J-REIT市場を振り返る:海外マネー流出と市場低迷の背景
去年のJ-REIT(不動産投資信託)市場は厳しい一年となり、多くの課題に直面しました。この記事では、海外投資家の動向、政策の影響、市場全体の低迷要因、そして明るい兆しについて解説します。
【海外投資家の売り越しが市場低迷を加速】
東京証券取引所のデータによると、2024年の海外投資家によるJ-REIT売り越し額は1166億円に達し、9年ぶりの大きさとなりました。これは、23年の66億円を大幅に上回る結果です。背景には、以下の要因が挙げられます。
1. 日銀の金融政策の影響
日銀は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、7月には利上げに踏み切りました。この動きにより金利上昇への懸念が強まり、REITの資金調達コストが増加。市場全体の重荷となりました。
2. ベンチマーク指数からの除外
米MSCIの「ジャパン・スタンダード指数」から主要銘柄が除外されたことも影響しました。例えば物流施設大手のGLP投資法人が除外され、海外投資家にとってJ-REITの魅力が低下しました。
【国内投資信託の動向:売り越しが続く】
投資信託も2024年は1254億円の売り越しを記録し、21年以来3年ぶりの規模となりました。以下の要因が主な理由です。
• 「毎月分配型」商品の不振
長期資産形成に適さないとして新NISA(少額投資非課税制度)の対象から外され、資金流出が加速しました。
• 運用成績の見劣り
岡三証券の並木幹郎シニアアナリストは、「J-REITの運用成績が日米株投信と比較して劣後している」と指摘しています。
【J-REIT価格の動向:東証REIT指数が4年7カ月ぶりの安値】
2024年12月、東証REIT指数は1652ポイントまで下落し、2017年以来の安値となりました。株式市場と比較すると、J-REITの低迷が際立ちます。
• 株式市場の好調
日経平均株価が2023年末から約20%上昇したのに対し、J-REIT指数は8.5%の下落。外国人投資家の売り越しが価格低迷を助長しました。
• 個別銘柄の動き
2024年の騰落率では、ホテル系銘柄が上位を占めました。特に、いちごホテルリート投資法人(IHR)は物件売却益による分配金増加で38.2%の価格上昇を記録。一方で、ヘルスケア&メディカル投資法人(HCM)は賃貸収益増加が見込めず、最も価格が下落しました。
【分配金利回りと賃貸市況の改善】
2024年12月、分配金利回りは5.0%を超え、2012年9月以来の高水準となりました。さらに、賃貸市況の改善も明るい材料です。
• オフィスビル賃貸市場の回復
東京都心5区では空室率が6.03%から4.00%へ改善。賃料単価も19,748円から20,296円に上昇しました。
【今後の展望:低迷を乗り越えるために】
J-REIT市場は2024年の下落基調を受け、依然として厳しい状況が続いています。ただし、米国の長期金利上昇や政策要因の影響が収束すれば、価格回復の可能性も期待できます。
• 自己投資口買いの強化
上場REIT各社が自己投資口買い(株式の自社株買いに相当)を進めていますが、全体の需給を改善するにはさらなる拡大が求められます。
• 割安感を活かした投資機会
分配金利回りや賃貸市況の改善を背景に、長期投資家にとっては割安感が魅力的です。
2024年は、J-REIT市場にとって試練の年となりましたが、一部で回復の兆しも見られました。政策や市場環境の変化を見極めつつ、慎重な投資判断が求められる年となりそうです。