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4 あいのことば
彼氏と付き合って、一年半が経った。
定期的に考えるのが、「彼氏への感情の名前」だった。
私たちの始まりを思い出す。きっかけは、私だった。
「私たちってなんなの?」と、友達関係を終わらせる言葉を発したのは私。
彼氏のことは「大切」。ずっと隣にいたいし、いてほしい。何かを考えたときに私のことを思い出してほしいし、彼氏のことを思い出したい。
「好き」
心のなかで唱える。
どうしても、しっくりこない。
なんとなく違う。この感情を表すには軽くて足りない。
「愛してる」
心のなかで唱える。こちらはなんとなく重たくて堅くて、やっぱりしっくり来なかった。
どう足掻いても見つからなかった。
彼氏の腕のなかで「好き」と呟く。
「おれも」と笑って抱き締めてくれる。
幸福だと感じるけれど、発した言葉がハマってくれない。
なんだかちぐはぐで、嘘を吐いてる気持ちになって、仕方ない。
夏目漱石の有名な逸話を思い出した。
「I LOVE YOU」を「月がきれいですね」と訳した、アレだ。
月がきれいですね、と言って
相手も頷いてくれるような。
共通の言葉を見つけたい。
ありふれた言葉じゃなくて、私とあなただけでかっちりハマるピースのような、そんな合言葉を見つけたい。
なんて、ことを考えて。
うまい言葉が思い付かず、いつも通りに発してしまい。
そして後悔するのだろうな。
うそではないけれど、うそのような。
そんな居心地の悪さを感じるのだろうな。