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正しさとは一体何だったんだろう?④

部屋に3人が入ってきた時一瞬だけ思考が停止した
少しの間は顔も見れなかった、別に悪い事をしていたのは俺ではないのに
無意識に身体が反応したんだろう

全員が着席して裁判官から「これより第1回労働審判を行います、双方代表者達にいろいろ伺う事もありますがよろしくお願い致します」

この時にあー本当に始まったんだという実感と、この1回目で一体どこまで話し合うのかという不安が入り乱れていた

話の流れは互いに提出していた資料を1冊にまとめている感じで
1ページ目に
号証
標目
作成年月
作成者
立証趣旨
 
これと照らし合わしながら話を進めていく

開始時刻は2時半 予定では30~40分程を予定していると聞いていた
その時間でどの位話がまとまるんだろうか?予想がつかない 

この場では基本的に代表者が発言する事になり弁護士は発言はしない、少し手助け程度に資料を出したりする位だった

向こうは3人こっちは1人この状況がまず ずるいだろうと思った
裁判官 労災認定 会社側 合計で6人分の受け答えを1人でしなければならない

軽く深呼吸だけして少し心を落ち着かせる

裁判官から大まかな事故の流れ、こっちの申し立てている内容が話される
*「以上が本件の申立人の内容になりますがよろしいでしょうか?」

「はい、合っています」

*「相手側も本件の内容はこれでよろしいでしょうか?」

こんな感じで交互に問いかけられる、話している間は基本終わるまで聞き
その後に
*「今の内容に間違いはありませんか?申立人から言う事があればお願いします」
もし本件からズレている様な内容になればすぐに

「すみません、それは本件とは関係ない内容となっていますので」と止められる

だからこの本件の内容に当てはまっているか、上手くそれに当てはめながら相手に多くの情報量を発言して有利にならなければならない

言葉選びや文脈に疑問点や、あやふやな答えをすると
*「具体的にお願いします」とピシャリと言われる これがなかなかの緊張感だった

そして話が始まったら理不尽の嵐だった

会社側からは俺が指示を無視したから落下事故に遭った

パワハラなんて会社には存在しない

彼は入社する前からうつ病だったらしいがそれを隠していた事が悲しい、それが原因で事故に遭ったのではないか?

非常に残念だ、彼がこんな行動を起こして我々がここで話合っている事が残念だ こんな事ばかり並べられた

「彼は落ちた時、頻りに警察と救急隊に自分が悪いんだと主任は悪くないと言っていたと聞いているんですよ」

「パワハラに関しても彼が提出したTwitterですか?これを見て初めて知りましたよ、まずこんな事ありえないのに」

「もしパワハラがあったのなら、なぜ窓口の総務である私に声を掛けてくれなかったのか残念だ」

「我々は彼や親御さんに誠意な態度を取ってきました、それなのに突然弁護士から連絡がきて彼と連絡もできなくなってしまった、非常に残念です」

唖然とした、こいつらは何を言っているんだ?
言い方的には俺がただの虚言癖のあるやつという感じだ

嘘つきは向こうなのに

聞けば聞くほど最初の不安感より軽蔑の目で向こうを見ている自分がいた

あーそうか、そういう事するんだ
そういう事を言うんだ なるほど なるほどね 

「あと彼が投稿したという書き込みの日付と会社の出勤日に違いがありましてね、投稿していた日付は休日なんですよ」とそう言いながら
隣に座っていた弁護士が俺の今までのタイムカードの束をドサッとテーブルに置いた

助かったのはこの発言の間に裁判官達も疑問に思った事は双方に質問する

会社は作業環境の安全は毎回整えていましたか?
パワハラの対策は日頃していましたか?
具体的に説明してください

この質問に対して会社側はあれだけ強気だったのに口を開けば
ごにょごにょするばかりだった 本当に墓穴を掘るとはこういう事なんだろうなと呆れて見ていた

「安全対策は彼が落ちてからしました」
*「落ちてから?その前からは?していなかったんですか?」
「それは、、、その時の状況もありますから、、、その場で対応を」
*「では事前に対策はされてこなかったいう事でよろしいでしょうか?」
「、、、はい」

*「ではパワハラに関してはどうでしょう?日頃からポスターを貼るなどの対策はしてきたのでしょうか?」
「えっとですね、会社の入り口のタイムカードの場所に目安箱という物を置いてましてそれに社員は意見を入れるという事を、、、しています」

*「??目安箱??ですか、えっとそれは何の対策になっているのでしょうか?具体的にお願いします」
「具体的にですか、、、しかしあれですよねパワハラってここ最近問題視されてる事ですよね?」

