『Be Here Now』 Oasis
Oasis再結成に肖って。
私が人生で一番聴き込んだ洋楽アルバムは間違いなくこちら、Oasisの3rdアルバム『Be Here Now』。今も昔も海外の音楽は全く詳しくないが、この作品だけは聴き込んだ記憶がある。
この作品、世間では評価が二分しているとよく聴く。1stと2ndを称賛するリスナーが多いあまり、"迷作"や"駄作"と批判されたり、逆にそういった声に反発して"名作"と持ち上げられたり。結局の所、この作品が名作かどうかは今でも判断が付かないが、Oasisのアルバムの中で私が最も愛した作品であることは間違いない。
そもそもこの作品との出会いは中学生時代に遡る。よく知りもしないのに洋楽を聴いてスカしたかった時代に、BOOKOFFで初めて手に取った海外のCDが中古の『Be Here Now』だった。ジャケット裏に書かれている「1st Single」みたいな書き方に騙されて、1stアルバムだと勘違いして購入した。
蓋を開けたら、M1「D'You Know What I Mean?」のイントロから高揚感が凄まじい。当時"洋楽"に対して抱いていた華やかでアップテンポなイメージを覆すように、思ったよりスローなビートで気怠いボーカルから始まるこの曲は良い意味で想像を裏切ってきた。
ところが、聴いていくうちに重たいな、、、と思ったのが正直な感想だった。重いし何となく音作りもグジャッとしていて掴みどころがない。あと全体的に長い。冒頭の「D'You Know What I Mean?」は7分42秒、その他の曲も5分超えがほとんど。そもそもこのアルバムは12曲入りで1時間11分と、曲数の割に収録時間が長く、かなり濃厚なつくりとなっているのだ。
中学生の自分には、特に洋楽入門編としてはとっつきにくい作品だった。咀嚼にあまりに時間がかかるため、アルバムの中でもメロディアスなM4「Stand by Me」やM8「Don't Go Away」、またはM5「I Hope, I Think, I Know」やM11「It's Gettin' Better (Man!!)」のような軽快な曲がかろうじて救いだった。「I Hope, I Think, I Know」は特に、重厚な曲が続いた流れの中で颯爽と現れて去っていく配置も含めて当時の自分にとってヒーローみたいな曲だった。ただ、このアルバムの主題ではないんだろうなという印象はあった。
1stと間違えて3rdを買ってしまったくらいなので当時は他の作品のことなど知る由もなかったが、真の1st『Definitely Maybe』はテンポの速い曲も比較的多いし、2nd『(What's the Story) Morning Glory?』もキャッチーな曲が多い。つまり、後々考えると「自分が初めに手を取るべきはこのアルバムでは無かったのでは、、」と思えてくるわけだが、当時は頑張って聴き込んだものだった。
聴き込むと愛着が湧いてくる。M1「D'You Know What I Mean?」は前述した通りスローなテンポで曲のスケールも長いわけだが、繰り返し聴くとその壮大さが感じられるようになる。M1と同じく7分超えのM3「Magic Pie」は、マイナーコードの哀愁漂うヴァースから途中でノイズが解けて、コーラスではガラッとメジャーに切り替わって確かに"Magic"っぽい印象を受ける。それにしても"Magic Pie"ってどんなネーミングセンスだよ、とか。
一つ一つの曲が長いからこそ曲中での展開はバラエティ豊かで、その展開を味わえる余裕が出てくると良さが分かってくる。(リズムパターンだけはバリエーションに乏しい気はするが、、、)
表題曲のM9「Be Here Now」は、ハードなギターリフに反してどこかコミカルさを覚えるメロディが独特で、やたらと賑やかな曲。M8「Don't Go Away」の泣かせるメロディからM10「All Around the World」のアンセムに直接流れても良さそうなところを、間にこのお祭りソングを挟んでくる配置の妙も面白い。
M10「All Around the World」はライナーノーツでのノエル曰く、デビュー前から曲はあったが、3rdアルバムというタイミングで作品の終盤に持ってきたかったとのこと。何となく分かる気がする、この曲は1stには入らない。
ある程度バンドとしても円熟してきて初期衝動が抑え気味になった頃に、俯瞰した余裕のある視点から広大な世界観を歌う。ブラスを使ったアレンジとか展開は派手でやや過激な気もするが、そのおかげで実に9分越えという驚くほどの曲の長さを数字ほどは感じさせない。
3rdアルバムくらいのタイミングで"アラウンドザワールド"的な曲をリリースするのはバンドマンとしても心地が良いのだろうか。
アルバムで一番のお気に入りはM7「Fade In-Out」。この曲も例に漏れず6分52秒の大作。最初のヴァースが始まりそうで始まらないようなイントロから、しびれを切らした頃に静寂を切り裂くように入り込んでくるリアムの"Get on the rollercoaster"の一節。ドラムが入らない落ち着いた展開でじっくりと"fade in-out"のフレーズを繰り返した後に、リアムのシャウトで堰を切って流れ出すビート。散々焦らされた後に訪れる、一種のカタルシスである。
私にとってはこの曲が『Be Here Now』というアルバムの核となっているし、今でも音楽の好みに影響を与えていると思う。一聴して脊髄反射的に良さが分かる曲も勿論良いが、序盤は少し時間がかかりながらもじっくり咀嚼することで真髄が分かってくる、そんな構成自体を楽しむことがいつの間にか好きになっていた。
結局のところ、『Be Here Now』は名作だったのだろう。『Definitely Maybe』や『(What's the Story) Morning Glory?』と比較すると、一聴して魅力が伝わってくる感覚は弱いものの、むしろ聴き込んでやろうという意識を芽生えさせる複雑さを備えている。当時の自分はそこまで高尚な心持ちで聴いていたわけでは無いが、いずれにしても時間をかけて味わう価値のある作品であることに間違いはない。
あの時「合わないな」とか思ってCDを投げ捨てなかった当時の自分を褒めたい。
最後に、Oasisの個人的オールタイムベストを。純粋に全曲から15曲選んでみたら物凄く月並になってしまった。
『Be Here Now』からは「I Hope, I Think, I Know」「Fade In-Out」の2曲のみ、Deluxe Editionも踏まえると「Stay Young」含めた3曲。褒めてはみたけれど、結局そんなもんか。