とある男女の会話 その弐
「きょうの晩御飯は、豚汁です!」
「おおー、豚汁」
「豚汁の具に何を入れるか戦争ってあるよね」
「それはずいぶん平和な戦争だな」
「お雑煮然り、味噌汁然り、汁物の具って家庭の色が出るからね。家庭の味って、もはやその国の伝統みたいなもんだよ。だからさ、夫婦間の食の好みの違いってのはさ、国家間の対話がうまくいくかいかないかの重大局面だと思うんだよね。さーてさて、というわけで我が国の豚汁は何が入ってるでしょう?」
「そんな国家レベルの争いだとは思わなんだが……えーと、豚肉、里芋、人参、葱、蒟蒻、大根、牛蒡、あたりか?」
「基本をついてきたねー」
「他にも何かあるのか?」
「厚揚げ! これは外せない!! あとは、どっさり七味!!」
「厚揚げ」
「そー。美味しいんだからー。あと味噌は甘いこうじ味噌ね。ほら、ご飯よそってー。食べるよー」
「いただきます」
「いただきます」
「ね。どう? どう?」
「……ん。うまいよ」
「それだけー!? 厚揚げは?」
「ふつーにうまい。戦争は起こらなそうだぞ」
「うふふ。知ってる。いつも美味しいって食べてくれるから作りがいがあるよ。ちなみに、オタクの国では豚汁に何を入れるのかね?」
「うち? お袋なに入れてたっけかなー。あ、あれだ」
「なになに?」
「キムチ」
「キ、キムチ、だと…!?」
「たまにだけどな」
「それは、キムチ鍋や! 豚汁ちゃうで!」
「なぜに関西弁」
「えー、キムチー。キムチかー」
「いや、あの人は冷蔵庫の余ったもの全部ぶっ込んでただけだから。俺は普通にこっちでいい」
「……わかった。明日、キムチ鍋にするから」
「え、なんで」
「キムチ豚汁なんか、目じゃないくらい美味しいキムチ鍋つくるから」
「目が座ってるぞ。どうしてそうなった。……まぁいいや。お前のつくるご飯、みんな美味しいし。楽しみにしてるよ」
「うん! あとで土鍋とカセットコンロ、棚からおろしといてね!」
「はいはい」
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