この社長の発言には全員がキョトンとするばかりだ

*「いえいえ!ハラスメント問題は以前から問題視されています、そして去年から中小企業も対策をするように義務付けられていますよ?」
「え?去年からですか、、、」

この時に社長はメモを取っていた位だ、何も知らないじゃないか

一通り終わったら俺の番だ
受け答えは多分だったかな?のようなあやふやな表現は使わないと決めていた
「まず自分は警察には会っていません、病院の個室に運ばれてから電話で事情聴取されて事件性がなかったかの確認はされました」

「そして自分は支持を無視をしたなんてありえません」

「パワハラに関しても直属の上司に相談はしていました、しっかりと声もかけています」

「提出した資料の日時の違いを指摘されてますが会社の休憩時間に投稿したものもあれば、休日などに自宅で昨日はこんな事があったなと投稿していたと書いているはずです、内容についてはすべて事実を書いています」

「そして文章についてもTwitterから取り寄せているデータなので自分が変更したものでもありません、またデータが欲しいというならダウンロードできます」

鳩が豆鉄砲を食らった上に飼い犬に手を嚙まれる状態にもなったとはこういう事を言うのだろうか

俺が口を開けば止まる事無く発言が続く
会社ではハイハイいう事を聞いて使いやすいと言われていた奴に嚙みつかれた
そりゃ向こう表情も変わる

こんな感じで細かい部分まで話は進み時間もかかった
「すみません時間も裁判所が5時までとなりますのでそろそろ我々の方で話をまとめたいと思いますので双方待合室でお待ちください、長い時間ありがとうございました」

長い時間?時計を見ると4時半
2時間も話してたのか、、、、部屋も暑くて途中で窓も開けていたが
頭が凄く熱かった 緊張と相当頭を使っていたからだろうか?

先生と待合室に戻って母親にも状況を説明
自分が話していた内容は大丈夫だったか聞いた
「とても堂々と話していて全く問題なかったです、向こうの方が勝手に自分達を不利にするような事を言っていましたから大丈夫ですよ」

それを聞いてほっとした

そして少ししてから裁判官が来てまた部屋に呼ばれ今回の件についての落としどころについての説明があった

明らかに安全な環境では無かった事は会社に責任があるために損害賠償は認める
パワハラに関しては立証するには発言をしていた本人も記憶にないと言っている、そして音声でもない限り認めるのは難しい

精神的、肉体の後遺症は事故が原因に含まれる為に認める

これが裁判官達の答え これで向こうも納得いけばこれで成立するという事

裁判官達からは「本当はパワハラもあったはずなんですよね、でも法律として立証するには難しく、もしこの問題を追及するとさらに長引く事 我々の考えとしても申立人の今後の事を考えればここでこの問題を清算して新たな一歩を踏み出すきっかけにしてもらいたいという考えです」

それを聞きながら
はぁ、、、やっぱりパワハラはグレーゾーンな判断だったか、、
立証するには弱かったか、、、

「わかりました、ありがとうございます」

*「では、この内容を相手側にも話して成立すれば本件の手続きは進みますよろしいでしょうか?」

それを聞いた後に待合室に戻り
向こうに説明され、それが終わり再度呼ばれた

*「相手方に内容を話した所この内容で良いと前向きな返答をいただきました、どうされますか?今日ここで成立もできますが」

この話で先生と待合室で話していたのが
ここまで1回目でスムーズ話が進むとは思わなかった事
もし成立できるとしても1度話を持ち帰って損害賠償額や他に悔いが残らないように判断するために2回目で成立させるというのが安心ではないかと話し合っていた

「1度持ち帰って考えても良いですか?」

*「了解しました、そうですね ではまた双方に来てもらう事になると思いますが日程を決めましょう」

部屋で日程を決める時に最短でも約1カ月後になるという

曜日を決める時に

月曜は社長が通院だ、火曜は専務が駄目 水曜は裁判所が駄目

木曜は会社の社内会議があると言った所で
「あー社長もう会議なんて別日で良いです木曜、木曜日で良いです決めちゃいましょう」

そっちに合わせてるのにそんな適当な返事かよ、、

日程も決まり裁判所を出る 門を過ぎて振り返ると丁度会社の人間達が出てきた所だった
向こうは弁護士と笑いながら話している姿が見えた

一体何がおかしいのか話している内容なんてのは知らない
ただ俺にはそれが悪意の塊に見えた

約1か月後また会わなきゃいけないでもきっとそれで区切りがつくんだと思い
先生に挨拶をして家路につく

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