流通事件簿VOL、9「ゆめタウンがスローレジで成功した理由」
高齢化の進展は止まるところがない。日本全体でみても、65歳以上の高齢者比率は、30%に迫っている。出産数の著しい低下と合わせて、日本の人口減少は急速に進む。そして、少子高齢化は20年前、30年前から問題提起されているのに、そのソリューションは全く出てこない。
例えば、最近の流通業の例でいえば、お客の平均年齢は上がり、より丁寧な接客が必要になってきているのに、店舗オペレーションの生産性を上げるため、従来のようなレジ要員が処理精算ではなく、入力はレジ担当者が行い、支払いは自分でするセミセルフレジや、すべて自分が行うセルフレジが増えている。
見ていると、従業員が配置されている、通常のレジレーン行列ができているのに、セルフレジは若い顧客しか使っていないといったケースもよくある。使い方が分からない顧客のために、アドバイスできるスタッフを配置している店舗が多いが、取って付けたような対応という感じがするを
逆にいえば、来店客に占める高齢者の比率が増えているにも関わらず、その問題に正面から対応するのではなく、レジの生産性を上げることで、顧客構成の変化という根本テーマを回避しているのだ。
ゆめタウンのスローレジ
このような高齢者の買物について対応して成功している店舗(企業)がある。その問題に最初に取り組んだのは、イズミのゆめタウン行橋店だ。同店も他の店舗と同様、レジの効率運営によって生産性を上げことに注力していた。
ところが、店長が顔見知りのデイサービスを運営している女性から「レジの決済が複雑すぎて戸惑う」とか「精算の時不安で、買物に行けない」などを訴える高齢の人が多いですよという話を聞いた。
そこで同店では、店長はじめスタッフが集まって、どうするか対策を協議した。もちろん、レジの対応を丁寧にすることは、時代に逆行するという意見もあったが、来店客構成は高齢者が多いことから、月2回午後2時間に限り、スローレジの実証実験を実施した。
そして、この実験の結果は意外なものだった。通常のレジとスローレジでは、1時間当たり処理できる客数は10人も違っていたにも関わらず、スローレジ利用目的のお客が増えたことによって、店舗全体の売上はアップした。その額はスローレジを常設すると10%強増にもなった。
ゆめタウンは、この行橋店の結果を受けて、スローレジ実施店舗が60店舗以上に拡大した。
高齢者のニーズへの対応が必要
ゆめタウン行橋店のスローレジの実験は、2020年7月のこと。それからわずか3年余でイズミの他社店舗に対する差別化要因となっている。その理由は、スーパーマーケットなど小売業は、これまであまり高齢者のニーズに対応していなかったということ。
例えば、スーパーで高齢者が買しているのを見ていると、カゴ一杯買い物すると、レジからサッカー台に運ぶのさえ苦労している人がかなりいる。そういう顧客に対するサービスとして、商品を運んであげる、持参したバッグに詰めてあげるサービスをしてあげるだけで、買い物が随分楽になる。
また、加齢とともに行動がゆっくりになるし、視力の衰えにより、コインは判別しづらくなるもの。したがって、ゆめタウンのようなスローレジはニーズが確実にあるし、袋詰めまで手伝ってあげて、その時少し話をすれば、買い物の満足度はアップする。
つまり、これまでは「フォア・ザ・カスタマー」といいつつ、お客のことは考えてこなかったのが、日本の小売業だったのではないか。