あなたは「人々が求めているもの」が作れるか?
"Make something people want" 「人々が求めているものを作れ」
これは、Y Combinatorを作ったPaul Grahamの言葉だそうです。いつ聞いたのか定かではありませんが、スタートアップ界隈とはみじんも縁がなかった僕も、何かの拍子で読んだり聞いたりして、頭に残っていた言葉でした。
すごい技術、でもなく、圧倒的な美しさ、でもありません。「人々が求めているものを作る」というシンプルなことが、企業最大の課題です。"作る"という中にはプロダクトだけでなく、売り方や、口コミが拡散していく設計も含まれており、マーケティングの課題とも100%合致します。
そんなこと言ったって、「人々が求めているもの」が分からないから困っているんじゃないか!
まさにその通り。すべての経営者やマーケターは、この一点に、血の汗が流れるほど苦慮し、寝ずに考え、それでもなおトンネルのゴールが見えずに苦しみ続けています。ご多分に漏れず、僕自身も、偉そうに「人々が求めているもの」なんかを教える立場にはなく、半ば不眠症に陥っている一人です。
このnoteは、そんな永久に正解のない「人々が求めているもの」という迷宮に挑んでいる経営者、マーケター、企画部、開発部の皆様を念頭にして書いています。代表的な"型"に関して考え方を理解することで、やみくもに勘に頼ることが少なくなるだけで、大いに有益だと思います。もちろん、その型を知ることよりも、実行するのはさらに難しいのですが。
また、営業やファイナンスなど直接的に関わることが少ない人でも、結局人々が何を求めているのか、という視点を持つことは少なからず日々の業務に一つ高い視点が持ち込まれ、結果としていい影響があるものと考えております。
残念ながら僕はヒットメーカーでもなく、次から次へと感覚で売れるものが分かるわけでもありません。むしろ真逆です。なので、僕が「人々が求めているもの」の見つけ方を"教える"のではなく、複数の事例から、"改めて考えてみたことをシェアする"という立場を取りたいと思います。正解・不正解ではなく、その思考のプロセスを開示することが、誰かにとってそのプロセスをすっ飛ばすことのできる価値の高いものだと信じます。
では始めましょう!
1.なぜ「人々が求めているもの」は難しいのか
最大公約数が問いを複雑にしている
「人々が求めているもの」に気づくのがなぜこれほどまでに難しいのか、考えたことはあるでしょうか。もちろん理由はパキッと一つになるわけではありませんが、盲点なポイントを、重要なことなので、挙げたいと思います。
それは、"人々"という言葉に、"不特定多数が求めているもの"という暗黙の了解が、前提として入ってしまっていることにあります。実は、「人々が欲しいもの」とは、田中も佐藤も小林も石井も等しく欲しいものという、顔も見た事のない他者大勢の最大公約数はなんだ?という問いが内包されているのです。
そして、それはなぜかといえば、僕たちは資本主義社会に生きており、お金を稼がなければならないからです。ビジネスとして成立させるためにはある程度のスケールが見込めないといけないのです。大勢の人に買ってもらえなければ利益を出せず、従業員に給料は払えず、会社は倒産してしまいます。
より理解を深めるために、真逆のケースを考えてみます。例えば、"恋人"だとしましょう。お題は、「あなたの恋人の欲しがっているもの」を見つけることです。これってそんなに難しいでしょうか?もちろん中には難しいカップルもいるかもしれませんが、ほとんどのケースでは、誕生日プレゼントを渡して、喜ばれないケースの方が珍しいはずです。つまり、「人々の求めているもの」よりも遥かに見つけるのが簡単なのです。ここには、二つ理由があります。
1) あなたは恋人のことをよく知っており、前々から何が欲しいか、どんな色が好みなのか、おおよそ知っていたから。
2) そもそも、恋人が欲しがっているものは、特定のモノではなく、あなたが時間をかけて選んでくれた、という事実だから。
