第172怪~父
17日の日曜日の事だ。
夜20時からストロベリーソングオーケストラのプレミア配信があるから、午前中の間に色々と用事を済ませ、午後からは誕生日プレゼントでいただいたビールやらお酒やらを呑みつつ、7月の瀉葬文幻庫の作業をしていたのだが、少し作業が煮詰まったところで、かなり久々に叔母から電話がかかってきた。
父の妹にあたる叔母さんと最後に会ったのがコロナ前の2019年の正月とかかもしれない。このコロナ禍で、親戚の集まりやおばあちゃんやおじいちゃんの法事というのも無くなり、時折電話とかはしていたが、会う機会が無くなっていた。
僕も先日50歳になったばかりで、愈々良くないシラセを聞く事が多くなった頃合いだよなあ、と思っていた時の親戚からの電話。ディスプレイに親族の名前が浮かび上がるのは、正直心構えしている。
「は、はい。もしもし…」
と、久々聞いた叔母の声はとても元気そうだった。が、その後の言葉が重い。
「あつ兄(僕の父の名前が聚)と連絡が取れへんねん」
僕の自宅から歩いて5分もかからないところのハイツに住んでいる父。1か月に2~3回会うが、いつも元気ではある。が、母の時もそうだったが、急に倒れ、そのまま帰らぬ人になってしまった過去があるので、この電話を受けた瞬間、一気に酔いが醒めた。
それから何回も父に電話するが、呼び出しはするものの出る気配が全く無い。寝てるんか?いや、昼間やし起きてる筈やけど?と、動揺しつつ父の元へ行く為に着替え、玄関まで向かった時だった…
ピンポーン。
自宅のチャイムが鳴った。
荷物が届いたのかな?と、いつもならモニターを見てからドアを開けるか居留守するか決めるのだが、急いでいた為、確認せずにドアを開ける。
するとそこには警察の方が雨合羽を着て立っていた。
その瞬間、色々頭に嫌な音が鳴り響き、心拍数があきらかにあがるのを感じた。
「は、はい。どうしましたか…」
恐る恐る警察の方に聞く。
すると警察の方が、
「どうですか?最近お変わりは無いですか?」
??
そう、単なる地域巡回であった。バカヤロー!と、思わずアウトレイジの大友親分みたいに怒鳴り散らかす寸前ではあったが、
「ご、ご苦労様です!い、急いでるので!」
と、明らかに怪しい挙動を見せつつ、雨の中、猛ダッシュして父の元へと向かった。
頼むから何もなく生きてて!
お願い!
まだ早いって!!!
そんな事を口走りながら、父の住むハイツへ到着。
父の部屋は2階なのだが、その2階には明かりがついている。って事はおるやんな?え?なんで電話にでんわ?とダジャレもいつになく霞む。
階段を上がる足取りがかなり重い。
合鍵で父の部屋へ入る。頼む、、、、
そこには、
競馬を観て座っている父の背中があった。
い、生きとった。
「おーさん!(父の事を、おーさんと呼んでいる)」
耳がだいぶ遠くなってるんだろう、僕の声が全く聞こえていない。
靴を脱ぎ、おーさんの前に行き、手を振ったところで漸く僕に気づく。
「おーさん、ゆらねえちゃん(叔母さん)が電話に出んゆうて、こっちに連絡が来たから心配して見に来たんやでー」と言ったらキョトンとした顔で「電話?聞こえんなあ」と電話を取り履歴を調べていた。電話の音が聞こえていないだけ事件だったのだ。
なんやろ、凄い面倒くさい事を日曜日の昼下がりにやってるのに、それ以上に安堵感に包まれる方が多かったので、少しだけ父と近況を聞きながら、阪神大賞典というGⅡレースを一緒に観た。父は外していた。
「あかんかったなー」と入歯もはめずに、ハズレ馬券を眺めながら笑っていた。ていうか、場外馬券場まで電車で行って帰ってきてテレビ観てるくらいやから、まだまだ元気な証拠と思いたい。
「んじゃ帰るでー」
と、父の電話の着信音を大きく設定しなおして、帰りはゆっくり歩いて帰った。競馬、当たってたらなんか奢ってもらおう思ったけれど、そうは上手くいかないのが常である。
17日のプレミア配信、観てくれた皆さん、お憑かれ様デス!
僕も頭から最後までお酒を呑みつつ、コメント欄でも書きつつ観てました。1時間のライヴがあっという魔に終わってしまいましたね。いやあ、ストロベリーソングオーケストラ、まだまだイケるやん!と、我ながら自負しつつ最終はYouTubeで都市伝説モノを見ながら寝落ちしておりました。
そんなストロベリーソングオーケストラの次なる犯行は今週末、そして来週末に大阪で行われます。
『CRUSH OF MODE-SPRING SHOWCASE'24-』
〜浪花の百花繚乱〜
2024年3月23日(土)
心斎橋SUNHALL
開場 13:30
開演 14:15
前売 ¥5,000 /当日 ¥6,000
*初回入場時に1DRINK別途必要(¥600)
◆一般チケット:1/13(土)10:00~
TIGET
チケットはコチラ☟
久々のイベントお呼ばれ。
ワンマン公演が一番良いのは勿論の事デスが、こういったイベントだからこそ生まれる空気っていうのもあって、その空気を是非吸い込みに来て欲しいデス。えんそくやNoGoDの皆さんと久々共犯なのも楽しみ。
そして、翌週はコチラ!
各チケットはコチラ☟
この日は、イベントタイトルにもなっている『autopsy』なる、ストロベリーとSAISEIGAと共同制作で作った怨源を入場者特典として配布します。
このイベントでしか聴けない怨源、そして演出が待っているので、ご来場の皆さんお楽しみにデス!
