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「万引き家族」は問う

今月の中旬、泊まりの出張があり空いた時間に噂の『万引き家族』を観に行った。是枝監督のディープなファンという訳ではないが、「世界で評価された日本映画」を観ておくべきだろうと思いぶらりと駅に近いシネコンに、ワインの小瓶片手に潜り込んだ。

家族とは何か。絆とはなにか。血のつながりなのか、愛情なのか、セックスなのか、金銭的つながりなのか、一緒に食卓を囲むことなのか、時間を共有することなのか、一緒に買い物をすることなのか、互いに感謝することなのか、家族揃って海に行くことなのか、教育を受けさせることなのか、価値観や罪悪感を共有することなのか。

世の中は様々な問題に満ちていて、人生という時間の旅をしながら人は問題と向き合ったり、逃げ出したり、スルーしたりしながら大人になっていく。

この映画の配役はバツグンに良い。ばあさん役の樹木希林も家長、治のリリー・フランキーも、母・信代役の安藤サクラも歳相応かそれよりもちょっと汚れて見えて、いかにも軽犯罪に手を染めてきた風に、どこかで道を踏み外してしまった人間のように映る。

それに対して信代の妹・亜紀役の松岡茉優と、息子・祥太役の城桧吏と、DV家庭から拾われて(誘拐されて)きたゆり役の佐々木みゆ、特に子役の二人は美しい。

英語で他人の子を褒める時、”Beautiful kids/children"と表現する場面を映画でも実社会でも目にしたことがある。日本では「可愛いね。」で括ることが多いけど子どもは本来”Cute”ではなく”Beautiful”なのではないだろうか。

小さいから、可愛いから子どもなのではなく、美しいから子ども。

終盤に登場する警察が、正論で家族を尋問するのだけれど、綺麗ごとを並べる警察に美男美女を配したのはおそらく監督のウィットなのだろう。

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ストーリーは淡々と進んで行く。治や祥太が万引きに手を染める場面に、観るものも罪悪感を刺激されちょっと鼓動が高鳴る。

最初から「万引き家族」に幸せな結末が待っていとは思えない。ちょっとした幸福感はほんの一瞬で過ぎ去って行き、それより大きい悲しみが家族に降りかかる。

治が道を誤ったのは何がきっかけは何だったのか、子どもたちはまともな大人になれるのか、こんな家族が本当に東京に存在しているのではないか。観ている最中も観た後も問いはぼくの中で膨らみ続けた。

家族という社会の最小単位のコミュニティが、核家族化が進み一人とか二人であることが当たり前になってしまった日本。年金受給者を少ない働き手で支えなければならなり、所得格差がどんどん開いている現実。

軽犯罪は許せても、税金も納めず国民の為の政治をしない政治家たちを許しちゃいけないのではないか。人と人の能力の差なんて僅かしかないのに何で格差は広がる一方なのか。

淡々と、サラリと、様々なことを考えさせてくれた『万引き家族』。この夏オススメの作品だ。


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鰯 十三
2019年はフリーターとしてスタートしました。 サポートしていただけたら、急いで起業します。