学生で妊娠、それでも後悔しないと決めるまで。
大学4年生で妊娠がわかって、それを伝えた彼には産んで欲しいと言ってもらえなかった。諦めた方が今は辛くても将来良かったと思えるからと。
私はまだ22歳の学生で、これから沢山の人に出会うし、もっと好きになれる人にも出会える。色々な経験を積んでこれから世界を広げていく。それに、決まっていた就職先を断り、好きな事をして生きていくと決めた矢先だったから。
彼が考えていた赤ちゃんを諦める理由はどれも正しかったと思う。私は仕事も貯金も経験もない。まだ自分一人で生きていくことができない。だから諦めるべきだったのかもしれない。赤ちゃんの人生に、まだ責任を取れないから。私と彼の関係はまだ未熟で、結婚して家族になっていけるのか見極める必要があったから。
でも、できなかった。自分のお腹の中で小さな心臓が動いている。その命を私や彼の勝手な都合で奪うことに耐えられなかった。そして、その事実を背負って生きていくことも選びたくなかったのだ。彼は二人で背負っていこうと言ってくれたが、少し冷たいかも知れないけれど、それはできないと思った。身体と心に一生消えない傷が残るのは女性の方だ。
二人の間で答えが出せないまま週数だけが経っていった。妊婦検診のたびに、早く決めるようにと言われた。赤ちゃんを諦める場合には期限があるのだ。ついに、彼に中絶するための予約を取ってほしいと言われた検診の日、私が心細そうにしているからと一人の助産師さんが別室で話を聞いてくれた。この時私が妊娠している事を知っていたのは彼だけで、親や友達には一切話していなかった。なので、初めて妊娠したことを誰かに相談することができた。と言っても、いざとなると何も話せなくて、私はただ背中をさすってもらいながら、ずっと泣いていた。助産師さんは、「私も娘がいるけれど娘が私に黙って中絶なんてしたら本当に悲しい。だから、今日は帰って、お母さんに妊娠のことを話してみて。」と背中を押してくれた。私はその通りに母に打ち明けることにした。今になってみると、この時、この助産師の方に出会えた事が本当に有り難かった。
スタバ飲みに行きたいと言って母を連れ出し、駐車場でカフェイン抜きのソイラテを飲みながら母に妊娠を打ち明けた。やっぱりね、と言われた。彼と付き合っている事は薄々気づいていて、近頃私の様子がおかしいと思っていたそうだ。母は妊娠したことについて咎めることなく「何かあったら力になるから産んであげて。」と言ってくれた。久しぶりに少しほっとする事ができて、それと同時に、私はまだ母の子供なのだと思い知った。
それからは、彼を説得する為に何でもした。確実に二人が納得するかたちで出産に臨みたかったから、中絶をするための病院も調べて、可能な週数のギリギリまで話し合った。彼の年齢が赤ちゃんの健康に与える影響について心配していたので、様々病院に問い合わせて検査もした。
仕事も貯金も無いまま結婚すれば、しばらくは金銭面は彼に支えてもらうしかない、それでも産みたいというのは私のわがままだ。将来的に、彼が結婚を決めて良かった、子供を授かって良かったと思えるように、何でもしようと思った。そして、たとえ周りの友人がキャリアを積んでいく姿を見ても、自分に使えるお金や時間がなくなったとしても、私は産んだことを決して後悔しないと決めた。一人でも産むと言えなかったことが情けないけれど、その時の私にはそれが精一杯だった。そうして話し合いを重ねていくうちに、ついに彼は「産んであげよう」と言ってくれた。妊娠20週目くらいだったと思う。
それ以降は「赤ちゃんを沢山いじめてしまったから」と、赤ちゃんに良い音楽を聴かせてくれたり、私の好物の餃子を毎晩のように作ってくれたり、何故かムーンウォークを練習したり、彼なりに妊婦とお腹の子を思いやってくれた。
予期せぬ妊娠をして、沢山の人に支えてもらって、やっとやっと産むという決断をする事ができた。ここまで辛かった日々を思い出しながら書いてきたが、正直とても疲れた。お腹に宿った小さな命はこんなにも重い、尊いものだと改めて実感する。
私のお腹に宿った赤ちゃんは、現在一歳二ヶ月。出産して抱っこをするまで、ここまで愛しい可愛らしい存在が現れるとは思ってもいなかった。この子が生まれてきてくれただけで、想像を遥かに超えて幸せだ。今となっては、夫も子煩悩父ちゃんになっている。まだまだ荒削りだけれど、家族になれて本当によかった。
もし、似たような経験をしている人がいるとしたら、偉そうな事は言えないけれど、産む産まないに関わらずどうか一人で悩まないで欲しいと思う。当事者二人で話し合うだけでも足りないかも知れない。どうか、親でも友達でも助産師でも相談ダイアルでもいいから話しをしてみて欲しい。
妊娠中の母親の精神状態が、生まれてくる赤ちゃんの精神状態に影響を及ぼすという研究もあるらしい。お母さんが苦しいと赤ちゃんも苦しい、お母さんが悲しいと赤ちゃんも悲しいのだ。何よりもお腹の赤ちゃんの為に、一人でも多くの妊婦さんが心穏やかに過ごせる事を切に願っている。