職場の方との「飲みニケーション」に関する調査結果を見て、コミュニケーションについて社労士として考えてみた。
ネットのニュースにて「日本生命の調査で職場の方との『飲みにケーション』が必要だと思っている人が大幅に減少している」という記事がでていました。
この調査正式には「ニッセイ インターネットアンケート~「勤労感謝の日」について~」というアンケート調査で、「飲みにケーション」だけにフォーカスしたものではなく、”時間外労働””ストレス””テレワーク””副業””勤労感謝の日のプレゼント”など、アンケート調査回答が出ているので、非常に参考になる資料となっております。
「飲みにケーション」の調査結果をみて、コミュニケーションについて、社会保険労務士として考えてみました。
「飲みにケーション」は必要か?
私はあまり飲めません。
かといって、別に飲み会に参加するのは嫌いではなく、仲間内の飲み会があるならばむしろ率先して参加します。
しかし、職場での「飲み会」となりますと話は別です。
自主的に気の合う同僚と飲みに行くというならば全然問題ありませんし、よほど都合が悪くない限りは突然ではあっても行っておりましたが、今回の調査結果でもあるような職場単位で行われる飲み会を介した「飲みにケーション」に関しては「気を遣う」し「仕事の延長」と感じてしまうところがあり、あまり好きではありません。
では「飲みにケーション」は必要ないのか? という点に対しては私自身は必要ないとは断言はしません。それは、職場の状況や環境においては「飲みにケーション」は効果を発揮する可能性があると思っているからです。
しかしながら、ただ単に「飲みにケーション」でなら「本音を聞ける・距離を縮められる」と思っているだけならば、そもそも職場内の環境が「本音を語る事の出来ない環境」であり、そのような場合「飲みにケーション」は成立しないと思いますし、そのような環境がハラスメントの起こりやすい環境であると考えられます。
飲み会に行って楽しいですか?
「おいおい! だから本音を言い合える職場を作るための『飲みにケーション』だろ!」と思われることも多いかと思います。
では、これをプライベートの飲み会の場合と置き換えて考えてみてください。
もし、プライベートで「飲み会を開催するので来てください!」と言われた場合、「行く」「行かない」あるいは「楽しい」「楽しくない」というのは「気心の知れた友人がその場にいるかいないか」で決まってしまうことが多くないですか?
例えば、それが普段から近所づきあいをしていないような「地域交流の飲み会」の場合、「同じ地区で住んでいるから行かなきゃ」とか「行かないと周りから何言われるか分からない」とかいろんな理由で行ったとしても、その場で本音を話すことなんてないですよね。当然です、本音を語ってしまいその後に近所から何を言われるか分からないからです。
そう考えれば職場も一緒です。
1・上司から飲み会に誘われる
2・行きたくないけど断れないので行く
3・上司に気を遣いすぎてストレスに感じる
4・更に「何でも言って」と言われて余計に言えなくなる
5・余計に飲み会に行きたくなくなる
おおよそ、私の場合でしたらこんな感じのスパイラルになるので行きたくなくなっていました。
このパターンに近い方もいらっしゃるんじゃないでしょうか?
そもそも、一緒にいる時間が飲み会よりも長い職場の環境が「本音を語れる職場」で無いのに、「飲みにケーション」をやって「本音を聞ける・距離を縮められる」と思ってますか? という事です。
出来るわけないですよね? 普通に考えて。
「飲みにケーション」の上であっても本音を語ることはありえないと考えられます。
余程「そんなことよりもアルコールが好き!」という事が無い限り、自分をセーブして、何事も無きよう、その場をやり過ごそうとするのが自然です。飲み会の席で上司から仕事の話をされたらストレスですし、プライベートの事を聞かれたって話したくは無いですよね?