ここで重要なことは、相手が一人でよく知っており、かつ高いエンゲージメントレベルで結ばれている場合には、「欲しいもの」を見つけるハードルは極めて低くなる、ということです。当たり前のことですね。
ブランドと消費者が高いエンゲージメントレベルで結ばれている状態が、ブランディングが成功している状態です。つまりブランド選好が確立されている状態であり、全てのブランドが目指すべき状態です。雑に言えば、何を出しても買ってもらえる状態。ブランドの商品が、消費者にとって常に恋人へのプレゼントと同じ状態になります。(Appleなんかは、この領域に達していますね。)
ということで、実は「人々の欲しいものを作る」という究極の問いの、どこが問題を難しくしているかというと、多くの場合に"欲しいもの"の部分だったり、"作る"の部分だったりに目が行ってしまうんですが、実は"人々"の部分が最もお題を難しくしている、ということが分かってもらえたのではないでしょうか。
ちなみに余談ですが、このことが、市場を特定のニーズや行動パターンごとにセグメント分けする直接的な理由になっています。セグメンテーションは、最終的に最大公約数を見つけやすくする、ひいては「人々が求めているもの」を浮き彫りにするために行っているということを忘れてはいけません。
"カフェに行く人"では広すぎて何を求めているのかあいまいですが、"仕事をするためにカフェに行く人"ならばかなり共通しているものがありそうです。例えば電源、WIFI、スクリーンなど。このように、「求めているもの」の最大公約数を浮き彫りにするセグメンテーション以外には、意味がありません。
この点を忘れて何となくでセグメントを切るのは、問題をむしろ複雑化し、戦う市場を無意味に小さくするだけであることに留意しましょう。詳しくは、以前書いたnoteのWHOのパートを読んでもらえると詳しいです。
2020年、という時代の理由
もう一つ、本題とは逸れますが、この「人々が求めているもの」というお題を難しくしている要因があります。それは、僕たちが2020年という、人類の歴史上で最も満たされた時代に生きている、ということです。
「遠くの土地まで素早く移動したい」
「ふかふかのベッドで寝たい」
「おなか一杯ごはんを食べたい」
こういった、ある程度誰でも思いつくものに関しては、その市場にすでに多くのプレイヤーが参戦しているので、仮にそれが「人々が求めている」ものだとしても、その中でちゃんと勝ち残っていかなければならない、という競争の軸が生じます。
起業を考えたり、社内で新規事業を考えたりしている場合には、暗黙のうちに、「誰も思いついていなくて、人々が求めているもの」にお題を限定していることも、問いを難しくしている原因かもしれません。
これに関しては、次章以降で解説していく見つけ方の型のうち、インサイト型で説明できれば思います。それでは、具体的な「人々が求めているもの」も見つけ方を考察していきたいと思います!
2.「人々が求めているもの」の見つけ方 -カイゼン型
最も親しみのある手法
多くの企業にとって、ほとんどのケースが"カイゼン型"で「人々が求めているもの」に近づくアプローチをとっているはずです。
ユーザーにアンケートやインタビューを行ってみて、どういう機能があったら嬉しいか、使っていてどういうタイミングで使いづらさを覚えるか、などを集めて、それを満たすものを出すなり、機能としてアップデートして実装するなり、というものになります。
後ほど述べるインサイト型が潜在的な消費者の心理をトリガーにする手法だとすれば、カイゼン型は顕在化している消費者課題をトリガーにする方法になります。必然的に、全ての競合が同様の消費者課題に気づいていることになります。なので、このパターンで重要なのは、競合よりも素早く行動することと、実際に機能性として勝つというガチンコの技術力、そして何より消費者の第一想起を取るための投資、という資金力の勝負になってきます。
(もちろん、業界によっても異なります。この例では、ある程度競争が激しくて各社技術開発が激しい業界を想像しています。例えば衣料用洗剤など。)
事例 ルックプラスバスタブクレンジング
