トンネルを抜けるとハッテン道の駅であった。その先には、地方出張ムラムラリーマンが待っていた。
小説
人口10万人の都市、
家賃5.5万円のアパートの僕の部屋には、
ポケモンのぬいぐるみと、
脱ぎ捨てたケツワレが落ちている。
地元の公立大を卒業し、金融機関で働く。
27歳。Xのフォロワーが2000人いる。
毎日、鏡の前で、
下着姿の自撮り、たまにケツワレの自撮りを上げているうちに
フォロワーは増えていった。
先月、地元企業の社長との接待が多い支店に飛ばされて「10km先までいつも常に同じ顔ぶれのナイモン」を見ることになった毎日に、退屈していた。
そんな僕には毎週、一つの楽しみがある。
金曜夜にナイモンでハウリングをすること。
この日だけ、僕は顔出しをする。
この日だけ、僕はケツワレを履いて出社する。
そして、うまくいったらマッチした人と出会う。
狙い目は、
東京圏から地方出張で来たムラムラリーマンだ。
出張で来たムラムラリーマンに対しては、
スピーディな返信技術が命だ。
僕はこの街のビジネスホテル事情や、
ビジネスホテル周辺の
誰よりも詳しい。
誰よりも早く、「会いたい」ボタンを押して
誰よりも早く、ビジネスホテルに向かう。
「フッ軽です。ケツワレ履いてます」と書いて。
でも、うまくいかない日は、
中古のN-BOXに乗って、
トンネルを抜けた先にある、
「道の駅ときわ」へ。
道の駅の日は、妥協だ。
ここの駐車場でハッテンをしている。
ここには、
変わり映えのないメンバーが集まる。
道の駅に来る顔ぶれはだいたいいつも同じ。
それでも釣れない日は、
中古のN-BOXで隣の市にあるイオンシネマが
結構夜遅くまでやっているので、
ドライブをしに行く。
イオンシネマまでのドライブ中は、車内で
ミセスを聞いたり、Vaundyを聞いたりする。
たまに、「140字以上のゲイ」という
おかしなゲイがやってるPodcast?を聞いている。
リスナーのお便りが面白いので、暇な時にたまに聞きたくなる。
僕の優先順位で示すと
出張ムラムラリーマン>道の駅>深夜のイオンシネマ、という構図だ。
時間があれば、新幹線に乗って都市部の
ハッテン場のケツワレデーに行く。
ここの街から出たいけど、面倒だし。
だって転職活動とか、考えることが多い。
それよりも、いま手っ取り早く性欲を満たしたい。
僕のGmailは「マイナビ転職」からのメールと
「CoolBoys」からの雑多なメールで埋め尽くされ、
僕の混乱した脳内のようだ。
そんなある時、Xを通じて出会った、
板金工場で働く年下の24歳リクと寝た。
事後に2人でTwitterを見ていて
「道の駅で発展とか、
ありえないっすよね」とリクは漏らす。
なぜか突然、
恥ずかしくなった。
リクは若い。
そして、ゲイウケする顔をしている
リクは、駐車場に来なくても、いくらでも体を重ねることができるから。
恥ずかしくなった。
自分の過去は隠そう、
そしてもう、この街を出よう。
2年後。
僕は29歳になった。
東京のウォーターサーバー販売会社に転職した。
引越しトラックにわずかな荷物や家具を乗せて、
川崎市の稲田堤駅に住んでいるが、
ケツワレデーに行けるだけの、
金銭の余裕は無くなった。
そうだ。
5月の連休で、在来線に乗って
あの人口10万の街に帰ってみよう。
昔、ためたポイントを使ってレンタカーを借り、
道の駅ときわのトイレへ。
爆サイによると、同年代くらいの人がいるかもしれない、という情報を得た。
トイレの前でもう一度スマホを見て、トイレに入る。
なんだか可愛い男がいる。
そこには前より腹が出たリクが待っていた。
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