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"Baduizum" ってなんだろう〜 ブラックミュージックに育てられた僕からエリカ様へのラブレター〜


2017年10月7日(土)、僕は豊洲でエリカ様のライブを初めて体験した。僕たちブラックミュージック好きな人種にとってのエリカ様とはエリカ バドゥ(Erykah Badu)のことであり、あの顔も身体もとってもキレイな女優さんの事ではない。

彼女の音楽に初めて触れたのは1997年にリリースされたファーストアルバム”Baduizm”の頃。ジャジーなフローに乗せた名曲”On & On"の衝撃に若かりし僕は吹っ飛ばされた。当時アメリカの音楽業界ではネオソウルとかニュークラシックソウルと呼ばれる、アコースティックな演奏とヒップホップやラップのビートを融合させた音楽が流行っていて、このムーブメントの中心に居たのがディアンジェロ、ラファエル サディーク、マックスウェル、そしてエリカ バドゥなどの今でもバリバリ活躍しているレジェンドたちであった。

そんな彼女が来日すると知ったのはフェイスブックでフォローしている音楽情報サイト”bmr”のニュースを通じてであった。エリカ様が10月に来日され、六本木にあるビルボードライブでコンサートが開催されるという内容で、価格は4万3千円(!!)とのこと、どうしても聴きたいという願望と自分の財力の狭間でどうしたものかとしばらく考え込む日々が続いた。彼女はライブでお香を焚いたり、変わった衣装を用いたり、かなり凝った演出をすることで有名なのだ。でも4万円…でも今回を逃したら…

果報は寝て待て、とはよく言ったもので暫くして豊洲で開催される”Soul Camp 2017"にもエリカが出演するとの情報が入ってきた。価格はぐっと下がって1日券で1万3千円、きた~これだ。コンビニでチケットを速攻で購入し、iPadに彼女の音楽を詰め込み、その日が来るのを待った。

ライブ当日、他に観たいアーティストは彼女の前に演奏するロイ エアーズだけだったので、会場に入った(キャンプイン?)のは15時頃だった。屋外のDJブース前で少し飛び跳ねてみたり、シンハービールを飲んだりしながら僕はまったりと作戦を練り始めた。おそらくエリカ様の人気はこの日のアーティストの中でダントツに高い。彼女の前に演奏するロイ エアーズのステージが始まる際に良いポジションを確保し、終わってもそのまま居座り続けるべきであろう。3時間以上同じ場所に居るのならトイレに行きたくなるビールをこれ以上飲んではいけないな。よし、腹は決まった。僕は人工芝のフットサルフィールドに腰を下ろし、持参した小説を読みながらしばらく過ごした。こうして作戦は実行段階へ移行する段となった。

無事、ロイ エアーズのステージが始まる前に僕は最前列のポジションを確保し、ロイの登場を待った。スタッフの方々がステージのセッティングをし、バックバンドが、そしてロイが登場した。ある程度想像はしていたけど、完全におじいちゃん・・・帽子もオシャレなんだか烏帽子なんだか。正直、判断がつかない。大丈夫かなぁ。

僕の心配を他所に演奏が始まった。誰もが知る名曲”My Life is Sunshaine”だ。
おぉ、かっこいい!さすがレジェンドが連れてきたバックバンド、ドラムもシンセもベースもバランスよく主張しつつも調和がとれている。

そしていよいろロイが電子ヴィブラフォンを鳴らすべくバチを振りはじめたのだが…音が出ない!! ロイ本人が接続ケーブルを確認したり、スタッフが焦ってバタバタと動き回り、数分後になんとか復旧。演奏を続けていたバックバンドにロイのヴィブラフォンがようやく加わり、次いで彼の声も加わった。
見た目に似合わぬ繊細なヴォーカルだ。さっきまでただのおじいちゃんにしか見えなかった人が急にセクシーなジェントルマンに見えてくるのだから音楽とは不思議なものだ。結局彼らは4曲を各15分ずつかけて演奏し、ステージから去っていった。ロイのステージを観れて良かった。ありがとう。

それから暫くは本を読んだりしながらステージが作り替えられていく様子を何と無く眺めていた。ステージの中央、エリカが立つと思われる場所にもパーカッションやらリズムマシンがセッティングされ、数十分かけて準備が整った。オーディエンスも続々と入場し、ステージに近いところから人で埋め尽くされてゆく。

数人のバックバンドメンバーが拍手で満員の観客に迎い入れられ、いよいよ待ちに待った瞬間が近づいてきた。まずはCD化されていない最新作”But You Caint Use My Phone”の1曲目、”Caint Use My Phone”のイントロ(電話の電子音)が流れ、会場の雰囲気が一気に彼女の世界観に染まる。観客はエリカの作ったフローに身を委ね、身体を動かす。

1曲目が終わる頃、ようやくエリカがステージに登場した。「キャー」「エリカ様~」「イェ~イ」、僕だけでなく会場全体の、1000人以上のオーディエンスの心拍数が上がっていることを感じる。

この日の彼女の服装は大きな帽子を被り少し軍服っぽいイメージ、インスタにアップしていた通り、口から謎の細いチェーンが伸びている。

ステージの上から彼女を包むように当てられる三角錐の照明の効果もあり、彼女はまるで独裁者のように僕の目には映った。実際、曲の途中で彼女は突然腕を横に突出し、”Stop"を掛け静寂を作り出す。

曲が終わると、ウサイン ボルトのようなトロフィーポーズを毎回して見せる。僕の心はその度に心地いいような、ざわめくような、少し複雑な感じになった。(エリカはステージに降りた神なのだろうか。)

前半はかなりストイックに彼女は歌い続けた。古い曲も比較的新しい曲も違和感なく我々観客の耳に滑り込んでくる。彼女が扱う楽器はリズムマシンのみ。僕も妻も大好きな #矢野顕子  さんはまるで自分の声とピアノを同列の楽器のように扱うけれど、エリカも自分の声をひとつの楽器のように、リズムマシンと同列に使いこなすことが出来ている。

JAZZだから、R&Bだから、ソウルだから、ヒップホップだから、みたいなジャンル分けする行為はホンモノのアーティストには不要であり、失礼な行為であるような気さえする。

約2時間に及ぶステージはあっという間に終盤を迎えた。始めの頃は神にさえ見えたエリカ様だが、服をめくって腹を見せてみたり、最後には股間の辺りをタオルで拭くような仕草から、タオルを観客席に投げ入れ、”Smell, Smell(lol)”なんて言う始末。。。神どころか「ビッチ」なのかも。なんでも良いや、多分僕は死ぬまで彼女から目を離すことは出来なそうだということを確信し、この上なく素晴らしかった楽曲の数々を頭の中でリフレインしながら電車に乗って帰路に着いた。

この日演奏したソングリストは記事を見る限り、ビルボードライブでの内容とほとんど同じであった。

ついでにSoul Campに関する記事はこちら。

ひとつ書き忘れていたことが。ステージ上で彼女は”No More War"と何度も何度も言ってくれた。ヒップホップ系のアーティストはよく他のアーティストや政治家なんかをディスる訳だけれど、彼女はディスではなく”No More War”という明確なメッセージをオーディエンスに送ってくれた。彼女を好きになる理由がまたひとつ増えた瞬間だった。

1ヶ月近い日本公演、お疲れさんでした〜
https://www.instagram.com/p/BaDTHNcHvEl/?taken-by=erykahbadu





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鰯 十三
2019年はフリーターとしてスタートしました。 サポートしていただけたら、急いで起業します。