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「不調なのは本当に今季だけですか?」 期待値から見るシュマイケルの本当のパフォーマンス

 カスパー・シュマイケルのセーブと言えば、あなたはどのセーブを思い出すだろうか?FA杯決勝でメイソン・マウントのハーフボレーを左手1本で防いだセーブかもしれないし、直近のリバプール戦でモハメド・サラーのPKを止めたシーンを挙げる人も居るかもしれない。

 レスター在籍10年半、クラブ史の中でも歴代4位の出場数を記録し、誰もがこれまでのシュマイケルの貢献には感謝をしているに違いない。またデンマーク代表でも長年レギュラーを務め、それが現在進行形で続いているので彼の実力を疑う者がいないのも不思議ではないはずだ。事実GKの最高峰とも言えるヤシン・トロフィーでは昨年7位にノミネートされている。

 しかし今季のシュマイケルはサポーターから批判の対象になっている。止まらない失点と怪我人、リーグ戦18試合で記録したクリンシートは2つのみとチームそしてシュマイケル自身も非常に苦しいシーズンを送っている。

 さらに‘‘Achilles’ heel‘‘とも呼ばれるセットプレーからの失点の多さはサポーターのフラストレーションを常に溜める。シュマイケル自体がクロスボールを積極的に取りに行こうとするGKではないため、このスタンスがセットプレーの失点増加に関係しているのではないかとの声もある。

 しかし実際のスタッツを見ても今季のシュマイケルの数字は決して褒められたものではない。オウンゴールとPKを除いた枠内シュートを基に期待値(xG)を算出するExpected Goals on Target(以下xGOT略)と実際の失点数の乖離を示したのが以下の表である。(実際にはこの差をGoals preventedとするが表では便宜上+/-と表記)

 今季のシュマイケルは期待値よりも約6点近くも多く失点をしており、これより低い数字を記録しているのはバーンリーのニック・ポープのみである。もし期待値通りの働きならレスターの失点数はリーグの中でも中位程度に収まったかもしれない。

 xGOTは枠内シュートの期待値なので端に行けば行くほど高くなり(入る確率が高くなる)、真ん中であればあるほど低くなる(入る確率は低い)スタッツである。つまり枠内シュートの質を考慮しているため、シュマイケルが難しいシュート浴び続けてるが故にスタッツが大きく悪化しているとは言い難い。

 しかしこの話題はレスター関連の現地メディアでも既に触れられており、ファンの間でも話題になっているので特段目新しいものではない。既に周知の事実を繰り返しても読者側の時間の浪費になってしまう上に、自分が望むものでもない。

 そこでここではシュマイケルのパフォーマンスについて15-16シーズンから今季までの約7シーズン分を上記と同様にxGOTを用いて分析することとする。そうすれば今季がたまたま1シーズン‘‘だけ‘‘の不調なのか否かがはっきりと見えてくるからである。

 まずは1シーズンだけ調子を落とすGKの例を確認し、そこからシュマイケルが本当にそれに当てはまるのかを確かめることにする。

 1シーズンだけ不調の典型例

 シュマイケルのスタッツを出す前に、ここで本当に1シーズン‘‘だけ‘‘調子を落としている例を見ることにしよう。xG関連のスタッツはシュートのサンプルが当然ながらシーズン毎によってブレる。そのためどんなにトップクラスのGKでも、とあるシーズンで急にガクっとスタッツが大きく低下することもある。その典型例の1つはアトレティコ・マドリーのヤン・オブラクであろう。


 29歳のスロベニア人GKは17年からの4シーズンで期待値よりも、33点以上もの失点を防いでいる。特に19-20以外は1シーズン平均で10点以上も期待値より多く失点を防いでおり、超人的ともいえるスタッツを残している。

 昨季リーグ優勝を果たしたアトレティコは2位のレアル・マドリードと2ポイント差であったが、オブラクが良くも悪くも期待値通りの働きならばリーガのタイトル獲得を成し遂げることは出来なかったと言っても過言ではない。

 しかしそんなオブラクでも今季はリーグワーストとなるスタッツを記録している。ここ数シーズンと比べると本来のパフォーマンスを見せることは出来ていないが、それまでに見せた活躍は今季の不調を十分に相殺出来るものである。今季の分を差し引いても5シーズンで期待値より約28点分の失点を防いできたことを考えれば情状酌量の余地はあると言えるだろう。

 シュマイケルは本当にその例に当てはまる?

