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町田康 告白 に思うこと
久しぶりに長めの小説を読んだ。10年以上前から好きな作家の一人、町田康さんの作品、その名も「告白」。
本を購入したのは多分1年ほど前、“積ん読”状態にあったことを思い出し通勤電車の中で少しづつ読み1ヶ月ほどで読了した。
明治26年、大阪南東部の赤阪水分村で起こった「河内十人斬り」と呼ばれる殺人事件をモチーフとしたこの作品、主人公の城戸熊太郎が弟分の谷弥五郎共に殺人事件を起こすまでの経緯を、熊太郎の自己内対話、彼を取り巻く人々の会話、風景描写を交えて描かれている。
町田さんの作品に共通するのは、非常にリズミカルな文体だ。(そういう意味で辻仁成さんの作品に通じる部分は結構あると思う。)音楽のジャンルで言えばやはりロック。時に激しく、時にセクシーに、時にスローバラード調で。時代物であるのに時織り交ぜられる現代語の解説やミュージシャンらしい比喩表現、ちょっと変わった擬音の使い方。いつも通りだな、と頭で解ってはいるつもりでも思わずニヤッとしてしまう描写が随所に織り込まれている。
「告白」は800ページを超える作品ではあるが、彼の文章が織りなすビートに載せられたら一気に読まずにはいられない、町田康ワールド全開の一冊だ。
熊太郎は博徒であり平たく言えばチンピラだ。小説の中で彼は本当は頭は良いのだけれど気持ちを言葉にするのが苦手な、もの凄くもどかしいタイプの人間として描かれている。若い時分に心に大きな傷を負う出来事に遭遇し、彼は汗水垂らして働くのも、村の祭りで踊るのもかっこ悪いと感じ博徒になったとされている。だけど本当は真面目に働くべきではなかろうかと常に思い悩み、好きな女に声を掛けることでさえもままならない。読むに連れ彼の思考と読者の思考はじわじわと一致し共感せずには居られなくなってゆく。熊太郎の正義は僕の正義になり、愛する対象は美人な妻、お縫ではなく弟分の弥五郎になってゆく。
殺人事件を描いているのにこんなに清々しい気持ちを残してくれるこの本は間違いなく名作だ。少し嫉妬のようなものを感じるのは僕にも物書きとしての自覚が出てきた現れなのだろうか。
恥ずかしながら町田さんの音楽をちゃんと聞いたことはほとんどない。パンク系と聞いて変な先入観をもっていたのだろう。今日の忘年会に行く電車ではYoutubeで彼の動画を見ながら行くことになりそうだ。
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