富士登頂記 その2
六合目から七合目になると、背の高い植物もだいぶ減り、日光にさらされてくる。この日は運良く、雲が空の八割ほどを覆っており、紫外線からは守られた。
道は傾斜が鋭くなり、そのため、ジグザグを繰り返す。基本的には砂利の様な火山石の道だが、徐々に岩場なども増えてきて、一歩一歩慎重になる。
そして体力の減り方も増して行く。七
号目あたりでは霧も出て来、雲の中にいるような場面もあった。
休憩しながら街を見下ろすと、緑が広がり、山中湖もきれいに見える。
ここから八合目までは長く険しい。標高は3000メートル近くになり、徐々に頭が痛くなってくる。水をこまめに飲み、休憩していても高山病の症状は襲ってくるのだ。なるべく呼吸を丁寧にし、なんとか一歩、また一歩と前に進んで行く。
かなり傾斜のついた岩場では手をつきながら、さながらロッククライミングのような格好で登る場面も。ほとんどの人はトレッキングポールを使っていたが、僕は生意気にもそれは要らないと判断し、脚だけで登った。
そのため、傾斜のついた岩場では、手をついて登る方が安全かつ楽だった。
八合目までの道のりで脱落する人も何人かいた。重い高山病だったり、激しい膝の痛みだったり、体力的な問題だったりと理由は様々だが、登頂率は七割だという。様々な原因で、毎年死亡者も出ている。準備不足や油断で、死をも隣り合わせた山なのだと実感。
頭痛・眠気と闘いながら、ようやく着いた八合目の山小屋。
到着してからは迅速な行動を促される。まずは寝床へ荷物を置き、すぐさま階下の部屋で食事をとる。お決まりのハンバーグカレー。
次の日の分の軽い朝食(パンやお茶など)を受け取り、速攻で寝支度に入る。風呂やシャワーが無いのはもちろんのこと、トイレも水洗ではない。
まともな歯磨きもできないし、顔をシートで拭くだけで済ませる。
今までにないほどの疲労感から、これはすぐに寝られるのではと考えたが、甘かった。
近すぎる人との距離、治まらない頭痛、そして寝られない一番の原因が暑さであり、熱さであった。
夏場とはいえ、高所である。外の気温は冬並みに低い。当然、毛布が用意されている。しかしこれが暑い。特に筋肉の疲労からか、下半身が燃えるように熱い。汗ばむほどに苛立ちが募る。
しかし毛布は隣の人と繋がっているから、自分が毛布を剥いでしまえば、隣に迷惑がかかるかなと躊躇する。しかし、暑さの限界を感じ、毛布から脚を出す。かなり楽になった。
そんなこんなで永遠に続きそうな苦しい時間をやり過ごす。他の人も寝られない様で、起き上がったり、ごそごそ動いたりしている。
腰の痛みや人の気配が気になったりで、ほぼ無眠のまま起床時間となる。
というか早くこの我慢大会が終わってほしいという皆の思いからか、予定よりも30分も早い23:15に起き、支度を整える。いよいよ御来光へ向けてラストスパートだ。
~その3へと続く~