本日はお日柄もよく|原田マハ
原田マハ著「本日はお日柄も良く」という小説を読んだ。とりあえず、2019年に読んだ本の中では一番よかった。その時の仕事や人生の状況や心の状態によっては受け取り方が成熟して変化しそう。また1年くらい経って読んでみたいと思う。
あらすじ(さわりだけ)
主人公はOLの二ノ宮こと葉。幼馴染の男の子・あっくんの結婚式の日に、伝説のスピーチライター久遠久美(くおんくみ)に出会う。決まりきった結婚式の中で久遠久美の祝福スピーチだけがこと葉の頭から離れなかった。後日、会社の同僚であり親友の千華(ちか)から、結婚式での友人代表のスピーチを頼まれたこと葉は、久遠久美と再会して弟子入りする。
これはマイベスト本2019。
今年、正直たくさんの本を読めたわけではなかったので2020年は、最低月に2〜3冊は読んでいきたいところだが…。うまく言えないけど私は「本日はお日柄もよく」という本を忘れない気がしていて、それはひとえに言葉が好きだからだ。登場人物の台詞も物語のト書きも言葉が素朴で美しい。本を読んでいるとよく、知らない言い回しやうまい言い方に「くうぅ良い表現だなあ」と唸ることもあるのだけど、この本はそういうのではない。書かれている言葉の1つ1つがすっと心に入ってきて、読者を置いてきぼりにしない。親友の結婚式でのスピーチという大役を見事果たしたこと葉は程なくしてスピーチライターの道を歩み始める。そこから始まるまっすぐであたたかいストーリー展開に、いつしか彼らを応援し、自分を省みていた。
言葉の持つ力を、信じたい
常々思っていることではあるが、言葉には偉大な力がある。心に刺さって取れない言葉、明日を生きる活力になる言葉、何気ない日常を支えている言葉。毎日いろんな言葉がたくさんの人から生まれては排出されていく。学生時代にキャッチコピーや広告の勉強をしていたこともあり、私は言葉が好きだ。似たような意味の言葉も多くある中でなんでこの単語にしたんだろうとか、語尾がこうだったら印象変わってそうとか、そういうこと(を考えてどうするというわけではないのだけど)に考えを巡らせるのが好きなのである。
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主人公・こと葉が親友の結婚式でスピーチをする場面が割と序盤にあるのだが、涙が止まらなかった。綺麗なのに背伸びしていない、整っているのに自分らしさのある言葉選び。会場の皆がこと葉の発する言葉に包まれていくようなあたたかさ。そのスピーチ中でとても好きな一節がある。
本日は、お日柄もよく、心温かな人々に見守られ、ふたつの人生をひとつに重ねて、いまからふたりで歩んでいってください。
たったひとつの、よきもののために。
(このフレーズは別の場面でも出てきて、そこでもまた涙した)
「いまから」とか「ふたり」とか、他の変換もできたはずなのにひらがななのはあえてだろうか。
物語はこの後、こと葉が本格的にスピーチライターとして働き始め、より多くの人の心を動かす「政治」を言葉で後押しする展開になる。(あえて詳しくは書かない) そこでも登場人物たちのまっすぐさに心が熱くなる。何か成し遂げたい時ってどうやるんだっけ。人を動かすって難しいよなぁ。そんなことを思いながらすっかり私も彼らの一員になっていた。
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「本日はお日柄もよく」って、つまらなくて堅苦しい言い回しだと思ってた。タイトルと表紙を見て書店で手に取った時と読み終わった後とでは、このフレーズが纏うあたたかさが変わった気がした。いつか大事なスピーチを頼まれることがあったら、読み返してスピーチライターになりきるつもりだ。
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