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松下幸之助と『経営の技法』#150

7/14 耳を傾ける

~上司が部下の言葉によく耳を傾けると、部下は自主的にものを考えるようになる。~

 2人の上司がいる。能力的にはどちらも同じぐらいである。ところが、1人の方の下では部下がよく育ち、生き生きと仕事をしている。けれども、もう1人のところでは、何となく人が育たない。何かしら活気がない。そういう姿は、しばしば見かけることではないかと思う。同じような力をもち、同じように熱心に仕事をしていながら、その下で人が育つ人と育ちにくい人とがある。一方はいわば人を使える人であり、もう一方は人を使えない人ということになる。
 そういう違いがどこから出てくるかについてはいろいろあるが、その大きな一つとして、部下の言葉に耳を傾けるかどうかということがあるように思う。日頃部下の言うことをよく聞く人のところでは比較的人が育っている。それに対して、あまり耳を傾けない人の下では人が育ちにくい。そういう傾向があるように思われる。
 なぜそうなるかというと、やはり部下の言葉に耳を傾けることによって、部下が自主的にものを考えるようになり、そのことがその人を成長させるのだと思う。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 まず1つ目のポイントです。
 それは、自主性を重んじる経営モデルです。
 これは、経営者の指示や命令を忠実に遂行すればそれでよい、という会社組織の一体性を重視するモデルと対比すると、理解しやすいでしょう。すなわち、一体性を重視するモデルでは、経営者のキャパシティーを超えることができません。他方、自主性を重視するモデルでは、経営者の手の届かない分野でも会社が機能しますので、経営者のキャパシティーを超えることができます。
 松下幸之助氏は、繰り返し従業員の自主性を強調しており、自主性を重視するモデルを推奨していることは明らかでしょう。
 2つ目のポイントです。
 それは、自主性を育てる手法として、「部下の言葉に耳を傾ける」ことを勧めている点です。特に、従業員が自分の考えを表明しようとする意欲を抱く点に、重点が置かれているようです。もちろん、意欲が重要なことはその通りですが、さらに、自分の考えを実際に伝えることによって、自分の考えを整理し、他人に理解させる作業も重要です。自分の不満や考えを、漠然と抱いたままにするのではなく、他人に理解させるまで整理し、実際に伝え、相手の反応を見る、さらに、実際に理解するまで対話を行い、相手の考えを理解したり、ギャップを埋める工夫をする、等のコミュニケーションが、表現力だけでなく、理解も深めていくのです。
 3つ目のポイントです。
 それは、管理職者の重要性です。特に、自主性を重視するモデルでは、経営者が現場に権限を委譲する領域が必然的に発生しますので、それを受けて、実際に経営者の代わりに現場を仕切り、リードする管理職者の能力は、非常に重要です。管理職者が、それぞれのチームを適切にコントロールし、能力を発揮させることが、組織全体の能力を大きく高めるのです。
 そのために、管理職者が部下を育てられるかどうかは、根本的な問題です。個人プレーではなく、組織として活動しますので、チームの力を上げられることも、管理職者としての重要な資質なのです。
 このように、「部下の言葉に耳を傾ける」ことの重要性は、管理職者の役割や資質の問題として、非常に重い意味があるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、ここでのコメントを見る限り、従業員の教育が重要、というようにも読めますが、上記の検討を見ると理解できるとおり、実は、管理職者の能力が大事です。つまり、経営者の資質として見た場合、管理職者の能力を高め、引き出せる能力が、経営者に求められる資質です。そのために、管理職者に対し、従業員を育てる手法を松下幸之助氏が説いているのです。

3.おわりに
 さらに、人が育つという面とは少し違う面になりますが、「部下の言葉に耳を傾ける」リーダーの部門は、概して、活気があります。部門内でのコミュニケーションも活発で、業務の抜け漏れやミスが少ないだけでなく、新たなアイディアや発信も行われます。従業員のストレスも低く、メンタル、欠勤、ハラスメントなどのトラブルも小さくなります。
 この意味でも、一体性を重視し、命令に従えばよい、というタイプのリーダーよりも、現在の多様化したチームをまとめる上で、「部下の言葉に耳を傾ける」リーダーの方が、適しているように思われます。
 この意味で、松下幸之助氏は、時代の枠を超え、時代を先取りした会社経営の在り方を、提案していたと評価できるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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