2019年にライオンからリニューアルされて発売された浴室洗剤です。「こすらずに60秒待つだけ」「バスタブはもうこすりません」で主婦の心をつかみ、1年間で浴室洗剤の市場規模を2割拡大させる快挙を達成しました。
お風呂掃除は主婦が嫌いな家事にも常に上位にランクインしており、「服が濡れるから」「中腰をキープするので身体が痛いから」など、アンケートでも理由は色々と出ていたのです。実は、「スポンジでこする必要がない」という謳い文句の商品も、すでに競合からも出ていました。
しかし、メーカーサイドの謳っている内容とは裏腹に、実際には消費者は引き続きスポンジでこすっている。なぜかと言えば、スポンジを使って洗剤を広げないとまんべんなく浴槽を洗うことが出来ないからです。つまり、謳っている製品のパフォーマンスが、消費者の期待値に届いていなかったのです。
そこに、ワンプッシュでムラなく1メートル広がるワイドなミストノズルを開発し、実際にスポンジを使わなくても簡単に浴槽全体をカバーできる製品としてこれが発売されました。使ってみると、実際にこすらなくても洗うことが出来るということで、リピート率が非常に高くなり、結果として口コミでも大いに広がったのが勝因となりました。
「スポンジでごしごし洗うと服が濡れたり、腰に悪いから、風呂掃除が嫌い。スポンジを使わないで洗えるようにしたい。」という消費者の声を、技術力でカイゼンした好例と言えるでしょう。
必ずしも消費者は本当のことを言わないことに注意
最も分かりやすく、行動に移しやすいカイゼン型の手法ですが、注意事項として、「消費者は無意識にウソをつく」ということです。
例えば、半年で販売中止になったサラダマックは有名です。女性向けのシェアを上げようと考えたマクドナルドが、アンケートやインタビューで女性に好評だったサラダマックを実際に発売したにも関わらず、決して売れることはありませんでした。
人は時に、聞かれているからちゃんと答えなければならない、ということを考えて、本来マクドナルドを食べる時には考えてもいないようなことを言ってしまうものです。もしくは、「ビックマックが好きだと答えたら、やばい女性だと思われてしまう」という本音を話すのに心理的ハードルがあったのかもしれません。
結果としてそのあとに真逆の発想からクオーターパウンダーを出して大ヒットします。それこそ、実は「普段我慢しているんだからたまには思いっきりジャンキーなものを食べたい!」というインサイトがあったのかもしれません。(インサイトに関して、詳しくは次章) つくづく、人の気持ちを推し量るのは難しいものです。
カイゼン型の限界
カイゼン型の一番の課題は、既存の製品をどんどん改善していったときに、いつか消費者がもう求めていない、もしくは実感レベルまでカイゼンされつくされてしまう、という点です。特に、技術が飽和している現代において、その傾向は顕著になっているように思います。
例えば、テレビを思い浮かべましょう。ブラウン管から始まり、2K(地上波デジタル)を経て、今や4K、さらには8K。16Kもすぐそこまで来ています。「よりよい画質でテレビが見たい」という消費者の声を受けて愚直にカイゼンしてきているわけですが、これって本当に消費者が求めているものなのでしょうか?
おそらく地上波デジタルぐらいの時代から、画質のクオリティというものが「人々が求めているもの」ではなくなったという風に感じます。もちろんアンケートで応えれば画質が良い方が好きと答えるでしょうが、実際には画質を求めて買っている人はもうほとんどいないはずです。
言ってしまえばスピードを追求した結果300km出る乗用車を開発しているようなもので、使える場面もなく(人間の識別レベルを超えてしまった)、不必要なレベルの機能になってしまったと感じるのです。
ひたすらに今の価値基準で"より良く"を求めていく持続的イノベーションの考え方は、ある一定を越えると消費者に認知できなくなります。それでも歩みを止められないのは競合がいるから、という側面もあるかもしれません。それでも、そのようなブランドは次章で述べる"インサイト型"にシフトする必要があると思っています。
3.「人々が求めているもの」の見つけ方 -インサイト型
インサイトとは?
