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輝いていたあなたに

あの日、舞台の上で輝いていたあなた。

客席の灯りが落とされ、緞帳があがり。

夏も盛りの8月中旬、浴衣が良く似合っていて。

舞台に向かって一番左、開いた台本を右手に置いて、かるく頭を傾けている、すっとした立ち姿。

CDでしか声を聞いたことがない、twitterでしか目にしたことがない彼が、今目の前にいる。

きっぷの良いはすっぱな江戸っ子、

どこか影のある殺人鬼、

謎めいて仄暗い闇を抱えた駐在の警察官。

近世・近代・現代と、それぞれの時代の“怪談”が披露されていく。

こちらを置いていかない、心地よい速度で、物語が紐解かれていく。

まるで自分の手元にある本を読み進めているような、不思議な心地よさ。

激情がほとばしったかのような怒声に、こちらの心臓を跳ね上げさせたかと思えば、感情を抑え、薄皮一枚向こうになにか恐ろしいものがひそんでいるような不気味さにぞっとしたり。

身体の動きも交えて、そのひとの背景まで表現してみせる。

ほかのおふたりとの息もぴったりで、あっという間にその世界にひきこまれた。

締めは、開演前に取られたアンケートをもとにしたフリートーク。

あれだけ密度の濃い3作品のあとなのに、その疲れを全く見せず、手元のアンケート用紙をめくりつつ、客席のほうへときに話を振る。

和気藹々とした様子に心があたたかくなり、お腹が痛くなるほど笑った。

舞台の上にいたあなたは、本当に生き生きとしていて、この時間を心から楽しんでいるのが伝わってきて、それを見ている私たちまで笑顔にしてくれる。

これが芸の人なんだと、生で彼の演技を浴びて、その熱量に圧倒された。

*

応援しているひとが楽しいと、こちらまで笑顔になる。

正直、いわゆる“推し”という存在ができるまで、こういう感覚はよく分からなかったのだけど、これがそういうことなんだと、すとんと心の中にまっすぐ、すなおに落ちてきた。

想像以上にすてきな気持ちじゃないか?

あなたに出逢えたことに、心からの感謝を。





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