない。これまでの交戦で」
「そのうち増えるよ……モグモグ」
「楽観的ね」「マドカ様らしいですけれど」
 優しい苦笑に二人ふたりは肩をすくめる。
 と、不意に背後から頭を小突こづかれた。
 軽い挨拶代わりだ。
「相変わらずのゲテモノ食いだな」
 落ち着き払った声音こわねに振り向いたボクは「ハロす★」と、ひらひらてのひらを振る。
 細い鼻筋に、理知的な慧眼けいがん。黒髪のロングポニーが、サラサラとあでやかだ。
 意表を突かれたのは服装で──もっとハードロックみたいな攻撃的ファッションを好むかと思っていたけれど──白ブラウスに紺色カーディガンのかた羽織はおりとシックにまとまっている。スリムジーンズが細身の美脚を強調している事も相俟あいまって〝スレンダーなお姉さま〟って感じ。
 うん、シノブンだ。
 触覚と羽根が無くなっただけで、遜色そんしょく無く〝人間〟となっている。それももとが美形なだけに上玉。
 自然体で相席すると、彼女は数本の携帯ボンベをテーブルへ転がした。
「ヘリウムカートリッジだ。これだけあれば、とりあえず数ヶ月はつだろう」
「ああ、アンガトね」
「大事に使えよ。採集に圧縮作業……結構、手間なんだからな」
「りょ!」と、敬礼。
「マッドカちゃ~~ん ♡ 」
「ふぐぉうッ?」
 いきなりGカップに顔面沈められた!
 フリフリロリファション仕様のモエルだ!
 どうやらシノブンの背後に隠れていたらしい。
「会いたかった! 会いたかったよぅ!」
「ふぐぉあ! ふぁがへほぉ!」
「一週間ぶり? 一週間半? ううん、もう一年ぶり?」
 そんな経ってないよ!
 どういう体内時計してんだ!
 ってか、離れろ!
 解放しろ!
 苦しいわ!
「でもね? ちゃ~んと毎日、マドカちゃんの事は見てるんだよぉ? 本体の盗撮で衛星軌道上から……毎日毎日……ウフフ ♪  毎日だよぉ?」
 何を恍惚顔こうこつがおでストーカー犯罪のカミングアウトしてんだ!
 しかも、しれっと〝盗撮・・〟とか言わなかった? コイツ?
 たすけて! 特警ウィンス ● クター!
 ってか、いい加減に離れろっての!
 苦しいって!
 息できないって!
 さっきからタップしてんだろ!
「ああん ♪  マドカちゃんも、こんなに喜んでる ♪ 」
 そういうタップじゃないよ!
 感極まって背中叩いてるワケじゃないよ!
「うん ♪  もっとギュウってしてあげるね?」
 すんな!
 牛乳うしちちだからって、ギュウ・・・ってすんな!
 あ……ヤバいわ、コレ。

 ──チーン ♪

「ちょちょちょっとマドカッ?」
「はぇぇ! マドカちゃん?」
「……ったか」
「……きましたわね」
 巨乳に圧迫されて窒息した。
 うん、またスレにアップしておこう──『爆乳死ね!』

