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彼女になりたい

"ごめんね、でも

好きなんだ"、で目が覚めた。
体は起きているのに、そう、そう言いたかったんだ、という気持ちが夢の延長線をなぞる。じっと白い壁を見つめて数秒、急にトイレに行きたくなって慌てて起き上がった。

起きた瞬間は覚えていても次第に薄れていくはずの夢が、今日は背中に張り付いたように、どこまでもついてくる。早朝のジョギングも、通勤も、仕事中にも。

好きになってごめんね、でも好きなんだ。
そう、私はそう言いたかったんだ。
でも誰に?

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カフェなのか、雑貨屋なのか、とにかく私はそこで彼女を待っている。店内の商品をみながら、1人で買い物をしている。しているはいけるけど、心のどこかでつぶやく。
30分。30分経っても来なかったら諦めよう。
ずっと恋焦がれている人。結婚はしていないけど、大きな子供が2人いる。

ドアが開いて、少し汗だくのその人を見ただけで、泣きそうになった。
心配させたくないから、泣く代わりに、にっこりと笑う。あ、来たと。

なぜか彼女の方が神妙そうな顔をする。

「いま言わないと、絶対に言えないと思うから来た。ずっと、ずっと好きだったんだよ」

そう言われて、たまらずぎゅっと抱きしめた。背が高くて、思ったより首の後ろまで手が回らない。
ずっと、ずっと、その言葉を聞きたかった。彼女だけが、欲しかった。

耳元でごめんね、と呟くと彼女がそっと笑う。本気なのか冗談なのかわからないトーンで
「え、ごめんね、なんだ」
と言われて、違う、と思う。ただ、自分でも何を伝えたいのかわからない。言葉が追いつかなくて、もどかしいからキスをした。
貪欲に舐めた唇が、どこまでも柔らかくて舌に感覚が残る。

唇が離れて、そうだ、と思った。

"ごめんね、でも
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夕日が差し込むオフィスのデスクで、原稿の確認をしながら、唐突に気づいた。

あぁ私は、彼女の方になりたいんだ。
私も好きだよ、と言われたい。

結構キテるな、と思いながら目の前の原稿に集中しているフリをする。剥がれかけているネイルにため息をつく。

今夜も同じ夢を見れるだろうか。


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