 オブラクの例でコンスタントに期待値を上回るシーズンが続きながらも、1シーズンだけ期待値よりも下回るパフォーマンスを見せているパターンを紹介した。

 そして肝心なのはシュマイケルがその例に当てはまるかどうかである。しかし残念ながらその問いに対してはノーと答えなければならない。それを明確に示しているのが以下の表である。

※16-17は30試合、17-18は33試合の出場。それ以外のシーズンは全試合出場。

 中には期待値を上回る好調なシーズンもあるが、今季以外でもシュマイケルは期待値を大幅に下回ることの方が多いのが見て取れる。これは今季から調子を落としている或いは衰えを見せているとの指摘があまり的を得ていないことを意味する。

 特に17年の夏以降にフォーカスを当てると直近5年で4度も期待値よりも5点以上も多く失点をしている。つまり今季以外でも今季と同じ、あるいはそれを下回るような年が継続的に続いているのである。

 例えば昨季のレスターは4位と1ポイント差の5位に終わり、あと1歩CL出場権獲得に手が届かなかった。しかしシュマイケルが期待値通りのパフォーマンスならばこの差はひっくり返ったかもしれない。昨季ではTOP6どころか、リーグ全体の中でもシュマイケルより低い数字を記録したGKは2人しかいない。

 またシュマイケルは2018年8月に5年の契約延長にサインし、チーム内で最高給選手の1人になったが、そこからみてもパフォーマンスがあまり上がっていないとの指摘も避けられないだろう。これについては今後レビューが必要ではないだろうか。

 さらに問題を大きくするのはレスターがシュマイケルをリーグ戦で18-19シーズンから今日に至るまで全ての試合で使い続けている点である。シビアに見ればこの約3年半の間にリーグ戦を起用し続けて得られた利益よりも、デメリットの方が上回ったという見方も決して間違ってはいない。

 ただ表から見てもわかる通り15-16や19-20のようにシュマイケルが充実したシーズンを送れば、それはレスターにとっても充実したシーズンを送れていることを意味する。しかしながらその確率はあまり高くないのが現実である。

 モデルケースとなるクラブは意外と身近に?

 以上からシュマイケルが今季だけでなく、長年に渡って芳しくない出来が続いていることが明らかになった。しかし彼との残り契約が18か月を切っていることを考えれば、いずれにせよ後継者を用意する必要があるのは確かである。

 その中で今シーズンは夏に期待値を下回る出来が続くベテランGKを放出し、新戦力を加えた中でここまでは非常に上手くいっているプレミアクラブが1つある。それはレスターと同じくミッドランズ地方に本拠地を構えるウォルバーハンプトンである。

 ウルブズは夏に3シーズン守護神を務めたルイ・パトリシオをASローマに売却したが、3年間で積み上げたパトリシオのスタッツも実は褒められたものではなかった。

期待値ではワーストのパフォーマンスを見せていたルイ・パトリシオ。同時にシュマイケルがリーグ内では下から数えた方が早いGKなのも見て取れる。

 この表を見るとパトリシオは18年から21年の間に50試合以上出場したGKの中で、最も期待値を下回るパフォーマンスだったのが見て取れる。3年間で14.82点分のマイナスを献上しているため、1シーズン平均で期待値よりも約5点近くも多く失点していることになる。

 そこで夏にオリンピアコスから加入したジョゼ・サーは同じ指標でここまでリーグ1位となる+4.9のスタッツを残している。つまり29歳のポルトガル人GKの加入により、大幅な守備力向上に成功したのである。

 昨季はレスターと失点数がほぼ同じだった中で(レスター50失点、ウルブズ52失点)、今季のウルブズはここまでリーグで2番目に少ない失点数である。この点から1人のGKの次第で大きな差が出ることを証明する形となった。

 しかしレスターにはブレンダン・ロジャースが「チームには2人のNo1のGKが居る」と評価するウェールズ代表正GKのダニー・ウォードが2番手GKとして控えている。またレスターユース出身のダニエル・イヴァーセンがプレストン・ノースエンドにローン移籍で経験を積んでいることから、ウルブズのように新たな主力GKの獲得は必ずしも必要ではないかもしれない。

 とはいえこのウルブズの例は今後の1つのサンプルとして非常に参考になる事例であると言えよう。

 おわりに

 いかがだっただろうか。フットボールの世界では時として現実を受け入れなければならないことはあるが、シュマイケルの例はまさにそうなのかもしれない。

 残念ながら今季に限らず、シュマイケルがこれまで積み上げてきてしまったマイナスは1試合~2試合程度の活躍で取り返せるものではない。今季で言えばここからアーセナルのアーロン・ラムズデール並みのショットストップを繰り返して、ようやくマイナスが0に近づく程度である。それでもシーズントータルではプラスの数字にはならない辺り、そのマイナスが如何に大きいかを物語っている。

 もし本当にロジャースがダニー・ウォードをNo1GKとして評価しているのであれば、片方の正GKが調子を落としているときにはGKの交代を視野に入れるのは何らおかしくない判断である。それでもこのウェールズ人GKが18年の夏にレスターに移籍して以降、プレミアリーグでの出場が一度もない事実は実際のチョイスと発言に矛盾があるように思えてならない。

 もちろん後半戦になってシュマイケルの数字が上振れする可能性はあるが、このようなGKを使い続けてきたこと自体があまりロジカルな判断とは言えない。チームにとってマイナスを増やすような方法を取り続けるのか、それとも別の方法をとるのか。チームを改善するチャンスはレスター自身が握っているのだ。

picture Leicester city gallery


参考文献(スタッツの引用元など)


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