「で、どうなの? 念願だった〝人間形態〟に戻れて?」
 ジュンの質問に、シノブンはフラポテをつまみながら答える。
「まだまだ制覇したとは言えないが、おおむねやりたかった事はやってみている。ただ──」
「ただ?」
「──正直、マンネリズムに飽きも出てきたな」
「贅沢な悩みですわね。そんなものですのよ? 日常というものは……」
 悟ったかのような持論を示すラムス。
 けれど、シノブンの主張も分からんでもない。
 なので、ボクなりの退屈打開策を提案してみる。
「それってば、一人で遊んでるからだよ。今度、一緒に〝グラウンド・ワン〟でも行く?」
「はい ♪  マドカちゃん、あ~ん ♡ 」
 頬染めて差し出してきたモエルのフラポテくわえ顔を、むんずと掴んで脇へとらした。
「はぇぇん? 何でぇ?」
「ストーカーとポッキーゲームなんかやるかッ!」
「シクシク……やってほしかった……」
「シクシク……絶対やりません……」
二人ふたりそろってテーブルへ泣き伏せるなッ! 脱線の流れを作っておきながらッ!」
 ジュンから怒気どきられたよ。
「一緒に遊びに行く……だと? 貴様とか?」
 怪訝けげんそうに返すシノブン。
「うん、ボクとジュンとラムスとモエルと……」
「は~い ♪ マドカちゃんとなら、何処でも行きま~す♡ 」
 満面笑顔の挙手でモエルは乗った。
 うん、間髪入れずに。
「申し訳ありませんが、わたくしは辞退させて頂きますわ。日々の家事で、何かと忙しい身ですから」と、無関心にメロンソーダをくちにするラムス。
「あ、ヒメカもいいかな? こういうのハブると、あの子拗ねるし」
「行きますわッ!」
 露骨な興奮で即座にてのひらがえし。
 相変わらずヒメカが絡むと現金だな。
 シノブンはしばし考え「フッ、悪くはない……か」と、淡く苦笑にがわらった。
「それはそうと──」ボクは一同を招集した本題を切り出す。「──みんな、今夜付き合ってもらっていいかな?」
「そろそろ言うと思ったわよ」
「ですわね」
「右に同じく」
「は~い ♪ 」

 夜の煌女きらじょ校舎屋上。
 ボク達は互いに手をつなぎ、輪となっていた。
「ベントラーベントラースペースピープル……ベントラーベントラースペースピープル……」
 心をひとつにして呼び掛け続ける。
 三〇分──いち時間じかん──いち時間じかん半────。
 集中力が途切れる事も無ければ、だれ一人ひとりとしてブータレる者もいない。
 想いは、ひとつだから。
 と、突然、星空が白夜へと変貌した!
 何事かと仰ぎ見て……うん、納得。
 街の上空にデッカイ異形物が滞空していた。
 ぞくに〈葉巻型UFO〉と呼ばれるヤツ。
 その周りにまだらと浮かぶ編隊は、見覚えのある〝逆ハート型円盤〟……って、アレってば〈フラモン〉じゃんか。
「あ~あ、ジュン~?」
「私が呼んだわけじゃないしッ?」
 ボクのジト目抗議を慌てて否定。
 ま、キミの過失じゃないのは百も承知だけどね?
 呼び寄せる対象まで指定できるワケじゃないし。
「っていうか、何なのよ? まさか新しい敵?」
 久々に動揺どうようを見せるジュン。
 ああ、やっぱ落ち着くわ。
 この狼狽ろうばいから入るパターン。
「ねぇ、シノブン? 心当たりある?」
「生憎無いな」
「同じく……ですわ」
 ボクからたずねられる前に、ラムスが温顔で同調。
「うん、わたしのデータベースにも無いよ?」と、モエル。
「ま、相手が何者だろうと関係ないけどね。それが日常を脅かす〝害敵〟である以上〈SJKボクたち〉の選択肢は決まってるから」
 ボクの宣言に、みんなが決意あふれるうなずきで同意する。
 シノブンも──。
 ラムスも──。
 モエルも──。
 そして、ジュンも────。
 根拠要らず無敵パワーが、ボク達を祝福してくれた。
『地球人類ニ告グ──』葉巻型円盤から電子音声的な宣戦布告が響く。『──我々ハ宇宙怪物少女〈ベガ〉ニヨル新興組織〈イガルス〉デアル。我々ハ、コノ惑星ニ対スル武力制圧ヲ決定シタ。尚、抵抗ハ無意味。諸君達ノ科学力カガクリョクデハ我々ニ一矢イッシムクイル事スラ不可能。繰リ返ス、我々〈イガルスカラヴァァァァーーッ?』
 非情な強迫の途中で、突如、巨大葉巻が煙をいた!
 別に神様が喫煙したワケじゃない!
 何者かの特攻奇襲によって……だ!
 敵艦を貫通して勇姿を見せたのは、ドリル機首の空飛ぶ軽バン!
 視認と同時にパモカが鳴った。
 ボクの第一声は決まっている。
「おかえり♪ 」

[終]

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凰太郎
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