せきぞう、の『旬杯俳句審査員賞:瀬奇造賞』
このたび
俳句審査員という大役を仰せつかりました。
選句するにあたって、俳句の記事は読ませていただきましたが、
みんなの感想・解説・好みに引っ張られないように、コメント欄は見ない事にしました。
(だれにもコメントしなかった言い訳か?)
せっかく俳号を作ったのですから、
私の審査員賞は「瀬奇造賞」といたします。
審査評(らしきもの)は、
私個人の感想ですので詠み人の意図と違っているかもしれません。
もし、違っていたら、
「何言ってんだか!」って笑い飛ばして忘れてください。
順位は個人的な好みにすぎませんので、お気になさらずに。
十二句全部が1位でもいいと思える俳句たちでした。
《 瀬奇造賞 》
審査員賞に選ばせていただいた六句です
【1位】
病室の祖父の眉切る皐月波 :理菜さん(うつスピさんから)
皐月波と言うのは、皐月の頃にたつ波のことで、この頃の波は梅雨と強風で荒れる事が多いのだそうです。
皐月波という言葉から、波のような荒々しい眉を整えてもらっているとも取れますし、祖父の人生が、何度も荒波を乗り越えるような物であったのだろうとの想像もできます。
おそらくは、その両方なのでしょう。
病室で孫に眉を整えてもらっている好好爺の風貌とその人生が、
「皐月波」という季語のみであらわされているのは見事としか言いようがありません。
祖父の人生が見えてくる俳句でした。
二句目との対比も素晴らしかったです。
【2位】
古びたる扇子を佩いて新茶買う :兄弟航路さん
粋な俳句ですね、
扇子を佩いているのですから和装でしょう、「古びた扇子を佩いた和装」という言葉からセピア色の情景が浮かんできました。
「新茶買う」で締められている事で、新茶の萌黄色が鮮やかな差し色となって目に飛び込んでくる印象です。
言葉としての「古」と「新」の対比と、
思い浮かんだ色の「セピア色」と「萌黄色」の対比が美しい。
大正浪漫の空気を感じた俳句でした。
【3位】
ラマダンの残夜嘶く鶏の声 :かっちーさん
「嘶く」の言葉が無ければ風景描写の俳句になるのでしょうけど、
鶏が「嘶く」とした事で人の姿が見えてきますね。
断食により研ぎ澄まされ敏感になった神経が、いつも聞き慣れているはずの鶏の声を、不協和音のように甲高く突き刺さって感じさせるのでしょう。
断食中の人の心理状態までをも感じさせてくれます。
たった一つの言葉の威力がスゴイ。
言葉の選び方が秀逸だと思った俳句でした。
【4位】
文机に空蝉ことり夕まぐれ :林白果さん
夕まぐれ、薄暗くなってきた頃合いに開け放たれた窓からのそよ風で、
文机の上の蝉の抜け殻が「ことり」と動いたのだろうか。
ほんの少しの寂しさと、やさしい そよ風を感じます。
「文机」「空蝉」「夕まぐれ」という言葉のそれぞれが、響きあっていて気持ち良い。
静かで涼し気な和の空間を感じさせる俳句でした。
【5位】
路の先ノウゼンカズラ生きて会おう :大橋ちよさん
「路の先」とは 己の信念に従った先。
「ノウゼンカズラ」の花言葉は 名誉・名声。
「生きて会おう」は 戦地へ赴く友への言葉。
で、あるならば、
己の信念に従い戦地へ赴く者は、戦闘に勝ち名声を手に入れたいと思う。
待つ者は、生きて帰還してくれる事だけを願う。
価値観が違う二人の別れのシーン。きな臭い戦争と友情のお話が見えてくるようです。
物語の一部を切り取ったような俳句でした。
【6位】
傘回し花下駄鳴らす梅雨の月 :さいとうT長さん
「夜目、遠目、傘の内」は、女性が美しく見えるシチュエーション、作中人物はきっと、この女性に見惚れているのでしょう。
半分ほど雲に隠された満月、濃紺の着物に薄桃色の帯と花下駄の女性。朱の蛇の目傘を回しながら、なにかしら良いことでもあったのか、ふわりふわりと歩いて行きます。静寂の中で下駄の音だけが「カラコロ」と・・・