マーケティングに関わっていたり、広告代理店に勤めている方は、インサイトという言葉を頻繁に使います。一方で、インサイトという言葉はかなり独り歩きしており、「インサイトってなんだ?」という問いにみんなが同じ理解をしているかというと必ずしもそうではないでしょう。
辞書的な意味は洞察・眼識ですが、これではピンときません。もちろん定義は一つではないかと思いますが、ここでは次のようにインサイトを定義付けたいと思います。P&Gでの定義もだいたい同様でした。
消費者自身ですら気づいていない隠れた動機・感情、もしくは行動に結びつく新たな視点
「あー考えたことなかったけど確かにそうですね!」というリアクションが返ってくるような隠れた感情こそがインサイトです。なので、例えば「疲れている時は甘いものが食べたくなる」のような、誰でも分かっていて、自分で説明できてしまうような意見やニーズはインサイトではありません。
なぜインサイトが重要かと問われれば、誰も気づいておらず(消費者自身ですら気づいていないので)、その感情を満たしたり解決したりすることに、消費者は驚きをもって喜んでお金を払うようなものだからです。要するに、インサイトは「人々が求めているもの」の1丁目1番地なのです。
名著「イノベーションのジレンマ」でクリステンセンが言うところの「破壊的イノベーション」は、須らくこのインサイト型で「人々が求めているもの」を作ったイノベーションです。そして、破壊的イノベーションは常に前述したカイゼン型の「持続的イノベーション」を駆逐してきました。まさに、iphoneがカメラの画素数を争っていたガラケーを駆逐したように、です。
事例1 You're not you when you're hungry
スニッカーズの「You're not you when you're hungry」というキャンペーンをご存知でしょうか?2010年のキャンペーンですが、この年USAにおけるスニッカーズは同キャンペーンの影響で、商品変更を行わずに売り上げを115%で成長させたらしいです。英語ですが、意味は分かると思うので以下の動画を見てみて下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=dbpFpjLVabA
お腹がすいているときは力が出ない、とか、甘いものが食べたくなる、というのは直感的に誰でもわかることです。スニッカーズのマーケティングチームが秀逸だったのは、失敗した時に「コンディションさえ完ぺきなら。。。」という誰でも言い訳めいた感情を持っている、というインサイトを多くの人が持っていると気が付いたところです。
スニッカーズでお腹を満たすのは、お腹を満たすためではなく、本来の自分をいち早く取り戻すためですよ、と。
このCMには複数バージョンあって、見ていても非常に面白いので興味があれば見てみて下さい。
事例2 スターバックス
皆さん大好きのスターバックスです。特に都心のスターバックスはいつ行っても混雑しており、老若男女問わずに大人気を博しています。そんなスターバックスが提供している売り物はなんだと思いますか?もちろん、コーヒー!と答えたくなるところですが、実はそうではありません。スターバックスは、「サードプレイス」を一貫して売り物としており、それが消費者から支持されています。
家(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない空間がサードプレイスです。そして、そんなサードプレイスを求めている人のインサイトは「自由に過ごせるサードプレイスでリセットすることで、家でも職場でもチャージされた最高の自分でいられる」というものです。
サードプレイスというコンセプト自体は実は昔からある程度は提唱されているものでした。しかし、それは家や職場で不安を抱えている人の駆け込み寺としてのサードプレイスが必要だ、という文脈で語られていたのです。つまり、病んだ人が癒される場所、というニュアンスですね。
そこにスターバックスは、「サードプレイスでのくつろぎがあるから、家や職場で自分が自分らしく幸せでいられるのだ」という逆転の消費者インサイトを見抜き、見事にそのための場所を提供しました。皆さんも、スターバックスと言えば、緑色の看板、開放的な店内、素晴らしい接客、などコーヒー以外の、スターバックスに居座りたくなる特徴ばかりが頭に浮かぶはずです。
スターバックスは、飲食店にとって追及するべき数字である回転率を、敢えて落としてでもサードプレイスとしての価値を提供することにブランドとしてコミットしており、その結果として多くのファンを作り出し、LTV(顧客生涯価値)が他のカフェをぶっちぎっています。
例えばスターバックスはコーヒー一杯でいくらでも粘っても嫌な顔一つされません。ほかのカフェが電源を使用できないようにしたり、仕事での使用を禁止してどんどん客を追い払おうとする中、全くもって真逆です。WIFIも初期から完備し、むしろ長居してもらうことを推奨しています。
短期的な利益を捨ててでもサードプレイスとしてのブランドの売り物にこだわっているからこそ、消費者からの長期的なブランドへのコミットメントがあるのです。(また、そのことで単価が高く設定できているので利益率も高いです。)
インサイトの見つけ方
インサイトの見つけ方に関しては、これといった正解があるわけではないと思っています。仮にインサイトの普遍的な見つけ方が本当にあるとすれば、それはもはや全員が使えるようになり、全員が気づいている時点でインサイトではなくなってしまいます。
と断った上で、僕なりにインサイトへと近づく考え方をまとめてみましたので、参考にして頂ければと思っております。
まず、先に述べた通り"人々"という要素が問題を難しくしているので、ここを簡単にします。つまり、"人々"ではなく、一旦スケールするかどうかは脇に置いて、"特定の誰か"に限定し、どのような隠れた動機、感情、悩みがあるのかを深く掘っていくのです。
自分が担当している商品が自分も使うものなのであれば、"特定の人"を"自分"と置き換えて考えてもいいでしょう。特に、起業家にはこのケースが多いように思います。仕事や生活をしていて自分がおかしいと感じた点を起業アイデアにするパターンです。当然、他人の心の中を探るよりも、自分の心を探る方が簡単ですし、説得感もあります。Paul Grahamも、Twitterで次のように語っています。
Q:どうすれば投資家に魅力的に売り込める?
