踏切のむこう側

君との帰り道、電車に揺られながら横目で君を見ていた。真っ白な肌に、アルコールでほんのり赤くなった頬、大きな目。君はとても綺麗だった。君とは今日初めて会った。だけど既に会ったことがある様に思えた。懐かしいこの感覚 前にもこんな感覚になった事あったな。あれはいつだったけ。どこだったっけ。なんて昔のことを思い出しながら古い記憶をなぞっていく。君が僕の肩に頭を寄せた。数秒して僕も君の方へ少し体を寄せる。アルコールが体を循環する。君と僕はふわふわと電車に揺られている。

ふわふわに包まれている渦中、最寄りの一つ前の駅で電車が停止した。”地震が発生しました。安全の為、この駅で停車してしばらく運転を見合わせます”車内にアナウンスが流れる。

君と僕は一駅を歩いて帰ることにした。帰り道、君と僕はお互いの話を繰り返した。暗い道。月明かりの下。線路沿いを歩いていく。この道と、月と、君と僕だけが、世界に取り残されたような気がした。君と僕とその他の世界が乖離していく。君と僕だけが残った世界で。見渡す限り静寂なこの世界で。汚い物質と乖離したこの世界で。君と僕だけが歩いている。

踏切の警報機が鳴り出した。君と僕は下がった踏切を跨いで越えた。踏切のむこう側に行こうとした。少しずつ近づいてくる光と鉄の塊。少しずつ、確実に近づいてくるその物質が目前に迫って、君と僕は踏切を引き返した。そこで、君と僕は元の世界に引き戻された。どうやら世界と乖離できたのは気のせいだった。

「危なかったね、死ぬところだった」君はそう言って笑いながら僕の手を引っ張って前を歩きだした。

君と僕で踏切のむこう側に行けれたら。世界と乖離する事ができたら。鉄の塊に臆して引き返さなかったら。このまま、初めて会った君とどこか遠くに行けられたのに。どこかへ。遠くへ。これを伝えたら君はどんな反応するのだろうか。なんてひどく歪んだことを考えながら、前を歩いている君をぼんやりと眺めていた。僕の中にある憂鬱をなぞりながら、君の中にある憂鬱を確かめながら。君は僕のことを理解してくれる気がする。なんて、考えながら。

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