公正世界仮説
薄明りの道は、僕を深いところまで連れて行ってくれる。この間、土手沿いで見たつまらない人間とその歩き方、僕を蔑んだ目で見てくる雑踏の中の人達、どうでもいい事ばかりを思い出し、日と共に僕の思量は落ちていく。海の中をゆっくりと落ちていくような感覚。心地良いテンポで、脳内に響き渡る水の音を聴きながら。口や鼻から零れていく泡沫は僕の生きた証であり、意図もせずに現れては、何の意味も残さずに消えていく、僕そのものの様にも感じる。流れに身を任せ、静寂の中で一人、少しずつ、沈んでいく。
そのように海の中にいる自分に没入していると、いつの間にか家の近くの見慣れた通りに帰り着いていた。頭の中である言葉を反芻する。「君はこの世界を醜い目で見ている。自分だけは違うと思って」
気味が悪いくらい規則的に並ぶ街灯の一つが、僕を脈打つ鼓動と同じ間隔で点滅している。家に着くや否や、衣服を脱ぎ捨ててベットに身を任せた。目を閉じていずれは訪れる死についてぼんやりと考えていた そこでふと以前小説で目にした”公正世界仮説”を思い出した。