くるりはロックだけじゃない @ Zepp Haneda 2022/08/04(木)
くるりライブツアー2022のセミファイナルへ。
意味深なタイトルを付けてしまったが、単純に曲や演奏、魅せ方の振幅が広いなと感じた。さすがの貫禄であった。
M1. Bus To Finsbury ~ M5. 忘れないように
自分がくるりのライブに慣れていないからか、先陣を切ってステージに登場したキーボードの野崎さんを岸田さんと見間違える所からスタート。髪型補正もあってか、かなり似てた。
挨拶を挟んだ後、2005年のアルバム『NIKKI』の1曲目、軽快なリズムの「Bus To Finsbury」でライブは幕を開ける。
続く選曲が早速サプライズだった。「目玉のおやじ」こそ王道のようなギターリフから始まるので、流れ自体に違和感はなかったが、「コンバット・ダンス」のイントロにはさすがに目を丸くした。大好きな曲ながら、きっとこの先ライブで観ることはないだろうと思っていたからだ。観客の反応も早く、会場が一気にグルーヴィーに揺れ始めた気がした。
異様な風景の街から幹線道路へ戻るかのようにM4「ブレーメン」M5「忘れないように」が続く。「ブレーメン」は後半のBPMが上がるセッションがかっこいい。私はステージ向かってやや左、前から3ブロック目で観ていたので、松本さんのギタープレイが全編通して印象的だった。くるりの歴史はあまり詳しくないのだが、松本さんは長年このバンドをリードギターで引っ張ってきたかのような絶大な信頼感と貫禄に溢れていた。
オーケストラを擁した繊細で叙情的なイメージが代名詞とも言える曲だったが、5人のバンド構成での演奏もまた素晴らしく、この日はソリッドで骨太な表情を見せていた。
M6. bumblebee ~ M10. 風は野を越え
続くMCでは岸田さん曰く「ヒット曲満載でお送りしております。」とのこと。まあこの時代、ヒットしたかどうかなんてもはや個人の感覚なので。「コンバット・ダンス」は本当にヒット曲だよなあと思いながら、グラミー賞だの紅白歌合戦だのカウントダウンTVだの、声は出せないながら会場の笑いを誘うMCが続いた。
「全世界で1,800万枚売れた」と称して演奏されたのは2012年のアルバム『坩堝の電圧』より「bumblebee」。自分が一番好きなアルバムからの独特なセレクトに、驚くとともに気分が高鳴った。ホーンセクションが目立つ印象の曲だったが、これもまたバンドアンサンブルに乗せて演奏されることで、現在の、5人編成としてのくるりの曲に仕上がっていた。野崎さんと松本さんもコーラスで加わったハーモニーも美しい。
「Morning Paper」「しゃぼんがぼんぼん」「青い空」のストリームは流石としか言いようがなかった。ロックだけじゃないと逆張りで言いたくなるのは、やはり彼らの根幹はギターロックだからだ。特にこの5人編成での演奏にピッタリの流れであった。
ライブで初めて見る「青い空」が情熱に溢れていてかっこよかった。
じっくりとBPMを落とした「風は野を越え」で、カーテンで閉じられた背景が暖かなライトに照らされる。ライブで聴くと、ゆったりとした曲なのにベースラインが暴れているところが印象的で良かった。
MCでは、汗かいたので拭いてもいいですかのくだりからグッズ紹介へ。岸田さんと佐藤さんが"偶然にも"同じタオルなので、
岸田さん<「オナ?」
佐藤さん<「タオ?」
の掛け合いがこの日の鉄板フレーズに。いやこの掛け合いいつまで引っ張るねんというくらい繰り返していた。観客もバンドメンバーもみんな微笑ましく見ていた、はず。
M11. Time ~ M16. Giant Fish
全編通して3曲分からなかったなあと思ったのだが、1曲は「Time」だった。"シャンゼリゼ通り"ってどこか聴き覚えはあった気がしたので、もしかしたら何度か聴いていたかもしれない。
そしてようやく紛れもなく普遍的なヒット曲群へ。定番だろうけど「さよならリグレット」は本当に大好きな曲で、心も体も踊った。当時は中学生だっただろうか、このMVのヘンテコな振付が好きだった。
「ばらの花」も素晴らしい。バンド構成と言えどこうした繊細な曲も奏でられる器用さも、今のスタイルの魅力だろう。秒針のように刻むリズムが好きで、石若さんも本当に技術力が高いなと感じた。
暗転して、一定のピッチでギターが鳴らされる。ドラムが入ってくるところでようやく何の曲か分かって、もはや悔しい思いすら覚えたのが「white out (heavy metal)」。この曲もレコ発以外でやる曲なんだなと驚いたが、前述した通りのソリッドなスタイルにうってつけだ。お気に入りの『坩堝の電圧』から既に2曲、至福だった。
パッと分からなかった3曲目中2曲目が、続く「マーチ」。2000年のアルバム『図鑑』の2曲目なら、さすがに勉強不足だったなと今思う。
「Giant Fish」は『thaw』を聴いていたのでギリギリ、ピンときた。ライブで聴くと迫力が凄まじい。このタイミングでステージ後方のカーテンが開いて再び銀幕の背景になったと思ったら、青へ橙へ照明が移り変わる。歌詞とリンクする光景って、ものすごく印象に残るなと感じた。
M17. かごの中のジョニー ~ M21. loveless