A:実際に(そのスタートアップが)良い投資対象であることだ
Q:では、どうやって良い投資対象になればいい?
A:収益を速く成長させることだ
Q:どうやれば速く収益を成長させられる?
A:人々が求めているものを作ることだ
Q:どうやれば人々が求めているものを作れる?
A:あなたが求めているものを作ることだ
自分が担当している商品を自分が使うことが無い場合、例えば男性マーケターが女性向けの化粧品ブランドを担当しているような時、"特定の人"を探し当てる必要があります。一般的には、定性調査、というものを通じて特定の人を見つけ、徹底的に深堀りしていくでしょう。
「何を消費者が語っているか」ではなく、「なぜその行動をとったのか」というWhyの質問をひたすらにぶつけていきます。消費者の発言には一貫性が欠ける部分がどうしても出てきますが、その一貫していないポイントが実は本人でも気づいていない深層部分での悩みや、課題だったりします。
Yes or Noで回答できてしまう質問や、半ば誘導尋問のような答えありきの質問ではなく、その時どう思ったか、それはなぜか、というオープンな質問と、返ってきた答えのWhyを追及するようにしましょう。
何百回も定性調査を行いましたが、実はインサイトを発見し、結果として新商品になったり、CM制作のヒントになった、という調査はそんなに多くはありません。誤解を恐れずに言えば、ほとんどはハズレです。そんなもんです。それでも、10人に1人でもピンとくる人がいれば大成功で、その人を徹底的に満足させるものを作ることが出来ればいいのです。
本noteの最後に軽く触れようと思っていますが、上記のようにハズレ調査が必ず生じてしまう特性上、定性調査で重要なことは、如何にハズレ調査を簡単に行えるかだと思っています。リードタイム的にも、コスト的にもです。2か月もの時間がかかり、200万円ものコストが必要で、それでいて5人にしかインタビューできず、その5回が全てハズレ調査でした、なんて結果になったら取り返しが付かないのです。ちなみに。冗談じゃなくこれが現状ですが。。。
調査を行うハードルを低くして、気軽に何度でもハズレを許容できるようにしなければならない。これが、僕が痛烈に感じていることです。
定量データはインサイトではない
大きな注意点があります。それは、定量的なデータはインサイトではない、ということです。恐ろしいことに、「ティッシュとプリンがよく同時購買されている、というインサイトがあります!」のように、ただのデータが示す事実を、さもインサイトかのように扱っているケースを見受けることがあります。
ティッシュとプリンの同時購入率が高いとして、その事実には何の意味もありません。大事なことは、「なぜ、ティッシュとプリンを同時購入しているのか」という消費者の隠れた動機を探りあてることです。そのためには、やはり実際に、店頭に行って消費者行動を観察し、ティッシュとプリンを実際に合わせ買いしている消費者に話を聞くしかありません。
インタビューの結果、実は本人もティッシュとプリンを同時購入していることを意識していない、ということに気づくかもしれません。そうなると、例えば、ティッシュを買うという雑務を一つこなすと、人は無意識に自分にご褒美を買ってあげたくなってプリンを買う、というインサイトがあるかもしれないと仮説がたちます。
でもなぜケーキではなくてプリンなんだろう?ほかのお菓子じゃダメなのかな?など考えが膨らみます。何かプリンに固有の理由にたどり着いたら、もっと自分へのご褒美アングルで商品を改良したり、売り方を改良したり、とアイデアが広がっていくきっかけになるかもしれません。
(ティッシュとプリンの同時購入率は例として出しただけで完全に適当なので、あくまで架空の話として考えて下さい。)
