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其の弐 僕とインターネットビジネス

 その頃、僕はFacebookの広告がきっかけである自己啓発プログラムに参加した。約3万円、半年間のプログラムでプログラムの指導者はアメリカで生活する自称チームビルディングのスペシャリスト。人間は習慣の生き物であることや少し前にアメリカで流行したスピリチュアル系の考え方、メンタルのことや感情の整え方などなど様々なジャンルのレクチャーを受けた。(おそらくこのドキュメントを読んでいる読者の方は「何か怪しくない?」とお考えであろう。ご明察、だが僕が騙されていると気づいたのはしばらく経ってからなのでそのまま読み進めていただきたい)元々アメリカで化粧品の営業をやっていて営業成績をいくら揚げても会社に認められなかったという彼の発言は、サラリーマン生活にウンザリしている僕の心に響くことが多々あり、彼が無料で提供している短めのプログラムの受講で試してみて魅力があるように感じたため妻に内緒で参加したのだ。今にして思えば唯一尊敬できていた先輩が近くに居なくなり不安に駆られていたため、その穴埋めをしたかったのかもしれない。

 このプログラム、基本的にコーチ役である彼が直接受講者に教える場面はそれほど多くはなかった。週に1回程度出された課題についてプログラム参加者同士がFacebookのグループページに日々の進捗を報告したり、Skypeを使ってディスカッションをしたりして効果を高め合うものであった。課題の内容は書籍を購入してそこにあるワークをやることであったり、チェックシートで自分の特徴を洗い出したりと結構重いものが多く途中何名もの落伍者が出たものの、職種も年齢も異なる仲間と時に真剣に、時に冗談交じりにディスカッションをする行為は思っていた以上に楽しいものであった。(その頃知り合った仲間のうち何人かとは未だにFacebook上で付き合いがある。)僕は朝それまでよりも早めに起き、通勤電車の中で新聞を読むことの代わりに日々の課題進捗を投稿し、人生のプランを自分で立てたりすることを習慣とした。サラリーマンとして働きながら半年間のプログラムをこなし、最後には少々恥ずかしい「夢を語る」動画をYou Tubeの個人サイトにアップした。プログラム終了後、「卒業式」と称したイベントが都内の貸しスペースで催され、20名程度の参加者と件のコーチが一堂に会した。今まで直接会ったことのなかった仲間と顔を合わせ、打ち上げの飲み会にも参加した。コーチからはプログラムへの継続参加を促されたが、飽きっぽく新しい物好きの僕にとって同じプログラムを何度も受講することは苦痛であるのでその誘いには乗らなかった。だが折角知り合った仲間とバラバラになるのには少々もったいないようにも思え、彼が提供する別のもう少し安価な「健康と習慣に関する」プログラムに参加することにした。

 こちらのプログラムで彼が推していたのは「グルテンフリー」なライフスタイルであった。テニスが趣味の僕は最近まで絶対王者として君臨していたノバク・ジョコビッチが、実は小麦アレルギーを持っており、食生活を徹底的に見直すことでテニスの試合でのパフォーマンスを劇的に向上させたことは知っていたが、自分で実践しようとは思っていなかった。まぁモノは試し、小麦を摂取しないことぐらい何とかなるかと思い、昼食はメイソンジャーサラダとおにぎりに替えた。朝は寝起きに水を飲み、軽く運動をしたり、ランニングをしたりした。夜、の食事は帰宅時間に合わせて早く帰れた時にはしっかり食べ、遅くなったときにはごはんは抜いた食事にするよう心掛けた。その結果、身長が160cmしかない僕の体重は約2ヵ月で58kgから10kgほど減った。自分のベストの体重は53kgくらいだろうと思っていただけに結構な驚きであった。ダイエットのコツは、目標体重を設定し達成したら辞めるのではなく、無理のない範囲で食事の量を減らし、運動を行うことにあることを体験的に学べたと思う。このプログラムの終了時にコーチはまたプログラムへの継続参加やユダヤ式資産構築プログラムへの参加を促してきた。この頃からいわゆる「ノウハウコレクター」になりつつあった僕は更なる知識の蓄積を求め、別のコーチ、若しくはメンター(日本語にするなら心の師匠であろうか)を求めるようになっていた。

 程なくして僕は同じくアメリカ在住で年齢不詳、本名不詳の方が作成し、東京にある企業が指導者役を務める2つのプログラムへ参加し始めた。新しいプログラムの目的は「肉体進化」と「資産構築」で、プログラムへの参加者は1000人規模である。プログラムの製作者はもともとアスペルガー症候群(軽い自閉症の一種と考えていただければいいかと思う)だったらしく、裕福な家庭を高校生の頃に飛び出し、ほぼホームレスの状態から独学でビジネスを学び、武道を学び、身体を鍛えながらパーソナルトレーナーを務めたりし、様々なプログラムを開発してきたそうだ。経験に裏付けられた彼の言葉はとても重く感じられ、様々な示唆に富んでいた。学習プログラムはほとんどが音声教材でたまにその弟子の方たちによる映像教材も配信されるスタイル。秀逸なのは毎日配信される「マインドセット」すなわち考え方に関する3分程度の音声教材と、プログラム加入時にはそれほど期待していなかった「知能向上」の音声教材だった。実際に何年も続けて年間数億円の収益を上げ続ける実力、それを裏付ける知識量、やはり一介のサラリーマンである会社の上司たちとは全く違い、人を惹きつける魅力が彼らインターネットビジネスを行う方々にはあった。彼らほど莫大な資産を持ちたいと思ってはいなかったが、感じの悪い上司たちの言いなりのまま定年を迎えることだけは絶対に嫌だ。早く自立して、会社に依存することなく家族を自力で養えるようになりたい、という思いは日に日に増すばかりであった。

続く


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