掛捨て保険に入りたくない日本人は、死と向き合えるか
お金がたまらないのなら、保険はいらない
令和元年は死に向き合うのに適した年になりそうだ。
日本人が生命保険に支払う金額が減ってしまった。
昨年同期の半分以下、会社によっては1割にも満たない。
≪2019年第二四半期 新契約年換算保険料 個人保険(≠個人年金保険)≫
保険会社 前年同期比
ネオファースト ______7.5%
エヌエヌ生命 _______16.9%
マニュライフ生命 ____29.5%
大同生命 ____________39.1%
FWD富士生命 _______45.7%
あんしん生命 _______ 46.8%
法人保険に対する税金の取扱が変わり、
保険を使って効率的にお金を貯めることができなくなったからだ。
これまで主流だったのは、保険料に税金が一切かからず、
解約すれば積み立てた金額の80~90%を受け取れるもの。
それに対して6月28日に法令解釈通達が出され、保険料に税金がかかるようになってしまった。
参考:国税庁Webサイト
ただし、変更されたのは取り扱いのみで商品スペックはそのまま残っている。
保障額あたりの保険料は変わっておらず、「死亡リスク」コストは変わらない。
積み立てやすさ、だけが変わった。
それにもかかわらず新規加入が半分になってしまう。
ここに、日本人の”掛け捨て嫌い”が象徴されていないか。
"掛け捨て"と呼ぶ日本人
掛け捨てとは保険事故がない場合に、満期になっても掛け金が戻らないものを指す。
現状では満期に掛け金が戻らないことに加えて、
解約しても何も返ってこない保険を掛け捨てと呼ぶ傾向にある。
これは国際的に見ると特殊な傾向だ。
掛け捨て保険を英語に直すと
non-refundable insuranceとなり、
戻ってこないというニュアンスは残るが、捨てるという意味は含まない。
もしくは期間が定まっているという意味で、term insuranceを使う。
またオランダでは同様の保険をRisicoverzekering と呼び、リスク保険と表現する。
100%保障された権利
安楽死を認めているオランダでは、保険金を支払わない項目に下記の通り記載している。
自殺の場合(+自殺しようとして死亡した場合)
De verzekerde overlijdt door zelfdoding of een poging daartoe.
一方で日本の保険会社は、契約してから1~3年経てば、自殺による死亡であっても、保険金が支払われる。
参考:note過去記事
日本人が掛け捨てと呼ぶ生命保険は、自分の意思で保険金を得ようと思えば、可能なシステムなのだ。
ただし、自殺の要因には様々なものがある。
その区別に一つの答えを出しているのは、ドイツ保険法だ。
冷静に選ぶ死もある
ドイツ保険契約法161条は下記の通りに定めている。
1.死亡事故にかかる保険のもとで、保険者は、
被保険者が保険契約締結後3 年の期限満了までに、
故意に(vorsätzlich)、自身を死に至らしめたとき、
保険給付義務を負わない。
2.当該自殺行為が、
精神活動の病気的障害により
自由な意思決定が排除された状態の中で実施された場合
保険者は、給付義務を負う。
精神活動の病気障害による自殺と、そうではない故意の自殺があると整理されている。
衝動的に死を選んでしまうことだけが想定されているのではない。
冷静に、生きることと死ぬことを比較して、その上で死を選んだ場合も、給付を受けることができるということだ。
期間限定(3年間)の免責は残るものの、これは保険会社を守る目的だと考えるのが自然だ。
日本は保険法こそ倣っていないが、実務ではこの判断を参考にしている。
死ぬことへの不安
精神的な病とは離れた自殺もあると定義された上で、自殺について考えてみる。
積立ではなく、「死亡保険」という側面から、死を考える。
自分が亡くなるときに何が必要なのか。
ただし、日本人は死について考える時、終末期をイメージする人が多い。
特にがんの印象にひっぱられてしまう。
ある程度の年齢になってから、
病院のベッドで大切な人と少し話をした後で、亡くなる。
そしてその過程で、お金もかかる、と感じている。
医療費としてかかるお金
1974年にアフラックより発売されたがん保険は日本で大ヒットした。
その売れ行きは、アメリカ、イギリス、南米をはるかに上回るほどだった。
一方で、日本には健康保険がある。
高額療養費制度によって医療費は払い戻されるし、
限度額適用認定証を利用すれば、立替すら不要だ。
年収300万円程なら、自己負担額は57,600円。
医療費が100万円かかっても、200万円かかっても負担するお金は変わらない。
年収600万円程の場合、医療費100万円で自己負担87,430円。
医療費が200万円かかった場合、
自己負担は1万円増え、97,430円となる。
病院が案内してくれるケースも多く、
制度を知らなくても問題なく活用できるようになってきた。
参考:厚生労働省Webサイト
自殺は死に向き合うのにふさわしい
病気にかかるお金を知った上で、改めて死について考える。
自分が亡くなるときに必要なのは?
自分が亡くなるまでに必要なのは?
すべきことは。したいことは。
生きるために必要なお金は?必要なことは。
病気や事故で亡くならなかったら、自分で終わらせると仮定して、逃げずに考えてみる。
もし、冷静に終わらせるならいつだろう。
終わらせないなら、なぜなのか。
死と向き合う
日本では、Insuranceを死亡保険ではなく、生命保険と訳し、
自分で時期を決められる自殺も含めて、
死亡すればお金を受け取れる保険を"掛け捨て"と呼ぶ。
保険をつかっても語れないほどに、死を遠ざけてしまった。
生命保険の積立における一つの側面が失われた令和元年、
死ぬことを考える転機になるかもしれない。
自殺免責などについて書いています。 生きることも大切にしたいから、死に向き合ってみたい。