もしかすると、この女性は怪かもしれない。
想像が膨らんでいく俳句でした。
《こちらも好きで賞》
審査員賞の最終候補の六句(投句順)です
海猫の鳴き声遠し君の嘘 :くーや。@ゆったりまったりさん
「君の嘘に気付いた日、僕は一人で防波堤の上に座っていた。
傍らを通る漁船までもが涙で霞んで、どこか遠くから海猫の鳴き声だけが聞こえてきたんだ」
嘘も、良い嘘と悪い嘘があると思いますが、君の嘘はどちらだったのでしょうか・・・
詩情あふれるドラマが見えてくる俳句でした。
清流の音どっと来て夏の宿 :チズさん
「音どっと来て」清流が空気を巻き込んで押し寄せて来るような臨場感、音圧の凄さに身を曝している様子、自然の迫力を眼前にした人間の心細さや恐怖を連想させます。
この荒々しい描写から下五の「夏の宿」
動から静への場面転換ギャップにより感じる安心感が、リラックスしている人物の様子を感じさせてくれますね。
この流れは気持ち良い。
納涼感もあり避暑気分満載の俳句でした。
平凡に生き平凡に茄子を焼く :鮎太さん
平々凡々と生きていると、少しばかりの変化が欲しい所ですね。
茄子を自ら焼いて食べるのも平凡な事なのでしょうけれども、焼いた茄子に味噌をつけて、酒のアテにする。茄子好きには至福の瞬間かもしれません。
平凡なればこそ感じられる些細な幸せ。
平凡の中にこそ本当の幸せが有るのだと気付かせてくれる俳句でした。
あの渚あの南風あの笑顔 :マー君さん
三段切れをうまく逆手に取った俳句ですね。
この句は三段切れにする事と「あの」「あの」「あの」のリフレインで、訥々としたリズムを作っています。
写真を一枚一枚並べながら回想しているような雰囲気が有りますね。
色褪せた古い写真を並べながら、「あぁ、あの頃はこんなだったよねぇ」と熟年夫婦が訥々と語らい合っている。そんな情景が浮かんできます。
懐かしい気持ちになる俳句だと感じました。
でで虫や濡れた家財の並ぶ道 :IKUKO@するすみさん
豪雨で浸水の被害にあった家財を外に出している様子なのでしょうか。家も住める状態ではないのかもしれません。
雨もあがり、水が引いたとしても生活はすぐには元に戻る訳でもありません。しかし、人々の生活に多大な影響を与えた水害の後でも「でで虫」の様子は相変わらずです。
家を失くす事のない「でで虫」を、羨ましく思う心情までをも感じられる俳句でした。
ソーダ水 鈍いあなたの 口の端 :Aouekoさん
『 私の気持ちに気付かない「鈍いあなた」
嘘がバレているのにも気付かない「鈍いあなた」
そんな「あなた」の物言いたげな、口の端。
ソーダ水のような爽やかな物を頼んでおきながら、どうやって嫌な話を切り出そうか考えているのだろう。
「わたし」は「あなた」が何を話そうとしているのかを知っています。
でも、知らないふりをしていましょう… 』
私の頭の中で、こんなドラマが始まってしまいました。
小説の冒頭部分のように、
「これからどうなるの?」と思わせてくれる俳句ですね。
《あとがき》
ここに取り上げた俳句以外にも好きな俳句が沢山あり、十二句に絞るのがとても大変でした。しかも私が順位つけるとか、おこがましい。
今回はコメント欄には行かないと決めていましたので伺いませんでしたが、コメントしたくなる俳句もたくさんありました。
とうけつ前さいごの「みん俳」に、審査員という形で関わらせていただいた事に感謝いたします。
私の審査評(らしきもの、感想文?)に、おつきあいくださり、
ありがとうございました。
最後に せきぞう、らしく
イラストも入れておきましょうか
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