日記23

世の中は単純ではなくなっている。
複雑に絡み合う社会課題に置いていかれたくない、だから僕は本を読む。
僕には親友がいる。
産まれた病院も誕生日も好きな食べ物も身長も体力測定の結果も好きな季節も同じだった。
でも同じなのは高校までだった。
僕はフルブライト奨学生としてイェール大学へ、親友は3流の大学を3浪し5流の成績で卒業した。
帰国して久し振りに会った彼はまるで初めて出会う他人の様で髪色は赤色と黄色が混じり腰に届きそうな程の長髪に両手の全指に髑髏の指輪をしていた。
『その指輪は何?』
「かっこいいだろ?ほら」
靴を脱ぐとなんと足の指にも指輪を嵌めている。
ドッキリなのかと疑ってしまうくらいの変貌遂げた彼は何もかもが昔と変わっていた。
変わらないのは親友である事だけだった。
追いかけてくる季節に取り残されたような少し肌寒い春、中学3年生だった僕らは村のそこらじゅうに線香を炊いてまわった。
人口より野生の鹿や猿の方が多い村に生まれた。
コンビニなんてなく個人商店が一件、寂れた稼働してるかも分からない工場が一つ、村民の8割は漁師のこの村は多感な年頃の僕らには刺激が無さすぎた。
「この村は終わってる、葬式をしよう」
今思えば意味不明な提案だが当時はその通りだと思った。
村は線香の煙まみれになった。
港の河口にいた少し季節外れの白鳥は線香が苦手なのか一斉に飛び立った。
僕らは線香の匂いが好きで、その空気を存分に味わう為に深呼吸を繰り返した。
漁から帰ってきた大人達は最初とても怒ったが段々と困ったような顔をして漫画みたいに頭を抱えだした。
僕と親友は長男で一人っ子だ。
本来なら漁師を継がせる為に家業の手伝いをさせる歳だが僕らは何もさせられる事はなかった。
やる気もなかったけれどきまぐれに父に漁に連れてってと言った事が何度かある。
でも毎回『お前は大学に行け』と返答し黙り込んだ。
要は出て行けという事なんだ。
僕らの生まれた村はあの日に終わった。
久々に親友と再開し昔を思い出していたが、こんな話は止めて前向きな話をしよう。
そうだ先日生まれた僕の娘の写真でも見せよう。
『おい、良いもの見せてやるよ驚くぞ』
「この国は終わってる、葬式をしよう」
僕は当時の村の大人達の様に頭を抱えた。

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