また、逆に言いますと、酒を飲まなきゃ本音を語れない職場であるならば、コミュニケーションが取れていない職場という事になります。つまり、ハラスメントが起きやすい職場環境になっているという事を問題視するべきです。
ハラスメントに発展しないよう注意
私そろそろ50歳に突入する就職氷河期世代です。
会社員の頃は、何か対人関係で行き詰ったときには「膝を突き合わせて酒でも飲んでみれば」との、アドバイスを上司から受けておりました。
その時は「酒が飲めないと仕事にならない」とも言う人もいた時代ですので「困ったなぁ~」としか思っておりませんでしたが、今思えば酒飲めない人に対しては何も解決にならないアドバイスです。そんな世代ですので「飲みにケーション」を最良の手段と思っている方が同世代では多いのではないかと思います。
ですが、この「飲みにケーション」を今でも最良の手段、「自分たちはこうやって仕事をしてきたんだから」という思い込みのバイアスは、多様化された時代には不適合だという事を認識しなければなりません。
認識しなければ、ハラスメントが起きやすい職場環境になっているにも関わらず、相手側を無視した「飲みにケーション」により、ハラスメントと捉えられることもあるので注意が必要です。
そもそもお酒を飲む人が少なくなっています。
現在、20代では半数の人が「お酒を飲まない(飲めない)」と言われており、そんな中、飲み会で、本音を聞きたいからと言って無理にお酒を飲ませるようなことがあれば、それはアルコールハラスメント・パワーハラスメントと捉えられる可能性があります。
また、社内での歓送迎会等の行事を「強制参加」的に開催する場合には、業務の延長とみなされますので残業にあたる可能性があるという事も重要です。仕事の延長となってしまっているうえに、時間の拘束に対して残業代ももらえないどころか、会費まで徴収されたとなったならば、それだけではパワハラにあたることはないとしても、飲み会の席でトラブルに発展すればパワハラになってしまうケースもあるかもしれません。
更に、ちょっと今回の話の趣旨とは離れますが、社内の新入社員歓迎会などで行き過ぎた行為をしてしまったことにより、セクハラとなってしまった判例もあります(福岡トヨペット・セクハラ事件)。詳しくはネットなどで判例を見ていただければわかるのですが、これ、加害者は「みんなの距離を縮めようと、周りを盛り上げるためにやった行為」だと思うんですよね。でも、それが結果的にはセクハラです。
「飲みにケーション」はダメなのか?
だからと言って「飲みにケーション」がダメなのか? というわけではないと思っております。
「おいおい、今まで言っている内容と違うじゃないか?」と思われるかもしれませんが、強制的に参加させるのではなく、自主的に懇親会などが開催がされるほど職場内でのコミュニケーションが通常から取られている場合、つまり、そもそも本音が語られている環境であるのならば、気を遣うことなく楽しめる「飲みにケーション」になっているのではないかと。
私は会社員時代に延べ10年ほど駐在員として中国に滞在をしておりました。
基本的に中国人というのは自己主張が強く、良くも悪くも本音で物事をいう習慣があります。また、そのような国民性のため、中国人の現地の管理職の方は人の話を聞いてあげるというスキルに非常に長けているというのが特徴です。もっとも、あまり自己主張を真に受けてしまうと管理上問題がある事もあり、その点を現地の管理者と一緒に調整するのが駐在している人間の役目ではありました。
従って、工場の人達とのコミュニケーションや人間関係に気を遣うことが仕事上非常に多く、現地での対日本人感情ということもあり、職場環境をまとめない限り工場を動かしにくいというのが現状でした。おそらく、同じ時代に駐在をしていた、特に中小企業の方ならわかっていただけるのではと思っております。
そんな中、工場で主催して食事会はよくやりました。
班長グループの食事会、事務方の食事会、当然全体の忘年会も。
中国人というのはこのような会の場で仕事の事は一切語りません。また、私も何か話をすることは一切無く、それに対して彼らも全く気を遣わず、ただ楽しくみんなでご飯を食べて飲む。確かにその当時の中国は非常に貧しかったということもありましたが、職場内で本音を語ることが出来ているので、食事会はあくまでも楽しむだけの会となっていたのが、日本の職場での飲み会とは大きく違っておりました。
そして、以前は上司のパワハラ的な指導であってもそれが仕事だからしょうがないと思っていた時代とは変わり、コミュニケーションスキルを高めるような努力をしなければならない時代になりました。
中小企業であれば、今までの、1人のスーパーマンが会社の命運を左右させるような時代ではなく、持続可能な方法で仕事を行っていかなければならないという時代になっています。
そんな中で、コミュニケーションの入り口を、たった2~3時間程度の「飲みにケーション」に頼るのではなく、本来自身の生活の上でも長い時間を費やす仕事をしている時間内でのコミュニケーションを大事にするべきだというのが私の考え方であり、ハラスメント防止するためには必要な方法であると思っております。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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