
電子書籍の付録で、成功したもの、そうでもなかったもの
電子書籍といってもいろいろですが、本体だけで完結しているものもあれば、付録が必要なものもあります。とくに、技術系の電子書籍となると、いろいろ考えることになります。
技術系電子書籍に欠かせない「ソースコード」
MacのScriptプログラミングを行なって、SafariやPages、Keynoteなどを操作するマクロ言語「AppleScript」に関する技術的な電子書籍を中心に刊行してきました。
説明については電子書籍本体だけで完結していますが、本文内で扱っているScriptやら何やらを、直接使えるよう、Zipアーカイブにまとめて「付録」としてダウンロードできるように提供しています。
本文からのコピペで動かしてください、というのはご無体な話なので、付録ダウンロードはもはや必須といってもよいでしょう。これにともない、展開できる電子書籍ストアが制限されるという話にもなっています。Amazon Kindle向けにこうした構成にできないので、いまひとつKindle向けに腰を入れられないでいます(テキスト検索できないのもいまひとつです……組み方次第のようですが)。
付録ソースコードについては、ユーザー名とパスワードを書籍内に書いておいて、その情報をもってWeb上からダウンロードしてもらう、という手もないではないのですが、未来永劫Webサイトを置いておけるかは不明なので、いまひとつです。
ソースコードの有無が電子書籍の販売に有効に働くかどうか、という話は計測できませんが、ウチの電子書籍のような内容だと、ないとおかしいでしょう。
スマホ向けアプリ(iOSアプリ)
コマンドリファレンスのiOS版を付けたものもあります。主にPDFで、Mac/PCや画面が大きめのタブレットで読んでいただくことを想定しているものであるものの、スマホ版(iOS版)アプリを付けたこともあります。
書籍のスマホ向けアプリをわざわざ開発するというのも手間ですが、iOS向けならこの世に一番手軽に作れる環境があります。しかも、わざわざApp Storeに出して審査を受ける必要もなく、どこにでも置いておけるという代物です。
それが、Claris FileMaker Goです。
もともとは、PC/Mac向けのデータベースアプリケーション「Claris FileMaker Pro」ですが、このClaris FileMaker Proのデータベース書類をオープンして実行できるiOS/iPad OS用の実行専用アプリ「Claris FileMaker Go」は無償でダウンロードできます。
■Claris FileMaker Go 2023
https://apps.apple.com/jp/app/claris-filemaker-go-2023/id1660969871
■FileMaker Go 19
https://apps.apple.com/jp/app/claris-filemaker-go-19/id1484857908
そして、データベース書類はどこででも配布できますが、Claris FileMaker Goでオープンすると、アプリとして動作します。あの、アプリストアを通さないとアプリの配布も何もできないiOS環境にしては、やけに自由度が高い運用ができるのが、唯一このClaris FileMakerです。Claris FileMaker Goについては、iOS/iPad OSに標準装備してほしいぐらいです。
Claris FileMaker Pro/Goなら、データを閲覧したり、メニュー画面を行き来する程度の内容であれば、ほぼプログラミングなしでコンテンツを作成できます。データベースを「ゴリゴリに仕事をするもの」から、「コンテンツビューワー」として位置付けたことにより、電子書籍のオマケとして成立しそうな雰囲気に。
もちろん、いきなり本命の電子書籍で試さずに、iOSアプリ版の書籍をオマケにつけてみたり、iOSアプリ版を単独で販売してみたりといろいろテストしてきました(iOSアプリ版は若干値段を下げてみました)。付録としては悪くない感触ですが、単体で電子書籍プラットフォームとして成立するかどうかは、ちょっと心許ないところです。
アーケードゲーム「戦場の絆」の歴史をまとめた電子書籍「僕らの15年戦争」では、スマホユーザーが多いと想像され、PDFをそのまま見られない(画面が小さくて)ケースもあると考え、スマホアプリ版を添付しました。このために、半年以上かけていろいろテストをしてきたのです。
FileMakerのスクリプトを中に組み込めるので、かなり凝った動作も行えます。筆者へのご意見メール送信機構を入れたり、機械学習モデルを突っ込んで、写真から連邦軍/ジオン軍の機体であるかを判定できる「連ジ判定」といったお遊びのコンテンツもつけてみました。
これがうまく機能したかどうかは不明ですが、個人的にはよかったと思いますし、「お値段相応の内容である」と納得していただく分には有効に機能したと感じます。
その一方で、FileMaker GoのAndroid版が存在しないため、そこが弱いといえば弱いところでしょうか。ないものはどうしようもありません。
PC/Macをお持ちであれば、Claris FileMaker Proには45日間の無料お試し版があるため、まずはそちらでデータベース書類を作ってみて、iPhone/iPadに書類を転送して、どのように動くかを確認してみるとよいでしょう。
理解到達度テスト
ちょっと価格帯が高い書籍シリーズ「Cocoa Scripting Course」において、職場で仕事の一環として購入し、職場に言い訳をできるのではないかと考え、到達度テストというものを巻末につけています。
電子書籍本体と別々に提供しているものではありませんが、作る側からすれば「付録」です。
同シリーズは仕事でAppleScriptを使っているユーザーを中心に、堅実な売れ行きを見せているシリーズですが、この理解到達度テストが送られてきたことはまだありません。
かなり簡単な内容ではあるのですが、どうもこれは求められていないオマケであったようです。