戦場の絆 マイ・ベストバウト
「戦場の絆」、それはガンダムのMSのコクピットに搭乗して、半球型のドームスクリーンに映し出された臨場感抜群の世界で、味方と連携して敵を倒す的なアーケードゲームです。2006年から2021年まで15年間稼働。上位プレイヤーの華麗な試合がある一方で、下位プレイヤーにも感動的な試合がありました。
下エリアでも熱戦
元帥、大将、中将、少将、准将、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉、曹長、軍曹、伍長、上等兵、一等兵、二等兵……と、階級が上から下まである中で、階級がずーーっと下のほうの、軍曹ぐらいの階級。そこはリアル初心者と、おしのびでプレイしている上級者が下手なフリをしてプレイしている、カオスな世界。
そこでは、いまでも思い出される熱戦がありました。プレイしだして3か月ぐらいの時期でしょうか。
戦場の絆のステージは、20ステージほど。毎日ひがわりでステージが切り替わり、地上、宇宙、コロニーなどさまざまな「ガンダム」世界の戦場を再現したステージが用意されていました。その日は、地上戦の「ニューヤーク」。
戦場の絆では、4vs4から8vs8までさまざまな人数のオンライン対戦が行われており、その日は4vs4。平日の夕方に、池袋で勉強会までの時間潰しのためにフラっと入ったゲームセンターで300円を入れて1プレイ(2戦)。
実質2vs4の超ハンデ戦
自軍は連邦軍。まだ格闘機による3連撃ができず、ボイスチャットの使い方もよくわからず、ただ乗って出撃するぐらいの、連携も何も成立していないレベル。人間でいえば、ハイハイで這い回っている赤ちゃんレベルです。
前衛の格闘機に乗って敵を蹴散らす真似はできないので、敵拠点を叩くタンク「ジムキャノン」に搭乗。
他の2機は格闘機に射撃機体。残る1機が……黄色い機体「ジムトレーナー」。初心者向けに調整された、動かしやすいものの派手な性能のない練習機です。
たまーーに、上手なプレイヤーが冗談半分で乗ったりしますが、そのプレイヤーは本当に初心者っぽい感じでした。
試合がスタートすると、敵がタンクを含まない「フルアンチ」編成であることが判明。
戦場の絆は、2km x 1kmの試合ステージに、サッカーのゴールよろしく、動かない「拠点」が設置されており、拠点を撃破すると大きなスコアが入ります。この「拠点」を落とし合い、邪魔し合うというサッカーのようなゲーム構成。
拠点攻撃能力を与えられたタンクは敵にとっては「高脅威目標」として真っ先にマークされる存在で、敵タンクを邪魔する防衛的サイド(アンチ)と、タンクを護衛してうまく拠点攻撃を進めるサイド(護衛)の連携が勝利の鍵になります。
そんな拠点攻撃を捨てて、タンクなしの編成で攻めてきた敵軍。
いかんせん、こちらは1人リアル初心者、自分がぴよぴよプレイヤー。実質、2vs4みたいな試合内容で、自分が乗るタンクもいいように何度も撃破されます。
初心者が無意味に拠点に向かった
「もうこれ、試合として成立してないんじゃないの?」
という感じで、スコアも大差がついていました。そんな中、誰かが拠点を攻撃しているというアナウンスが!
ジムトレーナーに乗った初心者が、敵拠点まで行って手当たり次第に発砲しているようでした。ただ、ジムトレーナーごときの火力では、逆立ちしても拠点は落ちません。
ふたたび、2vs4の肉弾戦に没頭する他のプレイヤー。このハンデ戦でも互角に立ち回っていた友軍プレイヤーは、相当に上手な人たちだったのでしょう。
その裏をかいて自分も敵拠点に向かい、拠点攻撃をはじめました。
初心者プレイヤーの拠点乱入で虚をつかれたか、タンクの心が折れてゲームを捨てると思っていたのか、敵機の対応は後手に回りました。
自分は、ステージの最奥部まで移動しながら敵拠点を撃破。スコアは、かなり挽回しますが、まだまだ敵が有利です。
無意味な拠点砲撃とロックオン
やがて敵拠点付近では、むちゃくちゃに弾を撃っているジムトレーナー、敵拠点への砲撃をねらう自分のジムキャノン、自分を追いかけてきた3機の敵機。撃破寸前の瀕死の状態で拠点に駆け込んできた敵機。そして、それらを追いかけてきた友軍機2機が入り混じった、3vs3の乱戦状態に。
拠点は一定時間がたつと復活し、再度、砲撃することが可能になります。拠点に帰ると一定時間で体力が回復しますが、拠点が撃破された状態では回復できません。
自分には、1つの目算がありました。ゲームは下手でしたが、バカなわけではありません。
撃破状態の拠点に向けて、「無意味な砲撃」を続けました。
なぜか?
けっこう、砲撃の音が大きく他の音をかき消すので、敵拠点付近で隠れている瀕死の敵機に友軍機が攻撃を仕掛けても、気づかれにくいだろうという目論見です。当時はボイスチャットの使い方もわかっていなかったので、言葉で連携できない状態。友軍機がこちらの意図に気づいてくれるか、1つの賭けでした。
敵拠点付近には狂犬のように無意味に砲台ユニットに攻撃をしかける初心者のジムトレーナー。
「もしも、この初心者が瀕死の自分に気づいて攻撃してきたら?」
そう考えて瀕死の敵機はジムトレーナーから距離を取り、反対側で無意味な砲撃を続ける自分のほうに移動してきました。
えんえんと無意味な砲撃を、ステージの外周部で続ける自分。バカなふりを演じ続けます。無意味な砲撃音と煙で戦場は混乱状態。
この間、何度も瀕死の敵機にわざとタンクで無意味にロックオンを繰り返して、敵機のコックピットにロックオン警告音を鳴らしまくります。そのたびにビクビクおびえる瀕死の敵機。砲撃音とロックオン警告音によるめくらまし、が自分の意図でした。
そして……
再出撃した友軍機が、こっそり海の中を遠くから接近して、敵拠点付近にいた瀕死の敵機をバズーカで撃破。
瀕死の敵機を撃破。僅差でこちらの勝利!
こんな勝利は、その後もありませんでした。記憶に残る、感動的な勝利です。
その後、2戦目にタンクに乗って袋だたきにあっていた、あの初心者プレイヤーさん、どうしているでしょうか……。トラウマになっていなければよいのですが……。
「戦場の絆」15年の歴史アーカイブをまとめた本を出しています。