定量的データは仮説のスタートポイントになりますし、見つけたインサイトが他の人にも当てはまるかの確認にも使えます。意思決定の大きな味方だと思っています。ですが、0→1のフェーズにおいて、数字とにらめっこしていても、「人々が求めているもの」までは教えてくれません。泥臭い消費者との会話は2020年になっても、いや、2020年だからこそ、その重要性を増しているのです。
4. 消費者ともっと話そう
全ての出発点は消費者にあり
インサイト型にせよ、カイゼン型にせよ、一つ揺るぎない事実があります。それは、「答えは消費者の中にしかない」、という事実です。それにも関わらず、「消費者はこう考えるはずだ」とか、「うちの技術をこうやって打ち出せば消費者は使いたくなるはずだ」という憶測で、消費者から最も遠い存在である企業のおじさん同士が話していても、「人々が求めているもの」に使づくはずがありません。B2Bのサービスであれば、実際に使用する対面にいる企業内のユーザーさんの声ですね。
答えは会議室で出すものじゃない、現場で気づくものなんだ 。
もしイノベーションに飢えていて強烈な危機感を覚えているのだとしたら、稟議書を破り捨て、作成中の社内プレゼン資料を消去し、とにかく消費者との対話に徹底的に時間を割くべきです。マネジメント側にいるならば、そのような行動をこそ称賛し、評価の対象とするべきです。
Consumer is Boss 「消費者こそが上司だ」、これはP&Gのいつぞやの社長の言葉ですが、すごくいい言葉だと思います。もちろん、社内の調整も大変ですし、組織が多くなればある程度の政治活動も必要でしょう。それでも、やはり最後は消費者と心中する覚悟が無ければ、「人々が求めているもの」に到達するのは難しいのでないかな、と思ってしまうのです。
消費者と企業の間に広がる大きな溝に、橋を架けよう!
ここで困った問題が生じます。消費者と話すための定性調査は、一般的に、恐ろしいほどコストが高く、リードタイムが長く、そのくせ定性調査はハズレが多いのです。営業と違って目に見える結果が必ず出るというものでもありません。P&Gにいた時ですらそれが原因で調査に二の足を踏むことがあったくらいですから、中小規模の会社に所属していたら尚更だと思います。
Consumer is Bossなのに、仕組みが無いせいでそのBossと会話するのは容易ではない。これは由々しき事態です。実際に僕自身、やりたいときに消費者と思うように話せず、確かめたかったアイデアの種が何度も頭の中だけで消えていったことがあります。
ということで、僕はこの仕組みを作っています。サービス名はResearch Demo。
マーケティングの根幹である消費者との会話を民主化したいと思っています。いつでも、誰でも、好きな時に消費者と会話することが出来る。気が済むまで何度でも。業界の常識を遥かに下回るコストなので、中小規模の会社でも気軽に手を出すことが出来ます。テクノロジーの力で、消費者と企業の間に存在する大きな溝に、橋をかけようと思います。
目下12月のα版ローンチに向けて全速力で走っております。α版は無料でお使い頂けるので(ご協力頂きたい条件がありますが)、消費者と常に会話できることによる恩恵をバシバシと感じて頂ければと思っております。スペシャル特典もある(かもしれない)ので、これを読んで少しでもご興味をお持ちになって頂ける方は、ぜひ連絡頂ければ幸いです!僕としても、記事に共感して頂けた方とお仕事が出来ればこんなに幸せなことはなく、最大限皆様のインサイト発掘に協力できればと考えております!
それでは!石井
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