嘘売るコックリさん
花咲き乱れる丘で、狂ったように笑い合うために。
最初の「(ぅ)そ〜うるコックリさん」で声出るところだった。しかも家に帰るまでに完全にソウルコックリさんにすり変わってしまう始末。なんて曲だ。お陰でレスポンスのタイミングは完璧だったけれども。
内容は特にソウルコックリさんとは関連せず。強いて言えば「ボクはちゃんと狂えてますか?」と聞いてしまうところに「オレ こんな(この世界に従属した)オレ嫌だ」を感じることもできますが、そこまでこじつけなくてもいいかな。むしろ、狐狗狸さんを表現するのにボクの宗教へようこそでのキーワードだった"犬神憑き"を拾い上げるところはさすが。
余談ですが、今回取り憑かれた3年4組の○○くん、カミュカフカ版のブルーハーツと同じ学年・クラスなんですね。
さて、校歌を作った誰かさんとは対照的に、シティに辿り着いた者たちが通うE中でも、気が触れたフリを出来ない大人びた生徒はいるものらしい。ライブでもいまいち入り込めないこと、あるもんね。僕はウシノシタ団の狂信者なので、5次元シティは選ばれた者たちの理想郷、マルコムの入り込む余地なんかない!と潔癖を発揮しがちですが、あの丘でペテン師が言っていたように、夢から醒めないための施しは必要なわけで。コックリさんに何かを尋ねるなんてのは当たり前で、普通の人間がやることでしょう。でもこの学校に通う者ならばそんなつまらないことはしないんです。何にも考えられないくらいアッパラパーでいることこそがE中生徒の本質ですから、日常のことなんてどうでもよくなるくらいの呪いで黙らせようというのが、今回の少年の目的。自分達の行動を"集団自己催眠"と断じてしまうペテン師はコックリさんを本気で信じている訳ではないでしょう。皆が「動いたぞ!」「自分じゃないよ!」と騒ぐ中でほくそ笑みながらコインを動かしていたのはきっと彼です。何なら「この指で狂わせてあげるから」と明言してさえいます。要するに、この曲はいつもの"手を変え品を変え"の一例で、学校の七不思議という形をとっただけの少年ペテン師のお得意なやり口というわけ。
ただ、今回は「お互いに騙し合」うことを目的として、自らコックリさんに「ボクはちゃんと狂えてますか?」と問うてしまうところが珍しい。確かに、説明係によれば彼は少女の死を忘れた"ふり"をしていた可能性がありますが、これほどまでに自覚的に己を洗脳しようとする描写は今までありませんでした(たぶん)。いつでも自分の感性と、妄想と、それを実現する力を信じきっていたのです。とすると、今コックリさんを降ろしている"ペテン師"は次元を越えて悪事を働く総統閣下や少女の死体を抱えた裏中野の市長ではなく、この学校で救世主となる別の存在なのでしょうか。マルチバースによって市長と超閣下は別人だとわかったのですから、"ボクに似た、ボクに救われるべき誰か"の内の一人がペテン師として目覚めたというのは決して無理筋ではないでしょう。惡の総統ですら誰がなるとしてもありなんです。歌唄いの彼が"彼女は生きているのだと思い込んで"きたように、この少年もまた"自分は狂っているフリが出来ているのだ"と思い込み、やがて本当に狂ってしまったのかもしれません。果たして、「ボクはちゃんと狂えてますか?」という問いに「👉はい」と答えたのは、騙された生徒たちだったのか、ペテン師本人だったのか、あるいは本物のコックリさんだったのか…。
「五十音を使ったって言えない感情」とは、一体何なんでしょう。上の新たに目覚めたペテン師論議を使えば、きっと感性自体は歌唄いと似たようなものですから、くだらないツマラナイ世界への怒り、不満、故に終末の渇望があり、場合によっては終わらなかった世界から懐かしむノスタルジー…といったところでしょうか。「この世界にはウンザリだ」そうですし、恐らく彼がE中に入った経緯とは関係のある何かなのは間違いなさそう。
「言えない」という表現はマッケンローの主張にも似ています。これでいくと五十音では表現しきれない、という意味ではなく、コックリさんの口を借りても言葉にすることが憚られる、という解釈も出来ますね。世界に縛られて言葉に出来ない感情を代償にして、狂わせた生徒たちを彼の中(仲間にするという意味なのか、あるいは内面、彼の描く世界なのか)へと取り込む。代償というニュアンスからは、彼が狂うにあたって失うもの…常識とか、お愛想とか、そういうものを犠牲にするようなイメージが浮かびます。重ねてになりますが、この曲は今作の中で一番"今までのペテン師のやり口"が色濃く現れた、言わば"いつも通り"の安心感がありますね。
ところで、コックリさんの呪いが本領を発揮するのは、コックリさんが帰る前に指を離した時だったと記憶しています。降霊を始めるにあたって彼らは「できれば「後戻りできぬ呪い」がいい」、「さぁ、もう絶対に離しちゃあいけないよ」と踏み込んでいきます。つまり彼ら(少なくともペテン師の少年)は最初から、好奇心を満たすためのお遊びなんかじゃなく、呪われるために10円玉を用意していたのです。この呪いを終わらせぬため、彼らは最後にこう願います。
「どうか 二度と帰らないで・・・」