陰鬱ゲイX短編小説「柔道部ユウタのインスタ」
「新しい家族です」。大学の同級生ユウタに子どもが生まれた。彼のインスタのストーリーで知る。少し太った28歳の彼のインスタを見ると、フォローしてるのは「手取り18万の節約術」など節約系ばかり。一方、僕はインスタで脱ぎたがり台湾人の筋肉ばかり見てOnlyFansに多額の課金をする。
当時、仙台の牛角のバイト代で買った新作の「iPhone5s」をいつも自慢してきたユウタは、倹約家に変身した。大学で倹約家だった僕は、OnlyFansの課金とぼっち系男子配信者への投げ銭が止められない、浪費家に変身していた。
青森市出身の僕と、川越市出身のユウタは、18歳の時に仙台の大学に入学してから知り合った。僕は中学から続けたバレー部を高2で辞め、一橋大を目指して受験勉強に励んだ。ゲイの出会いを求めとりあえず上京したかった。堅実で頭がカタい父親や学校の教師らは、国立大進学しか許さなかった。周りに塾は無く、僕は歌い手のニコ生を聞きながら「受験サプリ」や赤本で必死に勉強。時々ガラケーで「Gradar」を開いて近所の男を探したが、出会うことはなかった。
ユウタは柔道一筋。地元の偏差値66の高校に通い、中学から塾と柔道を両立。そんな僕もユウタも「第一志望」に落ちた組。入学のオリエンテーションや第二外国語の授業で知り合い、受験に落ちたことの話や仮面浪人の計画の話などで意気投合した。ユウタは部活が忙しく、さらに牛角で忙しくバイトしてたので、授業中はいつも寝ていた。柔道で鍛えたがっしりした体で、太くて男らしい肩や腕、体に似合わぬあどけない顔を見て、自分の細い体がコンプレックスだった僕は、彼に好意を抱いた。
でも告白することはできない。ユウタは乃木坂やAKBの誰かが好きらしく明らかにノンケだろうと思った。僕は、ゲイとしての出会い活動を本格化させようと、大学1年の夏、青森の実家に帰省した時に親に入学祝いでGALAXY-S4を買ってもらい、スマホデビュー。
すぐダウンロードした「Jack’d」で近くにいる同い年くらいの男を探した。172-53-19と書いたら、メッセが大量に来た。驚きと喜びがあり片っ端から返信しまくった。167-66-21の大学4年のリュウジと会う約束をした。
仙台のフォーラス前で待ち合わせ、国分町の安い飲み屋に行く予定を立てた。フォーラス前に現れたリュウジは、シワのついたH&Mの紺色のシャツを着ていて、写真よりも太っていて、肌が荒れていた。でもそんなことはあまり気にならず、楽しく店で飲んだり食べたりして、すぐに彼を好きになった。彼も、僕のことが「タイプだ」と言ってくれて、自分の価値を確認できて、なぜか泣きそうだった。
彼の家に誘われた。こくりと頷き、ムラムラは最高潮に達し、軽めのバニラを終えると「あること」に気づく。
僕が柔道部のユウタに抱いてた好意は、ただのムラムラだった。
ユウタなんてどうでも良くなった。そこからの数年は、ゲイとしてゲイっぽい遊びに走った。元々、出会いたくて青森を離れたのもあった。リュウジを含む、3人ほどと付き合ったが、半年以上続く人はいなかった。
大学4年の夏、ナイモンを開いて、週末に会えそうな男を探していた僕は、大学で久々にユウタに会った。彼は就活から帰ってきたところで、学内ではいつもジャージを着ていたが、「DIFFERENCE」のオーダースーツを着こなしていた。真面目に部活に取り組んだ体育会系の彼は、就活を一瞬で終わらせ、名の知れた大手インフラ企業に内定を取った。せっかく再会したからということで、国分町に飲みに行ってみた。話を聞くと、最近彼女もできたらしくニヤニヤして写真を見せてきた。インスタをフォローしあうことになった。
惨めだった。遊んでばかりで、就活が上手くいっていない自分が、惨めになった。就活のために深夜バスで東京に何度も行くが、うまく進まないストレスで、東京の品川の発展場に入り浸るようになった。「洋服の青山」で買った安いスーツを着て、面接を受け続け、都内の中小企業に内定が取れた頃には、秋が来た。
この頃から、僕は昔のようにモテなくなり、焦りを感じた。細身でかなりモテた僕は、毎日のように、国分町のうるさいゲイバーで酒を飲んで、ラーメンを食べていて、腹が出てきて、肌も結構荒れてきた。でも、19歳の時に味わったみたいな「モテ」が欲しい。
そうだ。「ユウタ」みたいなカラダになれば、この世界ではモテる。
そのことばかり考えて、就職してからエニタイムフィットネスに週3回通ってみた。筋トレYouTuberのいう通りにガムシャラに筋トレをした。
34歳の彼氏と中野区で1年半同棲した後、彼の浮気が原因で別れた。28歳の現在はウォーターサーバーを販売する企業に転職。今は仕事より、筋トレに集中したい。そして発展場でチヤホヤされたい。280万円の貯金を切り崩して、パーソナルジムにも通って、毎日EAAやプロテインを欠かさず飲んでいる。やっと、あの頃の柔道部のユウタみたいなカラダになることができた気がする。やっとだ。達成感があった。これでまた僕は、19歳の時みたいに、モテることができる。
「親しい友達」向けに、自分の筋肉の自撮りを投稿しようと、インスタを開く。あ、ユウタが1年ぶりくらいにストーリーを投稿している。タップしてみる。「新しい家族です」。
※1995年生まれの筆者の身の回りに実在した、ノンケやゲイの姿を見て、イメージを膨らませながら書いたものを再編集しました。
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