ここで挟んだMCでは、会場であるZepp Hanedaの最寄り駅「天空橋駅」のワードとしてのかっこよさから始まり、駅や路線の歴史の話へ。元々は羽田空港へ向かうための終点だったが、羽田空港のビルにも駅ができてからは電車の通過が多くなったとのこと。けれどZepp Hanedaも2020年にオープンしたてだし、付近の開発も着々と進んでいる。
ここからは私の考えだが、今日のセットリストみたいだなと思った。改めて良いものだよね、もう一度スポットライト当ててみようといった想いが、どこかでリンクしているような気もした。(ツアーで全国を回っていることを考慮すると、さすがに深読みし過ぎだと思うが。)
鉄道の話から、「モーターが鳴らす音を音楽的に増幅させる」プロジェクトを進めている話へ。会場ではその試奏も聴くことができた。が、果たして芯から理解できた人は何人いるのか。
知識量溢れるMCの後は「かごの中のジョニー」へ。跳ねるようなビートから始まったと思えば、終盤のセッションは音圧が物凄かった。五人五色で自由に自分たちの楽器を鳴らしまくり、岸田さんに至っては早速先ほどのモーターをギターアンプに繋いでセッションに組み込んでくる。全ての音がまとまった後でシームレスにつながる「Tokyo OP」も圧巻だった。
続く曲が、この日分からなかった3曲目だったのだが、後から調べたら新曲のようだった。この曲が本当に良かった。"夏の香り"と歌詞に出てきた通り、じっとりとした夏の空気を纏いながらも心地よいメロディだった。アウトロの余韻がとにかく長く、もはや10分くらい演奏していた気がするが、さすがにライブアレンジなのだろうか。
「ハイウェイ」も心に響いた。フィジカルな旅行に出かけづらい世の中ではあるが、それでも響くものがあるのは、この曲の持つ素朴ながらも壮大な風景が広がっていくような開放的なエネルギーのお陰だろう。終盤の"僕には旅に出る理由なんて何ひとつない" のフレーズは、改めて聴くと沁みる。モーターを鳴らす理由だって、モーターが良い音だったから、くらいで良いものなのだ。
暖かい光のような「loveless」へ続く。コーラス終わりの、踏み鳴らすように各パートがハマる所がライブではグッとくる。この辺りでいよいよ本編も終わりかなあと思っていた。
M22. everybody feels the same ~ EN2. ロックンロール
案の定本編ラスト、「また皆さんと健康で会えることを願っています。お元気で。」とMCを挟んでからの松本さんのギターリフ。何度も聴いた、いつ聴いても一瞬で元気が出るイントロだ。
この曲も原曲はホーンが印象的だが、もはやこの日のくるりはそんなことを感じさせる猶予を与えない、有無を言わせないバンドとしての底力を見せていた。ラストのコーラスではやはり、拳を上げずにはいられなかった。
綺麗にラストを迎えたと思ったら、何故かギターを持ったスタッフが左袖から出てくる。
「本編ラストやと思ってたらもう一曲ありました。」
なんとも最後までマイペースな岸田さんであった。
真のラスト「潮風のアリア」で本編を締めくくる。この曲の歌詞もよく聴くとかなり印象的だ。意味があるのかないのか、とりとめのない歌詞ながら所々のワンフレーズにハッとする。それも幾何学的ではなくメロディアスに歌われるので、一体何を聴いているのか不思議な心地で幕を閉じた。
アンコールでは着替えもせず再登場。「琥珀色の街、上海蟹の朝」へ。
この曲はプレゼンスがとにかく大きく、くるりが幅広いポテンシャルを持つことを老若男女問わず知らしめたような立ち位置の曲だと思っているのだが、本記事で言いたかったのはこの曲のようなアプローチをとるその他の楽曲群についてだ。
さすがにハンドマイクでヒップホップのように歌い上げる曲はなかなかないが、序盤の「コンバット・ダンス」や「bumblebee」のグルーヴも、「かごの中のジョニー」のハネ系のビートに合わせたマイナーとメジャーの往来も、昨今流行っている都会的な音楽に近い実験を幾度も試してきたバンドだったんだなと実感した。
更には、それらを現在の5人のバンド構成で、まるで現体制ありきで制作した曲かのように自由自在に演奏する姿は、経験に裏打ちされた演奏面での地力とチームワークの賜物だろう。
おそらく長年のファンの方々にとっても、嬉しい驚きの多いツアーだったのではないかと思う。新規のファンの方々にとっても、くるりへの間口をこれでもかと広げられたライブになったはずだ。
今回魅せた一面もほんの氷山の一角で、ジャンルで言えばカントリーもプログレもメタルも、バンドスタイルだろうとオーケストラスタイルだろうとその時々のモードに合わせて演奏してみせる、彼らの懐がこの上なく広く深いことに気付かされた。
アンコールラストは、東京公演だから「東京」やるのかなあと思っていたら「ロックンロール」。独特なセットリストから多様なジャンルに富んだ曲群を演奏してきたけれど、結局最後に帰ってくるのはロックンロール。会場が一体となるような多幸感に満ち溢れた空間を作り出して、ライブを終えた。
これから夏がまだ続くので、新曲が公式の音源として聴けるようになるといいな。
(新曲以外のセトリを再現した自作プレイリスト)