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いちごの花とちいさなおばあさん
畑のいちごの花が咲いた。霜が降りた朝に見つけた。いちごの花は、凍っているようだった。実はなるだろうか。このタイミングでは、難しいかな。
いちごの花を見ていたら、一冊の絵本を思い出した。『いちごばたけのちいさなおばあさん』わたりむつこ作、中谷千代子絵、福音館書店から出版されている。
ちいさなおばあさんは、いちご畑の地下に住んでいて、いちごに色をつける仕事をしている。
ある年のこと、春はまだ先なのに、暖かい日が続き、いちごの花が一斉に咲き出した。おばあさんは大忙し。赤い色を作るところから、何から何まで、おばあさんはたったひとりでこなす。赤い色を作ったら、いちご、ひと粒ひと粒を、刷毛で赤く染めていく…とっても大変なお仕事だ。
がんばってがんばって、仕事を終え、やれやれと思ったら、とんでもないことが起きて…
でも、大丈夫。最後は、ホッとして、おはなしは終わる。わたしは、最後の場面が好きだ。おばあさんが、凍ったいちごを抱きしめて、うとうとするところ。
たぶん、誰でも、それをそのとき、やらねばならない、そんなタイミングがあるのだろう。それがやりきれるように、底力みたいなものが湧いてきて、力を貸してくれる。そうして、なんとかやりきったなら、このおばあさんみたいに、くったくたになりながら、やりきった感にじっくりと浸るんだ。
大変だけれど、やりたい。やれたら、何より満たされる。そういうことに、繰り返し出会いながら、人生は進んでいくような気がする。
それから、童心に戻って想像する。いちごばたけの地下に遊び行く、わたし。うとうとしているおばあさんに、まずは毛布をかけてあげたい。おばあさんが起きたら、お茶をして、おしゃべりがしたい。きっと、とっておきの話がきけるだろう。
できたら、いちご仕事もやってみたいな。おばあさんがいいよって、いってくれるなら。