4月以降の鏡町の犯行はコチラ。
共犯者諸君は既に赤マルは憑けていることだろうから、初犯の皆さんの確認用に。
瀉葬文幻庫の作業も始まっております。
ストロベリーでは行わない、瀉葬文幻庫ならではの世界を御見せしますので、こちらも是非皆さん目劇の程宜しくお願いしますヨ。
そんな瀉葬文幻庫の作品『BARギロチン-昼酒』の小説版をここ数回、このnoteで連載しております。各回、下記の記事にて連載してますので、初見の方はドウゾ。
それでは『BARギロチン-昼酒』紡いで参ります。
BARギロチン-昼酒 4杯目
「ほう、刀、、とな」
と、唖が質草で流れてきた物騒な光物を、瞽の背後でチラつかせているようなのだが、如何せん此処、瀉葬文幻庫は書物を売り買いする書肆であり、古美術や古道具といった骨董品を扱う店では無い事は確かである。
ましてや使いもしないガラクタを唖が沢山引き取って、そんな事を毎夜毎晩、鴉が啼く如く叱言を云いきかせているようなのだが、唖は唖で耳憑の如くホウホウと頷いているだけにしか取れないのだが、唖が懐紙を咥えながら云うには、
「この刀は違いますのよ 」
と、瞽の肩をトントンと叩きながら伝えるもんだから、「ホウホウ、二束三文にも成らんようなそんなガラクタに幾ら払ったんだ」と、瞽が聞き返してみたら、
「 金魚鉢の代金位はお支払いしたのかしら 」
と、再び瞽の肩を叩いた。
「オイオイ、あの棺はな三日三晩寝ずに鋸を引き、釘を打ち込んだ代物なんだぞ、それをこんな質草の光物だなんて、うーん、あーーーーー」
と、頭を抱え、うな垂れる瞽の様を見て、唖はニヤっと笑った。
そんな事があってだな、と、BAR・ギロチンのマスターに瞽が愚痴を溢す。
マスターは無表情でグラスを磨きながら淡々と瞽に業務報告かの様に返答する。
「ホウホウ、刀、、ですか。そうですね、火葬國へ確認してみましょう。あそこはガラクタ市を月に一回、十五の日に行っているようなので、、。」
良かった。こんなガラクタをいつまでも持っていても何の価値も無い。ガラクタ市で引き取って貰って、どこぞの大衆演劇で振り回してくれたら互いに都合も良いものだ。
そんなやりとりをしているうちに、カンカン帽をかぶり、羽織を着たカウンターに座っていた男性なのか女性なのか判別がつきにくい者が、徐にギロチンの小さなステージに立った。そう、此処、BAR・ギロチンは以前、歌声喫茶だった店舗を居抜きで使っている為、その名残である小さなステージが残っているのであった。
「そちらの御方、詩、を読まれますか。初めての方ですね、段取り致しますので、少しお待ちください」
磨いていたグラスを静かに置き、マスターがリモコンの釦を押すと、天井からミラーボールが降りてきて、床からはマイクスタンドが迫り出てきた。いかにもな仕掛けなのだが、この世界では当たり前の事なのだろう。カウンターに座っている吟遊詩人も無反応、勿論目の見えない瞽には知る由もない光景である。
詩を読む。
この行為がこの時代では如何に危険な事なのかは重々承知の上で、このBARギロチンに酒を呑みに来ている者達は淡々とグラスに口をつけてそれぞれが酒を楽しんでいる。
カンカン帽の者はマイクに向かって「アー、アー」と発声練習をし、店内に流れるジャジーなBGMに併せて、詩を紡ぎだした。その詩に併せ、ミラーボールがクルクルと廻り、その姿を照らす。
ビイルこそよろしきものか白き泡
かみつつあれば世界はいらず
エジプトのナイルのほとりピラミッド
築ける昔ビイル生まれぬ
さびしくはビイルの樽の人となり
赤い猫と酒=坂で転がる
生き生きてビイルのびんのレッテルの
天然色の春に逢った
コボコボと鳴れるビイルのこの音に
包まれ冷たいくせにあたたかく
コボコボと鳴れるビイルのこの音に
時間がこのまま止まればいいなと思った
栓ぬきは要らずとびんを二つとり
河童抜きして栓ぬき屋を泣かす
ビイルと共にはや幾数年は経ち
アナタと別れてもビイルとは別れず
栓抜きは要らずとびんは一つだけ
河童抜きして一人泣いている
コボコボと鳴れるビイルのこの音に
包まれ冷たいくせにあたたかく
コボコボと鳴れるビイルのこの音に
時間がこのまま止まればいいなと思った
コボコボと鳴れるビイルのこの音に
包まれ冷たいくせにあたたかく
コボコボと鳴れるビイルのこの音に
この苦さなににたとえんビイルこそ
『ビィルの唄』といった詩を紡ぎ終え、その者は軽くお辞儀をして瞽の横に座った。
5杯目に続く…
ここからは毒者限定記事デス。
今日は上記の4杯目にも登場した『ビィルの唄』の影像をキリヌキでお届けしたいと思います。
瀉葬文幻庫も色んな楽曲がありますが、こんな感じの楽曲を披露するのが初めてで、曲を作っている間も「コレ、本当に大丈夫かな?」と不安で一杯でしたが、出来上がってみれば何てことは無い。良い、いや、酔い曲になったかと思います。
それでは唖も知らぬまま、『ビィルの唄』ご覧ください。
お憑かれ様デス!やってて良かったnote! アナタのお気持ち(サポート)宜しくお願いします! いただいたお気持ちは今後の執筆活動・創作活動にドバっと注いで逝きます!!褒めたら伸びる子なんデス(当社比)